この記事では普通解雇における「解雇理由」「手続きのポイント」について、特定社会保険労務士内海正人さんの著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』よりご紹介します。

普通解雇とは

普通解雇とは、労働契約の契約を継続しない事情により解雇を行うことです。つまり、「懲戒解雇」「整理解雇」以外の解雇のことです。

普通解雇の解雇理由

普通解雇の理由には、次のようなことが考えられます。

  • 社員の労務提供の不能
  • 社員の規律違反行為

社員の労務提供の不能

社員の労務不能について、傷病や障害により思うように動けないということです。また、勤務態度が悪かったり、他の社員と比較して著しく能率が悪く仕事が遅い場合も「労務不能」と考えられます。

社員の規律違反行為

社員の規律違反行為については、そんなにすごい違反ではない行為でも繰り返し行われたりする場合です。例えば、遅刻、早退、無断欠席があまりにも多い場合などがこのケースです。他の社員の仕事の邪魔をする場合などもあります。

このようなケースでは、いきなり「解雇」というわけにはいきません。しかし、「解雇」の可能性があることを示したり、何回も何回も注意を行うことが必要です。他の社員への影響を考えると、この「問題社員」への対応は早め早めが対処のコツです。

普通解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇は、懲戒処分の一部として行われます。この懲戒解雇を行う場合は、具体的に事由を規定する必要があります。普通解雇は「社員の労務提供の不能」や「社員の規律違反行為」に「準じる」という類推で判断できますが、懲戒解雇は「重経歴詐称」「無断欠勤」「協調性の欠如」など、特定の事由以外では処分できないことになっています。

参考:懲戒解雇とは?解雇理由や手続きについて解説

解雇手続きの3つのポイント

実際に普通解雇を行う時のポイントを、3つに分けて解説します。

就業規則への記載がポイント

トラブルなく普通解雇を行うためには、必ずしておかなければならないことがあります。それは、「就業規則への記載」です。何を記載するのかというと、具体的な解雇の事由についてです。「こんなことをしたら解雇になる」ということをあげて、就業規則に記載してください。「具体的にあげていたらキリがない」という場合は、次の一文を入れましょう。

「その他、前各号に準ずる事情が生じたとき」と。

この文により具体的にあげた事例に準じたもので解釈できるようになります。そして、幅広く運用ができます。

証拠がなければ解雇できない

さらに、解雇については証拠も必要です。「言った言わない」では解雇できません。就業規則の解雇の事由に該当していても、証拠がなければ解雇できません。具体的には、次のようなことです。

解雇時に活用できる証拠の例
  • タイムカード等の勤怠に関する書類
  • トラブル発生時の始末書
  • 反省文のレポート
  • 上席の面談記録

このような書類が大きな証拠となります。

問題社員の度重なるトラブルで「解雇」を決断することになります。また、傷病による解雇の場合は、診断書等の健康状態を表した書類が必要です。さらに、配置転換等で本人の雇用を継続するように努力したが、事態は変わらなかった等を記載したか議事録や記録も必要です。

退職金と解雇予告手当について

普通解雇の場合は、退職金の支払いが必要となります。また、解雇予告についても30日以上前に解雇を伝えるか、解雇予告手当を支払うなどする必要があります。

参考:解雇とは?意味や種類、解雇予告について解説

【事例】能力不足による普通解雇

ある会社が、同業他社から管理職としてA部長を迎え入れました。しかし、A部長は「営業の数字が上がらない」「人の管理もできない」「人望がないため人がついてこない」という状態に陥ったのです。こんな人には早く辞めてもらいたいのが社長の本音でしょう。この場合、「能力不足が解雇の理由になるか」がポイントになります。

ここで、実際の判例を見てみましょう。

【判例】フォード自動車事件 東京高裁 昭和59年3月

  • 人事本部長のポストとして中途採用された
  • 仕事ができないため解雇した

判決「解雇は有効」

そして裁判になり、次のような結果となりました。

  • 解雇は有効
  • 降格、配置換えの必要もなし

この裁判から言えることは、この社員は「特定の能力」「特定の経験」「特定の地位」を前提に採用されています。だから、「高額の年俸」「期待する成果」が雇用契約の条件となっているのです。ということは、「成果を出せない = 契約違反」となるのです。つまり、「債務不履行」になっているのです。だから、「債務不履行による契約解除 = 解雇は有効」なのです。

雇用契約書の書き方に注意する

ただし、これが成立するためには雇用契約書に次の項目が明記されていなければいけません。

  • 採用するポスト(例:部長、本部長)
  • 用意している待遇(例:年俸、福利厚生など)
  • 期待する成果(例:売上など)

さらに、具体的に数値化できるものは、「期待する数値目標」「目標達成の期日」を明記しておくことが大切です。

人材紹介の紹介料は、会社にとって大きな負担となります。だからこそ、ダメな場合には早めの解雇が必要です。その方が返還される金額も大きくなります。

また、紹介、解雇を繰り返しては、「お金がムダになる」「社内の雰囲気も悪くなる」のです。「必要のない人の解雇」を決断できなければ、「ずっと高い年俸が負担になる」「もっと社内の雰囲気が悪くなる」のです。

だからこそ、人材紹介を受ける場合(特に管理職)には、「雇用契約書の記載事項」に注意が必要です。もちろん、これは管理職でも一般社員でも同じです。

しかし、これに不備がある場合が多いのです。実際、労働基準監督署に駆け込まれた事例でも、雇用契約書の不備が「落とし穴」になってしまったことも多いのです。

採用する人、受け入れるポストに合わせ雇用契約書を作る

あなたの会社は、「雇用契約書は完璧」と言い切れますか? また、採用する人、ポストに合わせて作り変えていますか?

もちろん、市販の雛形もあります。しかし、それだけでは会社の事情に合っていません。だから、細かい部分で不備が出ます。それが「落とし穴」になることがあるのです。「雇用契約書」はとても重要なものなのです。

さいごに

この記事では、内海正人さんの著書より普通解雇における「解雇理由」「手続きのポイント」について解説しました。懲戒解雇を行うためには適切な理由と、その理由が正当であることを示す証拠が必要です。事実確認などを怠らず、トラブルの防止を目指しましょう。

書籍『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』では、今回ご紹介した内容の他にも退職、リストラなどについて、リアルな実例と法律をもとにわかりやすく解説しています。

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内海正人

日本中央社会保険労務士事務所代表https://www.roumu55.com/
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

Facebook:masato.utsumi1


【参考】内海正人.
今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方