この記事では「経歴詐称による懲戒解雇」についてご紹介します。人事コンサルタントの内海正人さんが著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』で解説している内容をもとに編集しています。
目次
- 経歴詐称で解雇はOKか?
- 懲戒解雇に関する事例
- 経歴詐称の予防策
- さいごに
経歴詐称で解雇はOKか?
先日、ある会社の社長から相談を受けました。新入社員が経歴を偽っていたことが発覚したとのこと。具体的には、「大学中退」だったのに、履歴書には「大学卒業」と書かれていました。そして、今回の採用条件は「大学卒業」だったのです。
この場合、経歴詐称を理由に解雇しても問題ないでしょうか?
社員を採用する場合、応募者は履歴書を提出します。そして、そこには学歴、職歴などが記載されています。当然ですが、応募者は経歴について真実を告げる義務があります。
また、多くの会社の就業規則では学歴、職歴、犯罪歴などについて、嘘(詐称)の申告をしたら、懲戒解雇と書かれています。
経歴の詐称には、次のような影響があります。
- 会社と社員の信頼関係を壊す
- 配置や昇進の判断が揺らぐ
- 本来、社員になれない人が入社したので、企業秩序が乱れる
だから、懲戒解雇となってもやむを得ないのです。これに関して、参考になる判例があります。
懲戒解雇に関する事例
炭研精工事件 最高裁 平成3年9月
- 「大学中退」であった本人は、「高校卒」と履歴書に記載して応募
- 社長の面接を受け、採用される
- 入社後に経歴詐称が発覚
- 会社は「学歴詐称」を理由として懲戒解雇
そして、この処分に納得がいかない本人は裁判を起こし、最高裁までいったのです。その結果、次のように判断されました。
裁判所の判決「就業規則の懲戒解雇に該当」
- 大学中退の学歴を隠したこと = 就業規則の懲戒解雇に該当
- 大学中退なら採用しなかったので、重大な経歴詐称になる
つまり、「大学中退」と「高校卒」は違うという意味なのです。さらに、学歴詐称に関しては、
- 最終学歴を高く詐称しても、
- 最終学歴を低く詐称しても、
関係ないということです。だから、いずれの場合も懲戒解雇にできるのです。もちろん、これは学歴だけではなく、経歴全般に関して言えることです。なぜならば、学歴、職歴、犯罪歴などの経歴は、
- 人事評価
- 採用
- 配属
に直接かかわる重大な事項として判断しているからです。
ただし、採用、昇給、昇進等に学歴が関係ない会社の場合、経歴詐称は懲戒解雇になりません。このような会社の場合、本人の能力次第で昇給などが決まります。だから、経歴詐称の「現実的な問題」は起きないからです。
しかし、今回の相談のケースは、次のようなものです。
- 採用条件は大学卒
- この会社は大学中退や高校卒の採用実績なし
つまり、今回のケースは「本当は不採用」だったのです。だから、「経歴詐称は懲戒解雇」となるのです。
経歴詐称の予防策
具体的な経歴詐称の予防策は、
- 卒業証明書の提出
- 社会保険等の履歴の調査
- 就業規則に経歴詐称に関する罰則の記載
を行なうのです。こうすれば、一定の防御策にはなります。
ただし、100%の予防策はありません。
また、最近の傾向では、「派遣社員だったのに、正社員と記載する事例」もあります。す。最終的には、本人の人柄が大切ですが、嘘をつくような社員を採用したい会社はありません。最低限の書類は確認するようにしましょう。
さいごに
この記事では、内海正人さんの著書より「経歴詐称による解雇」についてご紹介しました。
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内海正人
日本中央社会保険労務士事務所代表(https://www.roumu55.com/)
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
Facebook:masato.utsumi1
【参考】内海正人.今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方