この記事では「リーダーシップ」とは何かについて、株式会社チームダイナミクス代表三浦将さんの著書『才能スイッチ』より解説します。

リーダーシップとは何か

リーダーシップとは、「ここではないどこか」に導く力です。

その「どこか」とは、チーム全体が「本当に行きたいところ」です。その本当に行きたいところに向かって進む上で発揮する力が、リーダーシップです。

リーダーシップの必要性

大事なことは、「リーダーシップはリーダーだけのものではない」ということです。

考えてみてください。リーダーだけが、その「どこか」に向かう力を発揮しているチームと、チーム全員が発揮しているチームと、どちらが強いでしょうか?もし、あなたが対戦するとしたら、チームの勝利が、リーダーだけの責任だと思っているチームと、チーム一人ひとりが「自分たち全員の責任だ」と思っているチームと、どちらが手強そうでしょうか?

リーダーというのは、リーダーの立場にある人のことをいいます。運動部のチームでいえば、監督から「今日からお前はキャプテンだ!」といわれれば、リーダーとなります。しかし、その立場、肩書きが変わっただけで、その人自身がその瞬間に大きく変化したわけではありません。おそらくキャプテンではない頃からリーダーシップを発揮していたからこそ、リーダーに指名されたのだと思います。

つまり……、リーダーシップの本質は、役職や権限とはまったく関係がないということなのです。

個人という単位で見ても、「ここではないどこか」を明確にし、それに向かって日々研鑽しているかどうかで、未来は大きく違ってきます。これは「自分自身へのリーダーシップ」を持っているかどうか、ということなのです。そして、自分自身へのリーダーシップを発揮し、自分自身をその人生の主人公にしっかりと位置づけている人が、人生を切り開いてゆくのです。

リーダーに必要なスキルとは

リーダー、というと、チームをグイグイ引っ張るリーダーシップを発揮する人を想像される方が多いのではないでしょうか?

また、「グイグイ引っ張ることができないので、自分はリーダーには向いていない」と思っている方もいらっしゃるかも知れません。体育会系の組織に所属した経験のある方は、特にこの感覚が強いのではないかと思います。

リーダーに必要なスキルは、チームの状態によって変化する

一方、リーダーシップというのは、チームの状況や状態(コンテクスト)によって変化させて行くべきものです。チームの現在の能力や、チームメンバー同士の関係性、そのチームが取り組んでいる仕事の性質などにより、最適なリーダーシップは変わってくるのです。

企業研修で「チームビルディング研修」をさせていただく機会が、非常にたくさんあります。それほどチームが十分に機能していないケースが多いということです。

そのとき、私が代表取締役を務める株式会社チームダイナミクスでは、研修前に、チームリーダーを始め、チームメンバー数名へのインタビューを行います。チームメンバー同士の関係性や、個々が持っている悩み、解決したい問題などを正確に把握するためです。そして、それらを基に最適なプログラムをカスタマイズするというやり方を取っています。

そんななか、多くのケースで、リーダーが取っているリーダーシップスタイルと、チームの状態のミスマッチが見られます。

ある程度成熟しているチームメンバーに対して、「ティーチング」的なアプローチを多用して、グイグイ引っ張ろうとしていたり、必要以上に指示を出したりしいるケースなどもあります。これが過ぎると、上司部下の関係性の悪化につながることにもなりかねません。

具体例から学ぶ「チームにあったリーダーシップ」

弊社のクライアントである、某大手企業の部長Yさんは、典型的な率先垂範タイプのリーダーでした。非常に優秀で、熱量も高く、グイグイと仕事を進めていく、いわゆる「できる人」です。

そんなYさんが、ある日私の元を訪ねてきてくれました。チームの状態の悪さに悩んでいらっしゃるようでした。

詳しくお話を聴くと、チーム内でのコミュニケーションがほとんどないなど、状況はかなり深刻でした。このままこの状態が続くと、チーム崩壊にもなりかねないということで、外部からのサポートを探しているとのことでした。

