会社のために頑張って働いてくれている社員がいる一方で、

「何度注意しても無断欠勤を繰り返す」

「パワハラでの相談がたくさん来るが本人は気にしていない」

このような、いわゆる「問題社員」と呼ばれる人はどの企業にもいます。

問題社員が1人いるだけで周りの社員の士気が下がってしまうので、会社としても何とかしたいですよね。

そこで今回は経営者の弁護を主に取り扱っているJPS総合法律事務所の代表弁護士を務める津木陽一郎氏へのインタビューをもとに、経営者が問題社員に対してどのように対応していくべきかについて、考え方から細かな対応の仕方まで解説していきます。

法的に弱い経営者

「社長」「経営者」と言えば、社内では大きな力を持っている人とのイメージが強いと思います。実際に最終的な決定や評価を下すことが多いため、社内で「社長」や「経営者」に意見をできる人は少ないでしょう。しかし、労働法を前にしたときに経営者と労働者の立場は逆転してしまうと津木氏は言います。

「労働法」自体はそもそも労働者側を守るために整備されたものであり、法的な解釈や判例などは、労働者を有利にするためのものが多いためです。企業が訴訟を起こされた場合でも、起こした場合でも、いざ裁判となった時に「経営者有利」の判決になることはかなり少ないのです。

会社側はできるだけ裁判を起こされないように、気を付けて労働者と関わらなければなりません。傍から見れば会社のトップですが、実態は強くないというのが経営者というものの現実です。

簡単に辞めさせられない問題社員

「問題社員」という言葉があります。頻繁に無断欠勤をしたり、上司の命令にあまりにも従わなかったり、当人が起こす不利益に加えて社員全体に迷惑を掛けたりと会社にとって不利益な行為を繰り返す社員のことです。経営者からすれば、このような社員には即刻辞めてもらいたいと感がるのが普通ではないでしょうか。しかし「労働法」がそれを許しません。労働契約法16条では解雇に関して次のように規定されているためです。

“解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする”

そして解雇の為の具体的な条件もかなり厳しいものとなっています。解雇と一口に言っても種類は様々ですが、

「解雇という判断をする前にできる限りの努力をしたか」
「解雇という判断をするのに至った証拠が揃っているか」

などの審議が「労働者有利」で行われていきます。従業員を「解雇」するのは想像以上に難しいのです。

だからこそ、できるだけ辞めさせるという手段を使わずに、使うにしてもその後の対応をきちんと精査したうえで問題社員への対処を行わなければならないとのことです。

問題社員への正しい対応の仕方

経営者という「法的に弱い」立場ながら、問題社員への戦い方は実は数多く存在します。ポイントはそれが法律上適切であるかどうかです。津木氏はできるだけ労働問題に発展しないように以下のような流れで対応していくべきだと言っています。

①声掛け、気配りを忘れずに

まずは定期的な面談や、注意勧告からしていくのがいいでしょう。毎月1回など管理者や経営側と面談を行うことによって社員の状況や不満を把握し、より悪化することを防ぐことが可能です。

もしも問題行動をとる社員がいたら、注意や指導を行いましょう。後に問題社員から「パワハラを受けた」などと言われる可能性があるので、「どのような注意指導を行ったのか」記録を残しておくことが重要です。メールや指示書、録音データなどを残し、不当な強制や干渉などは行っていないことを明らかにしましょう。

②実行できる手段

注意では効果がないときは実行手段に移るほかないでしょう。現在の仕事内容を変えることによって状況を改善できるケースがあります。たとえば別の部署に配置転換したり職種や業務内容を変えたりするなどです。パワハラセクハラを繰り返す社員であれば、部下のいない部署に移すことによって問題を解決できる可能性もあります。

③処分の検討をする

配置転換や業務内容の変更などによっても問題社員の態度が変わらず改善の余地がない場合には「懲戒処分」を検討しましょう。懲戒処分とは会社側が従業員側に処罰を与えることであり、就業規則等に定めておく必要があります。一般的には、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、解雇の処分があり、順に重くなっていきます。懲戒理由があっても、いきなり解雇することはできないケースも多いので、まずは軽い処分から検討すべきです。

いずれの措置をとっても改善がみられない場合、最後の手段として解雇を検討することとなります。まずは「解雇」ではなく「自主退職」を促すべきです。解雇すると後に従業員から「不当解雇」として訴えられる可能性があるためです。自主退職であれば「解雇無効」などの問題が発生しません。そのために行うのが「退職勧奨」です。退職勧奨とは、会社側が従業員側に自主退職を勧めることです。問題社員が勧めに応じて退職届を出せば、円満に問題社員を会社から出て行かせることが可能です。

自主退職が叶わない場合、「懲戒解雇」か「普通解雇」を選択せざる負えません。懲戒解雇は懲戒処分の1つですので、必ず就業規則等に懲戒事由を定めておく必要があります。また普通解雇の場合では、前述の通り細かな精査が労働者有利に行われます。そのほかにも、原則として30日前の解雇予告または不足日数分の解雇予告手当の支払も必要となるので、きちんと対応しましょう。

④訴訟を起こされてしまう前に

以上のいかなる手段をとった場合でも、訴訟を起こされるリスクはあります。訴訟を起こされた場合はそれこそJPS総合法律事務所様などの、経営者側に立ってくれる労働問題に強い弁護士に頼るほかありません。

訴訟を起こされてしまう前に経営者自ら社内制度を整えておくことが、こういった問題に対しての一番の特効薬と言えるでしょう。まずは労働時間や有給取得の方法から、社内環境の整備まで、できる限り丁寧に就労規則を整備していくことが必要です。

その時、「最新の労働関係の法律」を意識しながら行うことで、もし訴訟を起こされてしまった時でも規則にのっとって対応していけばスムーズに裁判を進めていくことができるでしょう。法的な観点から社内を整備するという意識が今後の経営者には必要なのです。

代表者様からのメッセージ

我々は主に労働事件において、経営者の側に立って弁護を日々行っています。創業当初は「弁護士なのに弱きを守らず、権威に加担するのはいかがなものか」との意見も多かったですが、社会を円滑に回すためには必要な仕事、或いは立場であると考えています。

経営者の立場は労働法において決して高いものではありません。しかし、「会社を守る」ということは、その中の多くの従業員を守ることに繋がります。経営者サイドが法的意識をもって諸問題に取り組むことは、会社全体の未来にとって必要な事なのです。

経営者自らが法的知識を持てれば一番いいですが、日々変化し続ける複雑な法律を精査するのは至難の業でしょう。やはり、顧問弁護士などのプロフェッショナルを付けることで、問題が起きた時の対応や、起きる前の規則整備に関しても大きな効果が期待できます。

経営者も労働者も、両者がより良い会社人生を送っていくための道しるべを共に作っていこうという意識が必要です。もし法的にアドバイスが欲しいという時は、いつでも我々JPS総合法律事務所にご相談ください。

津木 陽一郎
JPS総合法律事務所
URL:https://jps-law.jp/
住所:大阪市中央区今橋1丁目1番3号 IMABASHI GATE PLACE 8階