デザインと経営の関係と言われて何を想像しますか。
「デザインって色や形のことで経営となんも関係ないじゃん」
とお考えの方もいるのではないでしょうか。

80年代イノベーションバブルの頃の日本でも多くの経営者がこのように考え、デザインというものを軽視してきました。その結果、技術を模倣され多くの海外企業に追い抜かされる結果となってしまったのです。

そこで今回は、企業にマーケティングとデザインを融合させたサービスを提供し、ブランド構築にも力を入れている株式会社アイディーネットの代表取締役である福本徹氏へのインタビューをもとに、デザインを経営に活かすというのはどういうことなのか説明していきます。なぜ「デザイン」について考えることが経営者にとって必要なのか見ていきましょう。

デザインがいま重要視される理由

「デザインとは、人を幸せにする活動」であると福本氏は言います。
多くの人はデザインと言うと色や形を想像してしまいますが、本質は違うのです。

デザインとは人が顕在的や潜在的に望んでいるものを形にする作業になります。そのため、デザイナーは人を観察することに優れているとのことです。

近年デジタル化が進すみ、企業は情報を定量的に把握することが容易になってきました。どの企業でも得られる情報が同じになってきたことにより、活動で大きな差別化を図ることが困難になったのです。

そこで、必要になってきたのがこれまでデザイナーの方が培ってきた「人を観察する」という技術なのです。人(顧客や従業員)の観察を通して、企業に求められているものを見つけて形を与えることで差別化を図っていくのです。
利益を得るためには、顧客の潜在的・顕在的なニーズに形を与えて提供する必要があります。

また、デジタル活用のときもなんとなくデータを見ている人が多いですが、本来データとは仮説ありきで活用されるものです。つまり、デジタルで得られたデータを活用するときもデザインによる観察が必要になってくるのです。

デザインを経営に活かす

デザインと経営を結び付けて考えるようになってきたのは、実は世界でも最近になってからなのです。70年代のアメリカでマーケティングやコンサルの会社が台頭しはじめ、これらの会社が事業の市場価値を論理的指標で評価し支援するアプローチをはじめました。
これらの活動は論理的であるために数値管理がしやすく、経営層のニーズにフィットしたことで水平展開が加速し、日本にも広がっていきました。

しばらくしてから、自社の商品を模倣され品質が高く価格が安く販売されることに危機感を覚えたアメリカの企業はいち早くデザインシンキングの考えを取り入れるようになりました。どこの会社でも取り組める論理的アプローチだけではなく、感情的なアプローチによって付加価値を付けていくようになったのです。

日本はアメリカの理論的なアプローチを模倣し、技術的な付加価値を加えることで80年代にイノベーションバブルを巻き起こしました。技術的な付加価値が十分にあったため、デザインという感情的な付加価値は二の次となっていました。

そして、日本でもイノベーションのジレンマが起こります。

技術革新が頭打ちとなる中で、既に一通りの顧客ニーズを満たしてしまった先行企業は、価格破壊を武器にシェア拡大を進める新興企業に対し、競争力を保とうとして徐々にニッチで高付加価値型のビジネスへと追いやられ、しばらくして市場から消えることになります。
機能価値は模倣されやすく、いずれ価格競争に突入することが考えられます。

現在はデフレによる低価格に消費者の目がいってしまうため、価格戦略に力を入れている企業が多く見られますが、日本の経営者も感情的なアプローチによる付加価値を付けていくべきではないでしょうか。

デザインが経営にもたらす効果

では、デザインを具体的にどのようにして経営に活かしていくべきなのか見ていきましょう。

①会社のキャラクターをどのように作りあげるか

福本氏によると、まずは会社のキャラクター(唯一無二の個性)を考えることが大切とのことです。

キャラクター設定をしっかりすることで、同じ業界で競争力を持つことができます。

デザイナーや専門家がいないと難しいことかもしれませんが、キャラクターの視覚化や明文化はとても有効な手法だそうです。視覚化や明文化することにより、知ってもらいやすくもなるし、記憶にも残りやすくなります。

②バリューの設定

続いて必要なのがバリューの設定。つまり、会社の価値を消費者に伝えられるようにしっかりと整備して理解することです。自社にどんな価値があり、ステークホルダーにどんな利益を与えることができるのかしっかり考えてみましょう。

消費者から見ると正しくバリュー設定がされていない商品はその他の多数の商品と同じに見えてしまいます。大量の商品を前に自分にとって価値があるのかどうかが評価できない買い物はあまり楽しいものではありません。

バリュー設定のときに、よくやってしまいがちな過ちとしては自社の商品やサービスを全部伝えようとしてしまうことだそうです。さまざまなことに取り組んでいるため伝えることを絞るのを恐れてしまい、結局、一番大切な価値が不明瞭となり差別化できず、その他大勢の中に埋没してしまいます。

このときにものすごく分かりやすい表現でニーズにフィットする言葉があるだけで目に留まりやすくなるのです。クルマの内装に関わる部品供給を生業とする、とある企業が「45㎝の快適空間」という言葉でバリュー設定を行いました。結果として、お客さまにも興味を持ってもらうことができ、他の企業と大きく差別化ができたのです。これこそがバリュー設定となります。

③企業の文化のチューニング

多忙な毎日を過ごす中で、自分の会社の文化に目を向ける機会を逸しているという事例は多く存在します。
最初に作った経営理念の見直しを行ったりしていますか?
利益を獲得して、企業を大きくしていくためには社員が必要です。そのためにも、社員にあこがれてきてもらえるような環境を作らないといけません。
環境づくりのためには、自己実現ができそうだという共感が必要になります。このような共感を得るものを作るのはなかなか難しいのです。
これも実は、冒頭で触れた「デザインは人を幸せにする活動」であり「人を観察することに優れている」という特性を持つデザインの力で共感につながる概念を導くことができます。
これらの3つが経営の中で特にデザインが貢献できるところなのです。

読者へのメッセージ

経営者の方を見ていると、「ボロを着ていても心は錦」という人が多くいます。

良い商品を作れば、お客さんは分かってくれて人気は広がり勝手に売れていくと考えていませんか? 心の中をお客さんは見てくれません。経営をしっかりとデザインして、商品やサ―ビスをお客さまに知ってもらい、覚えてもらう必要があるのです。
やはりいまだにデザインの話となると抵抗感を示される経営者の方が多くいます。
デザインは自分たちの考えることじゃないと理解してしまっているのですね。
もし、ステークホルダーとの関係を良好にし、競合よりも優位な存在にしたいなら、ぜひデザインを経営に生かすビジョナルな経営者を目指していただきたいと思います。

福本 徹(Tohru Fukumoto
株式会社 アイディーネット 代表取締役/プロデューサー
会社URL:https://idnet21.com
東京都世田谷区三宿1-24-14