「DX」という言葉をご存じでしょうか?

新聞やニュースなどでも頻繁に取り上げられるようになったため、耳にしたことがあるという人も徐々に増えてきていると思います。DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略語で、デジタル技術やデータの活用をもって企業がより効率的な成長を図るというものです。昨今さまざまな企業がこのDXに意欲的に取り組んでいるようです。しかし、各企業のCIOにアンケート調査したところ、効果的にDXが行えていると回答のあった企業はわずか5%しかありませんでした。

そこで今回は、企業が直面するDX問題を解決へ導く「DXMO」の構築支援サービスに携わっているKPMGコンサルティングの塩野拓氏への取材をもとに、「DX」運用が上手くいかない企業が直面している問題点とその解決方法について解説します。

企業ごとに異なる「DX

経済産業省は2018年に、日本企業がDXを進める動きを加速すべく、「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表しました。それに伴い、多くの企業が「DX」への取組みに力を入れるようになってきたのです。

しかし現状では、DXに取り組み始めたものの成果を感じられないという企業が多くみられます。

「DX推進ガイドライン」では、DXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する。それに伴い、業務そのものや、組織・プロセス・企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

これだけ聞いても、ピンとこない方が多いのではないでしょうか。それは「DX」という言葉の示すものが企業の状況によって異なるためです。しっかりと自社にとっての「DX」を定義する必要があるのです。社内での定義を固めておかないとIT部門との線引きが上手くいかずに揉めてしまったり、社内間の協力が上手くいかなかったりといった問題が発生してしまいます。

KPMGコンサルティングの塩野氏は「DX」を自社の文化や風土を考慮したうえで、全従業員に納得感のあるメッセージで定義することが重要であると言います。例えば、
「これまで取り組んできたIT管理(OS/ネットワーク/インフラ(オンプレミスのサーバ類)など)や企業の根幹を支える基幹システムやサブシステムなどはIT。DXに積極的な企業が現在チャレンジしている先端技術(AI・IOT・ブロックチェーンVR、ソーシャル・クラウド・モバイルなど)に加え、数年前より認知されているものの、その企業にとって未経験であるテクノロジーをDX。」
と決めて分類している企業もあると同氏は言います。

このようにDXの定義を決めておけば、「DX」に掛かる投資としての費用と「IT」に掛かる維持費としての費用を分類することにもつながるためです。

DXが上手くいかない原因

DXに意欲的に取り組もうとしているが、上手くいっていない企業には3つの大きな特徴があります。それぞれ見ていきましょう。

①DXが具体的な計画に落とし込まれていない

1つ目は、「DX」の中長期の計画書が具体的でないことです。

そのため部署単位まで「DX」に向けてどのようなことに取り組むべきか落ちてきていないというものがあります。

営業・マーケティングなどの計画書ですと具体的に売上をいくらまで向上させるのか、営業利益率をいくら改善させるのかまで明示されています。しかし、「DX」となると知見がある人が計画書に口を出すことができない立場にいることが多く、

「データドリブン経営を実現させるのである」

「全社でDXを推進する」

といった抽象的な計画になってしまうことが多く見られます。

全社でのDXに向けた取り組みの方向性が決まっていないため、個々がどのようなことに取り組めばよいか分からなくなっている状況が多く見受けられるのです。

②横の連携ができていない

全社の方向性が決まっていたとしても、それがしっかり部門ごとに落ちてきていないといったケースも見られます。その結果、部門ごとが手探りで勝手にDXに向けた取り組みを実行してしまい、全社の行動との整合性がとれなくなってしまいます。

その結果、「二重投資の発生」や、「継続的な予算確保の難航」を誘発してしまい、DXへ向けた取り組みが頓挫してしまうといった事例も見られます。ノウハウの横展開もできないため、モチベーションを下げてしまうといった問題も起こりうるのです。

③IT部門からのサポートが限定的

DXを進めるうえで、IT部門との連携は必要不可欠です。IT部門からの知見をもらったり、意見の共有を受けたりすることは必須になります。

しかし、IT部門は既存の基幹システムやサブシステムの運用保守でリソースを全て使いきってしまっているため「DX」まで労力を割けないといったことが多々あります。そのためサポートが限定的になってしまうのです。

