この記事では、「人材採用時におさえておくべき法律」について解説します。この内容は、内海正人さんが著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方で解説している内容をもとに編集しています。

労働契約を結ぶ時に知っておくべきルールを確認していきましょう。

内海正人

人事コンサルタント。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開、現実的な解決策提示を行う。

採用するには法律のハードルをクリアしないといけません

「お金はいらないので、御社で働かせてください!」。

面接でこのように言われても、いざ採用する段階で給料が0というわけにはいきません。採用が決まったら、「働く時間は何時間なのか」「休日や休暇はどうなっているのか」「給料はいくらなのか」など、どんな条件で働くのかをきちんと確認しないといけないのです。

これは、入社までにきちんと確認する必要がありますし、会社には社員に労働条件を明示する義務があるのです。これは労働基準法に決められています。

「労働契約」というものがあることを知っているか?

社員は、会社から提示された「働く条件」について納得して、契約を結ぶことになります。これを労働契約または雇用契約といいます。そして、この契約には必ず示さなければいけないことがあります。それは次のことです。

  • 労働契約の期間
  • 働く場所
  • 担当する仕事
  • 始業の時刻、終業の時刻
  • 休憩時間、休日、休暇、交替勤務がある場合などは交替方法
  • 給料の決定・計算・支払いの方法、給料の締切、支払い時期、昇給のこと
  • 退職のこと

これらは、労働契約で必ず決めなければいけないことと義務付けられています。さらに、会社が明示しなければならない項目は次の通りです。

  • 退職金が支給される社員の範囲、退職金の決定・計算・支払い方法・支払い時期◦臨時の給料、賞与、手当など、最低賃金額のこと
  • 食事、作業用品、作業服代などの社員負担の有無・金額
  • 安全・衛生のこと
  • 教育研修、職業訓練のこと
  • 業務上の災害、業務外の傷病扶助
  • 表彰、制裁のこと
  • 休職のこと

これらの働く条件を確認して、雇用契約を結ぶのです。

この場合は、書面により確認するのが普通です。しかし、入社時に雇用契約を結んでいない会社も多く見受けられます。また、起業したての社長や中小、零細企業の社長は、「知らなかった」と口を揃えて言うことが多いです。

会社を起こすのは、「労働に関する法律」を知らなくても起こせます。しかし、会社を大きくするために社員を雇うことになったら、知らないでは済まされません。

さらに、この雇用の条件が実際と異なった場合はどうなるのでしょうか?

社員から、「契約通りの条件で働くから、条件通りにしてくれ」と言われたら、その通りにしないといけないのです。また、「条件が約束のものと違うけど、違う働きをしてくれ」と会社に言われたら、社員がすぐにこの契約を解除することが可能となっているのです。これも労働基準法で定められています。

このように面接して採用が決定しても、働く条件の刷り合わせが必要です。このことを怠ってはいけません。そして、契約書の確認が必要です。

労働基準法第15条(労働条件の明示)

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

新入社員を迎えるにあたり、誤解をまねいてはいけません。必ず契約で確認しましょう。そして、必ず文書で契約書を取り交わしましょう。

雇用契約書と就業規則の不備がトラブルのもととなる

採用プロセスを怠ると新入社員でも会社を訴えることがあります。

ある地方都市の老舗ホテルが、新規卒業者を5人採用しました。このホテルでは、新規採用は久しぶりで、ましてや、新卒となると10年前の話となっていたのです。

採用の責任者はホテルの副支配人です。現場の切り盛りから、会社経営まで、彼は一人でいろいろな業務をこなしていました。

久しぶりの採用でもあり、若い新卒者への期待と不安は大きいものでした。しかし、他の従業員からは「新しい風が入ってきますね」と声を掛けられ、「新人を立派なホテルマンにしないと・・・」とプレッシャーも感じていたのです。

そして、その年の4月に5人の新入社員が入社してきました。接客のマナーやお客様への対応など、一から勉強することがとても多く一人前になるまでには「とても大変だ!」と新入社員の5人は誰もが感じていました。

仕事については覚えることばかりで、とても通常の働いている時間ではこなすことはできません。それでなくても次から次へと仕事が投げられ、毎日夜遅くまで仕事をしていたのです。

入社直後にトラブル発生

こんな状態でしたが、5人で励ましあい、力を合わせて頑張って働いていました。

そして、初めての給料日を迎えたのですが・・・。

採用が決まって、提示された金額よりも少ない金額が振り込まれていたのです・・・。

新入社員の誰もが「これはおかしい・・・」と思い、採用の責任者であった副支配人のところに質問にいったのです。

すると、「今は試用期間だから、金額が少ないのだ」と説明を受けたのです。でも、入社の説明のときに「試用期間の説明」もその期間の「給料の話」も一切出ていなかったのです。

新入社員の中で話し合い、「これはおかしい」ということになりました。そして、もう一度副支配人のところに出向いたのです。

副支配人は、「これは、当ホテルの決まりだから」といって取り合ってくれなかったのです。困った5人は、ホテルの近くにある労働基準監督署の相談コーナーに行って事情を話したのです。相談コーナーの担当者から、「皆さんが入社するときに会社と交わした雇用契約書で、労働条件を確認してください。そして、就業規則を見せてもらうといいですよ」とアドバイスを受けたのです。

しかし、5人とも雇用契約書を取り交わしていませんでした。ホテルへの不信感が大きくなり、再び副支配人のところへ行ったのです。

「雇用契約書が結ばれていませんが、一体どういうことでしょうか?」と質問しても、副支配人は「前は契約書がなくても問題なかった」と言って取り合ってくれません。そして、5人は「就業規則を見せてください」と頼みました。

しかし副支配人は、「今、忙しいから・・・」と言ってその場を去ってしまったのです。

それから、副支配人からもホテルからも何も説明がないまま時間が過ぎていきました。

5人はこのままではホテルへの不信感ばかり増えてしまうので、仕事にも力が入らず、もやもやと時間が過ぎるだけがとても苦痛となったのです。

そして再び、労働基準監督署の相談コーナーに出向いて、一連の流れを説明したのです。

その後、労働基準監督署は、ホテルと副支配人を労働基準法違反の疑いで地検に「賃金の取り決めなどの労働条件を書面で明示する義務があるにもかかわらず明示しなかった疑い」で書類送検を行ったのです。

この事件は、雇用契約書を結ばずに新卒者を入社させために起こりました。

きちんと、書面にて明示し、誤解のないようにすればここまでにはならなかったでしょう。

このように雇用契約書は単なる「紙」ではありません。

新入社員へ入社後に「無用な誤解」をさせないためにも、きちんとしたものを取り交わしましょう。

さいごに

 この記事では、内海正人さんの著書より「人材採用時におさえておくべき法律」についてご紹介しました。

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