この記事では「懲戒解雇の事例」をご紹介します。
人事コンサルタントの内海正人さんが著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』で解説している内容をもとに編集しています。
懲戒解雇とは
具体的な事例の前に、懲戒解雇とは何かを簡単に確認しておきましょう。
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、重大な規律違反の場合に行う解雇のことです。
懲戒解雇の解雇理由
懲戒解雇の理由には、次のようなものが考えられます。
- 経歴詐称
- 職務怠慢
- 業務命令違反
- 職務規律違反
- 私生活上の非行
- 無断欠勤
- 横領
- 暴力行為
- セクハラ
「協調性の欠如」による懲戒解雇の事例
ここからは、具体的な事例を確認していきましょう。
社員に協調性が著しく欠如している場合、「職務規律違反」「業務命令違反」などにより懲戒解雇とできるケースがあります。
テレビ朝日サービス事件 東京地裁 平成14年5月
- 社員Aはささいなことから興奮し、上司や同僚を傷つける発言をする
- 上司から注意されても反省しない
- Aは刃物を使い、初対面の人に傷害を負わせた
- 会社は懲戒解雇とした
Aはこの処分を不服として裁判を起こしたのです。この事件は明らかにAが悪いのですが、それでも裁判が起これば、対応せざるを得ません。当然ですが、裁判になれば会社はお金、時間、労力を浪費するのです。
裁判所の判決「懲戒解雇は有効」
結果、裁判所は次のような判決を出したのです。
- Aがいると業務に支障が出る
- Aの懲戒解雇は有効
この裁判では、協調性以外の部分も重要な判断要素となっています。ただし、協調性の欠如がこの事件の大きな引き金です。
対策案などの詳細は『協調性がないことは懲戒解雇の理由になるのか?』をご覧ください。
「経歴詐称」による懲戒解雇の事例
多くの会社の就業規則では学歴、職歴、犯罪歴などについて、嘘(詐称)の申告をしたら、懲戒解雇と書かれています。
経歴の詐称には、次のような影響があります。
- 会社と社員の信頼関係を壊す
- 配置や昇進の判断が揺らぐ
- 本来、社員になれない人が入社したので、企業秩序が乱れる
だから、懲戒解雇となってもやむを得ないのです。
炭研精工事件 最高裁 平成3年9月
- 「大学中退」であった本人は、「高校卒」と履歴書に記載して応募
- 社長の面接を受け、採用される
- 入社後に経歴詐称が発覚
- 会社は「学歴詐称」を理由として懲戒解雇
そして、この処分に納得がいかない本人は裁判を起こし、最高裁までいったのです。その結果、次のように判断されました。
裁判所の判決「就業規則の懲戒解雇に該当」
- 大学中退の学歴を隠したこと = 就業規則の懲戒解雇に該当
- 大学中退なら採用しなかったので、重大な経歴詐称になる
つまり、「大学中退」と「高校卒」は違うという意味なのです。さらに、学歴詐称に関しては、
- 最終学歴を高く詐称しても、
- 最終学歴を低く詐称しても、
関係ないということです。だから、いずれの場合も懲戒解雇にできるのです。もちろん、これは学歴だけではなく、経歴全般に関して言えることです。なぜならば、学歴、職歴、犯罪歴などの経歴は、
- 人事評価
- 採用
- 配属
に直接かかわる重大な事項として判断しているからです。
対策案などの詳細は『経歴詐称による懲戒解雇は可能か?』をご覧ください。
「社員の失踪」による懲戒解雇の事例
兵庫県社土木事務所事件 最高裁 平成11年7月
- 社員が多額の借金を抱え失踪
- 2ヵ月後に無断欠勤を理由に懲戒免職
- 妻に懲戒免職の処分通知書を渡し、県広報にも掲載
しかし、家庭裁判所で不在者財産管理人が選任され、
- 懲戒免職は本人に通知されていないので無効
- 「県広報にも掲載 = 通知」とする法的根拠はない
- 退職金は定年まで在職したものとして支払われるべき
と主張し、争うことになったのです。
裁判所の判決「懲戒免職は妥当」
その結果、最高裁は「懲戒免職は妥当」としたのです。つまり、兵庫県側が勝ったのです。
この裁判では、「家族への通知」や「県広報への記載」がポイントとなりました。ちなみに、最高裁の前の高等裁判所では「社員側の勝訴」でした。その内容は、次のような結果です。
- 「県広報に掲載 = 通知」とする法的根拠はない
- 定年退職金に相当する約2000万円の支払い命令
しかし、兵庫県側が「最高裁で逆転勝訴」を勝ち取ったのです。このケースでのポイントは、「失踪に関する退職の条件を事前に決めてなかった」ということです。決めてあれば、争うこともなく決着していたのです。
対策案などの詳細は『懲戒解雇とは?解雇理由や手続きについて解説』をご覧ください。
「遅刻」による懲戒解雇の事例
「遅刻」に関しては、懲戒解雇が認められた列と認められなかった例の2つをご紹介します。
高知放送事件、S52年1月 最高裁
あるアナウンサーが遅刻して、2回ほど番組に穴を空けました。そして、そのために解雇されました。このことが裁判になり、最高裁までいったのです。
裁判所の判決「解雇は重すぎる」
結果は、「解雇は重すぎる」という判決でした。「解雇の理由」と「処分の重さ」のバランスが悪いので、「解雇は無効」となったのです。
東京海上火災保険事件 H12年7月 東京地裁
ある社員は、何度も遅刻を繰り返していました。注意しても改善されません。当然、他の社員からも不満が出ました。そして、会社は解雇し、本人が裁判を起こしました。
裁判所の判決「解雇は有効」
結果は、「解雇は有効」となったのです。「注意し続けたのに改善されなかった」がポイントとなったのです。
2つの判決について
この2つの判決から考えられるのは、「解雇の理由」と「処分の重さ」のバランスです。
- 軽い理由なのに処分が重い 解雇は無効
- 軽い理由でも繰り返される 解雇は有効
ということです。
対策案などの詳細は『遅刻による解雇』をご覧ください。
さいごに
この記事では、内海正人さんの著書より「懲戒解雇の事例」についてご紹介しました。
以下の記事では、解雇に関する法律や具体的な手続きについて解説しています。解雇の進め方について知っておきたい方は、是非参考にしてみてください。
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内海正人
日本中央社会保険労務士事務所代表(https://www.roumu55.com/)
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
Facebook:masato.utsumi1
【参考】内海正人.今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方