これらの問題から多くの企業でのDXが一時的な取り組みになって効果がないまま終わってしまっているのです。

問題解決のためのDXMO

企業が直面しているDXに関する問題を解決するために、必要なのが「DXMO」という専門組織を社内に置くことだと塩野氏は言います。

「DXMO」とは、各部署やデジタルパートナーと横断的に連携して、全社のDX推進を支援する社内組織です。

デジタルディレクター・データサイエンティスト・ビジネストランスレーターといったメンバーで組織され、CDO(Chief Digital Officer)、CTO(Chief Technical Officer)、CIO(Chief Information Officer)が掲げたDXビジョン・目標を実現するための機能を有しています。

DXMOを自社に配置することにより、DXが上手くいかない原因として挙げた3つの問題解決につながるのです。

中・長期計画や年間単位のスケジュールを策定するときにビジネス・デジタルに関する知見を有したうえで、中枢での経営計画立案活動に参画し、CEOやCIOをサポートします。各部門でDXに向けてどのようなことに取り組むべきかを「DXMO」が細かく策定することができるため、経営の羅針盤になる計画の詳細化・具体化に貢献します。

その結果、各事業部が全社の方針の中でどこを担うのかが、しっかりと整合した状態で把握できるようになります。

DXMOは各事業部に対して、「DXで何ができるのか」「DXが自分たちの仕事にどう関わってくるのか」についての教育、啓蒙を行います。また社内外問わず、DXの成功事例をナレッジとして共有し、各事業部の横連携をとります。そうすることで、すべての事業部がデジタルに対するリテラシーを獲得することができます。

また、各事業部のITベンチャー等の技術に対するベンダーとのコミュニケーションもサポートします。具体的には、ベンダーの高度な技術に関する話を、事業者側、つまりは顧客や消費者側の視点に立って「翻訳」します。これは逆も然りですが、事業部とベンダーの意志疎通が正しく行われることで、ベンダーの技術が顧客に直接訴求することができ、手戻りなど、無駄な技術コストを減らすことにもつながるのです。

DXに関するコミュニケーションは全てDXMOが執り行うことができます。そこで従来のIT部門との棲み分けを行うことで、DXと既存ITとのガバナンスが整頓された形になるのです。

社内に「DXMO」を設置することができれば、DXの推進は飛躍的に加速するでしょう。

しかし、「DXMO」設置に際しても、デジタルディレクター・データサイエンティスト・ビジネストランスレーターなどの人材は、特に立上げ初期は社内擁立が困難であるといった課題なども見られます。

「DXMO」に関してさらに詳しく知りたいという方はこちらをご覧ください↓
https://home.kpmg/jp/ja/home/services/advisory/management-consulting/strategy-operation/digital-transformation/dx-management-office.html

読者へのメッセージ

企業が事業展開としてDXを推進するとき、それが真なる全社戦略として機能しているか否かが最も重要になってきます。そこで、会社全体がDXに対して効率的に動いていくためのガバナンス整備部隊かつ技術屋として「DXMO」があるのです。

忘れないでほしいのは、「DX」はそれ自体が目的ではないということです。多くのDXが業務効率化や事業拡大のために行われていますが、もし既存のITシステムで目的が達成されるならば、さらにDXを行う必要はないのです。ただそれでもDXが必要であるという場合にはしっかりと目的合理で進めていく必要があります。

そして忘れがちなのがDXした「その後」について。業務効率化を目的にDXするなら、空いた時間で何をするのか。我々はDXの「出口戦略」に関するサポートをも行います。DXを、「なぜするのか」「どうするのか」「してどうなるのか」。DXの起点から未来までを骨子として組むことがポイントです。

皆様のDX推進がより良い会社の未来を切り開いてくれることを願っています。

塩野 拓
KPMG コンサルティング

  • 日系Sler、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)等を経て現職
  • 製造・流通・情報通信業界を中心に多くのプロジェクト経験を有し、RPA/AIの大規模導入活用コンサルティング、営業/CS業務改善、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューションベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援DX支援などコンサルティング経験が豊富
  • 執筆
    PRA導入ガイド(中央経済社)
    自律して業務行うAI(日経産業新聞)
  • 講演
    経営にインパクトを与えるITコスト最適化の実現
    -次世代SaaS型ソリューションApptio-(オンラインセミナー)
    経営イノベーションフォーラム 見えてきた次世代RPA
    ~インテリジェントオートメーションへの挑戦(講演)
    IT戦略総合大会(講演)業務自動化カンファレンス(講演)
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