の記事では「離職率が高い会社の特徴と原因」について、日本中央社会保険労務士事務所代表 内海正人さんの著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』より解説します。

離職率が高い会社の2パターン

一言で会社といっても色々な会社があります。大企業、中小企業、零細企業など、社員数で分ける場合がもっともポピュラーでしょうが、私が現場で最初に出会った会社を見る際の基準の1つは「離職率」です。

不況のためか、新卒などのアンケートを見ると「長く勤めたい」という安定志向が見られます。社内でキャリアアップを模索する人が増えています。しかし、このような人や会社ばかりではありません。

「入社してもすぐに社員が辞めてしまう・・・」

このような会社が数多くあるのも事実です。それとは対照的に、「何年も社員が変わらないで和気あいあいと仕事をしている会社」もあります。この違いは一体何なのでしょうか?離職率が高い会社を大きく分けると、次の2つのパターンが最近の傾向です。

  • 夢ばかり見せる会社
  • 金ばかり見せる会社

夢ばかり見せる会社

この場合は、ベンチャー企業が多いです。カリスマ社長の下、急拡大した会社に見られるのが特徴です。カリスマ社長が「夢」をたくみに語り、社員を募集する傾向にあります。

このような会社は、業務の成長スピードに社員が追いついてこられないことが見受けられるのです。これは、内部管理が整う前に業務拡大のスピードが速いときに起こります。そして、経営側はこの状況を「社員がだらしない」「このぐらいのことをやってもらわないと困る」と、社員個人の力量を問題とするケースが多いのです。

離職率が高まる原因は「人員計画の無さ」

しかし、これは明らかに経営の問題です。まず、第一に人員計画を立てて先に進むべきです。人の問題を後回しにすると、組織がすぐ崩壊してしまいます。しかし、ベンチャー企業で多く見受けられるのは、「人の問題」は後回しなのです。さらに、「人の問題」の重要性が理解されていないのです。つまり、「人の気持ちは、会社や社長が何とかさせることができる」「他人をコントロールできる」と考えているからです。この件ですが、確かに表面上従うことは可能です。しかし、長期間に渡り過剰なストレスが課されると、誰でも仕事への「意欲」や「やる気」が失われてきます。

また、カリスマ社長のようになれるという「幻想」を見せられ集まった社員は、この場面で現実を知るのです。つまり、憧れだけでは仕事にならないのです。

そうして、多くの社員が辞めていくことになります。

このとき、経営方針の見直しや人員計画の見直しを考えることができる会社であれば、次のステージに駆け上がることも可能です。しかし、ここで停滞してしまうとこの先は組織の機能が不全し、成長よりも「崩壊」ということになりかねないのです。

金ばかり見せる会社

この場合は、営業が強い会社に多いです。いわゆる「販売会社」です。営業マンが「歩合給」で、売れば売るだけ報酬が高い会社です。

このような会社では離職率が高く、社員がなかなか定着しません。これは、会社の考え方が影響しています。簡単に言えば、「お金を稼いでくれさえすればよい」という考え方なのです。まさに「金ばかり見せている会社」です。

離職率が高まる原因は「短期的な働き方」

この手の会社で離職率が高い理由は想像がつくと思いますが、第一に「売れなくなったら、いられない」のです。売ることだけが使命なので、営業数字が出せなくなったら、営業マンの存在価値がなくなるのです。そして、会社は新たな営業マンを募集するのです。

「即戦力! 当社は歩合給が高いので高収入が期待できます」という求人のコピーが目に飛び込んできます。「高収入」を得られることは応募者には魅力です。しかし、短期的な働き方でしかないのです。

また、歩合の社員ならば、採用のリスクが低く、会社にとっても安心です。一見合理的な給与体系にも思えます。しかし、高い売上を上げられれば高い給料でしょうが、売上が上がらなければ歩合給はゼロの場合もあるのです。

さらに、歩合の部分が高ければ、基本給は低くなる傾向にあります。売上が上がらない社員は、安い基本給しかもらえません。また、常識的に考えても、「みんなが高収入」なんてありえないということです。高収入の社員はごく一部で、多くの社員は会社が望む成果を上げることができないのです。

しかし、多くの応募者は「自分は何とかなる」と考えて入社します。そして、厳しい現実に直面し苦労することになるのです。

「歩合給が高いと社員のモチベーションが上がる」と多くの経営者は考えています。しかし、歩合給というシステムが多くの社員のモチベーションを下げているのも事実です。さらに、「売上を上げられる社員がごく一部」ということもあります。このような会社、組織だと、営業マンは組織の一員という意識が希薄です。つまり、

  • お互いに協力しよう
  • 情報を共有しよう
  • 助け合おう

という考えはほとんどないのです。または、あったとしてもなくなってしまう人が多いのです。「お客様をすべて自分のものにしたい」「同じ社内でも、まわりは敵だ」、このような考えをする人たちばかりだと、職場の雰囲気も悪くなり、離職率も高まります。

経営者は、「歩合給が高い=モチベーションが上がる」ということは間違いと知るべきです。歩合社員を多くすれば、売上が伸びるということではありません。もちろん、業種業態で異なるケースもあります。個人的にモチベーションが上がる社員が存在するのも事実です。しかし、多くの会社で歩合給の社員が多いと、組織が荒れてしまうのです。

『モチベーション・リーダーシップ 組織を率いるための30の原則』(PHP研究所)という本の中で、著者の小笹芳央氏は、「リーダーシップとは、突き詰めるとメンバーとの相互作用である」と言っています。組織を率い、社員にモチベーションを吹き込むリーダーの真実が語られています。社員と経営者、社員同士の相互作用を活性化させると、会社は良い方向に向かうのです。

歩合給の営業マンを増やし、組織としての機能を犠牲にするより、まずは会社と社員、社員同士の情報の共有から始めましょう。

採用コストを考えているか?

さらに離職率の高い会社で考えなければならないのが、採用コストの問題です。1人辞めたから1人雇えばいいという考えでは、コストがかかりすぎます。

人材紹介会社で紹介された場合、採用者の年収の3分の1が手数料としてかかります。仮に、すぐ辞めてしまって手数料が返還されたとしても、その間に関わったスタッフの人件費等も計り知れません。冷静に考えれば、教育コストもかかります。それなのに、入っては辞め、入っては辞めを繰り返すのであれば、受け入れる方も疲弊してしまいます。

会社の新陳代謝ということを考えれば、社員の入れ替えはある部分必要かもしれません。しかし、「今回の新人はいつまで持つか」などの発言が出る会社は、求人の方法、求人の意義が明確ではないのかもしれません。そして、いつまでたっても採用活動ばかり・・・。人員計画も何もないということを証明しているようなものです。

もし、あなたの会社で当てはまることがあれば、真剣に対策を立ててください。そこを怠ると、会社としてのステージは上がらないということになるのです。

さいごに

 この記事では、内海正人さんの著書より「離職率が高い会社の特徴と原因」についてご紹介しました。

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内海正人

日本中央社会保険労務士事務所代表https://www.roumu55.com/
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

Facebook:masato.utsumi1


【参考】
内海正人.
今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方
小笹芳央.モチベーション・リーダーシップ 組織を率いるための30の原則