この記事では「降格人事を行うときの注意点」について解説します。人事コンサルタントの内海正人さんが著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』で解説している内容をもとに編集しています。
降格人事を行うためには、次のようなポイントをおさえる必要があります。
- 就業規則に「降格の理由」について記載する
- 降格に関する「同意書」を、対象者からもらう
内海正人さんのクライアントの具体的な事例をもとに、上記に挙げた「降格人事を行うときに必要なこと」や「降格人事の進め方」を確認していきましょう。
目次
- 「降格人事」と「人事権の濫用」
- 就業規則に降格理由を明記する
- 組織拡大に潜むリスクを回避する
「降格人事」と「人事権の濫用」
先日、ある社長から相談を受けました。
「今の経理部長を役不足のため降格させ、給与も下げたいのですが、問題になりますか?」
具体的には、経理部長のAさんを一般社員に降格する人事です。社長はこれを「人事権の濫用に当たるのではないか」と心配しています。つまり、「人事権の濫用は、行き過ぎた異動」ではないかということです。
まずは、この経緯を説明します。
半年くらい前から、Aさんが仕事を選ぶようになりました。その理由は、「会社が大きくなり、取扱金額も増えたため、個人で責任が持てない」 ということです。
会社は、「部長という立場なので、それは困る」と注意しましたが、改善されるどころか、さらに仕事を選ぶようになったのです。そして、そのことが原因で、決算処理が遅れ、大きな問題になったのです。そのため、会社は「降格を検討する」ことにしました。
就業規則に降格理由を明記する
「降格」させるには、就業規則にその理由を定めなければ実行できません。しかし、その理由を記載している就業規則は少ないのが実態です。なぜなら、昔からの雇用環境を守ってきた会社の場合、降格させる必要性があまりなかったからです。
これは、「年功序列」「終身雇用」という2つが人事の考え方のベースだったということなのです。だから、年齢が上がれば自然に給与が上がりましたし、定年まで会社が雇用してくれます。
しかし時代が変わり、雇用環境も変わりました。個人の成果が昔よりも給与に反映されやすい時代になったのです。そして、降格も日常茶飯事となっています。
降格人事の手順
今回の場合も、就業規則に降格の記載はありませんでした。しかし、このままでは他の社員にも示しがつきません。放置すれば、さらなる問題も発生するでしょう。
だから、私は次の手順を社長に伝えました。
- Aさんに「降格の理由」を説明する
- この降格に関する同意書をもらう
- 降格する
こうすれば、「人事権の濫用」にならないと説明しました。
降格が妥当である証拠が必要
判例等では、「本人の同意がなくても、違法でない」というケースもあります。それは、「状況から判断し、降格が妥当である場合」です。妥当かどうかは、「誰が見ても納得できる」状況です。
ただし争いが起こったら、「妥当である証拠」が必要です。そのため、同意書をもらったのです。同意書があれば、無用な争いも防止できるのです。今回はそこまで考えた対応を提案しました。
会社と社員の争いは、多くのものを失います。
- 時間
- 信頼関係
- お金(弁護士費用等)
- 退職した社員のスキル
など、数え上げたらキリがありません。
ただ、時間をかければ良い方向に向かう訳でもありません。結果として、会社も社員も不幸になるケースが多いのです。特に、組織全体の精神的なダメージが大きいのです。
就業規則に降格理由を明記する
これを防止するためには、就業規則の整備が必要です。しかし、市販の就業規則の雛形では対応できません。なぜなら、自社の状況に合わせる必要があるからです。
あなたの会社の就業規則には、「降格の理由」が記載されていますか?
もしなければ、記載して下さい。記載があれば、実態に合わない管理職が出てきても降格させることができます。
組織拡大に潜むリスクを回避する
また、そういう管理職の下の社員は不幸です。なぜなら、部下は上司を選べません。その管理職のため、多くの社員が一気に退職したケースも見たことがあります。
もちろん、そういう管理職がいないことが理想です。しかし、組織の拡大はそういうリスクも秘めているのです。だから、その「可能性としてのリスク」を事前に排除するのです。
リスクが顕在化するかどうかは別問題です。一定割合で必ず顕在化します。だから、会社はこれを事前に排除する必要があるのです。
社員が緊張をもって働ける環境づくり
現在の景気だと、気前よく昇格させることはなかなか厳しく、それよりも、社員への評価が「厳しく」なっているのが現実です。しかし、売上が上がらないから、利益が確保できないからといって、すぐに降格させるということも出来ないのです。
まずは、社員が緊張をもって働ける環境、そして、そのためには単に年齢で昇格していくものではなく、時には「降格という選択肢もあり」とルール付けを行い、社員にはチャンスと責任の中で仕事をこなしてもらうという環境を整えましょう。
さいごに
この記事では、内海正人さんの著書より「降格人事を行うときに必要なこと」についてご紹介しました。
この記事のポイント
- 降格人事は、就業規則にその理由を定めなければ実行できない。
- 争いが起こったときには、「降格人事が妥当である証拠」が必要。
- 無用な争いを防止するためには、事前に「同意書」をもらう。
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内海正人
日本中央社会保険労務士事務所代表(https://www.roumu55.com/)
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
Facebook:masato.utsumi1
【参考】内海正人.今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方