数回のミーティングを経て、6ヶ月のチームビルディングプログラムがスタートしました。プログラムは、4 回の全体研修、Yさんのエグゼクティブコーチング、そして部員数名のパーソナルコーチングのハイブリッド形式で展開しました。

そして、エグゼクティブコーチングを続けるなかで、Yさんはリーダーとしての自分自身のリアルな姿と、それが部員に及ぼしている影響をはっきりと認識されました。さらには、そのときの部の状態をつくり出していたのが、自分自身であることにしっかりと気づいたのです。

率先垂範するも、戸惑いながら仕事をしている部員も多数いる状態で、強引に旗を振り続け、全体がギクシャクし続ける状況。Yさんが要求する高い基準を満たしていない部員を責め続け、萎縮する部に対して強引なリードを取り続ける自分の姿を、コーチングを通じて、俯瞰的にはっきりと自覚したのです。

そして、Yさんの部下とのコミュニケーションは、大きく変わっていきました。元々Yさんはとても素直で真面目な方。自分の間違いに気づいた瞬間に、何の躊躇もなく素直に行動を変えることができました。「率先垂範こそリーダーが取るべきリーダーシップ」という考え方から、「部員を承認、尊重しながら、勇気づけを行っていくコミュニケーションが必要」と気づき、それを実践していきました。

加えて、部員全員の参加によるチームビルディング研修やコミュニケーション研修、そして研修後のアクションの実践や習慣化によって、部全体の団結が急速に深まっていきました。やがて、それまでお互いほとんどコミュニケーションがなかった部の雰囲気が一変。全体に活気と調和がもたらされてきました。

Yさんは言いました。

「長患いからの解放感のような感覚があります。初めて感じるチーム一体感。あきらめなくて良かった」

これはYさんのチームの快進撃の序章でした。部の全体の状態が良くなると同時に、部員からの提案数が激増。戸惑いながら仕事をしていた部員たちも、次第に自信をつけ、積極的にYさんの元に提案を持ってくるようになったといいます。元々、会社のなかで最もイノベーティブなアプローチが必要とされる部署であったので、この変化は、仕事の成果に如実に反映していきます。

約1年前は崩壊の危機に立っていた部が、研修プログラムの第2 期が終わる頃には、会社の新たなビジネス展開の期待を一身に集める部となり、部員も倍近くに膨れ上がる結果となりました。そして、イノベーティブな発信ができるチームへと進化していったのです。

このプロセスのなかでYさんは、かつての率先垂範一辺倒のスタイルから、部員の力を信じ、部員一人ひとりのなかにある潜在能力を発揮させられるリーダーへと変容を遂げたのです。

もちろん、緊急の場合など、必要なときには、率先垂範の力を駆使します。元々大変力強いリーダーなので、率先垂範が求められる瞬間での力は並大抵ではありません。部員としては、こんなに心強いリーダーはいないでしょう。

部員に「安心安全」を感じさせるリーダーシップスタイル

このケースで、部員の心のなかに何が起こったのでしょう?

Yさんは、仕事のできる怖い上司でした。その恐れが、部員にとっては、強力なストレスやプレッシャーとなって、のしかかっていたと言います。新たなプロジェクトを短い期間で発展させなければいけないという、Yさん自身が受けていたプレッシャーが、部下へのプレッシャーをより増幅させました。

率先垂範で、部員をグイグイ引っ張るスタイルが度を越して、戸惑う人間をも引きずるようにまでして前進しようとするその姿に、部員は恐れを感じていました。進めば進むほどお互いが疲弊する状態。さらには、部員同士のコミュニケーションも、チーム感もほとんどなく、部署全体にも乾き切った空気感が漂う状態。このとき、おそらく部員の潜在意識は「安心安全」をおよそ感じることができない状態だったのです。これでは、潜在能力の発揮や、創造性の発揮はなかなか生まれないといえます。

そして、研修やそれに伴う行動の習慣化により、コミュニケーションが活発になり、チームとしての一体感が増していく環境のなかで、部員のみなさんは、Yさんからも承認や勇気づけを受けることができるようなりました。部員の潜在意識は「安心安全」を感じることができるようになり、部全体の雰囲気は大きく変わっていきます。この環境のなかで、部員の創造性の発揮が、アイデア創出という形で自然と活発になっていった訳です。

ちなみに、チームが変化していくタイミングで、部署の場所が変更になったことも、事が良い方向に行くことに貢献しました。人間には「場の記憶」というものがあります。自分が辛い経験をした場所では、辛い感情が想起され、楽しい経験をした場所では、楽しい感情が想起されます。部が大きく変容していくなかで、部署が、社内の新たな場所に移動したことにより、その新たな場所が「良い感情を引き起こす安心安全な場所」というポジティブな記憶の場所となったのです。

部員一人ひとりが成長し、自主自立性がより高まるにつれ、Yさんの率先垂範のスタイルが登場する機会は少しずつなくなっていきました。出す必要がなくなってきたからです。

Yさんのリーダーシップスタイルの変化で注目すべき点は、「部下との関係性の変化」です。以前の率先垂範一辺倒のスタイルは、「うまくできない部下を、俺が何とか引っ張らなければいけない」というものでした。それはYさんが「できる人」であるがゆえ、陥りがちになるパターンです。そして、それはYさん自身にも負担がかかるパターンであると同時に、全体としてのダイナミクスを産みにくいパターンでもありました。

このときの関係性は、完全な上下の関係。Yさんから部下への承認や、可能性への信頼が乏しく、上司・部下としての社会構造での上下の関係が、人と人という本来の関係にも及んでいたのでした。それがやがて、人と人との関係性において、しっかりと「横の関係」を構築できる状態へと変化して行ったのです。もちろん上司・部下というポジションの違いはありますが、Yさんは部下のみなさんと、人と人としての横の関係を築こうとするコミュニケーションを取るよう、自分のなかの「在り方」を変えて行ったのでした。

この例にも見られるように、イノベーティブなリーダーが、率先垂範のスタイルを取る機会は、チームが成長すればするほど少なくなっていきます。

イノベーティブなリーダーの仕事はそういう状態をつくり出すことであって、そういう状態になればなるほど、チームメンバー一人ひとりの自主自立性が高まっている状態になっているともいえます。

そして、そこから創造性が生まれていくのです。

リーダーシップを向上させるポイントとは

チームの一人ひとりのスイッチを入れることができるリーダーは、従来の典型的なリーダータイプとは異なる点を多く持っています。

先ほども述べましたが、最適のリーダーシップスタイルはチームの状態によって変わります。リーダーの初期段階での最も大切な仕事は、チームメンバーの自主自立性を高め、モチベーションを高めていくことを丁寧に行っていくことです。

リーダーに欠かせない「傾聴と承認のコミュニケーション」

ここでは傾聴と承認のコミュニケーションがその基盤をなします。

傾聴と承認のコミュニケーションは、どちらかというと、パワーリーダータイプよりも、内向的で、もの静かなタイプの人の方が自然に行える傾向があります。

企業研修で人材育成をお手伝いさせていただいている某ベンチャー企業を経営するTさんは、この内向的で、もの静かなタイプ。派手さはありませんが、部下の話をしっかり聴き、人の力を引き出すように接します。そして、部下に対しての指示をほとんど出さないという特徴があります。

部下から、業務を今後どう進めたらいいか相談を受けると、すぐに指示を出すことはせず、「どうしたらいいと思いますか?」と聞きます。そして、「どうしてそう考えるのですか?」「それをするとどんな結果が考えられますか?」とコーチング的な質問を繰り返します。Tさんが放つ独特の「安心安全」な雰囲気があるので、部下は、合っているとか間違っているとか、鋭い意見であるとか鋭くないとかを気にせずどんどん話すことができます。そんな会話のなかで、部下は大事なことに気づいていくのです。

部下から相談を受けたときのTさんの返しの極めつけが、「私にもわかりません。本当にわからないのです。あなたが頼りです。今どう考えているかを聞かせてください」という返しです。

この驚くべき素直さ。

普通は、社長としてのプライドや、権威づけのため、こんなことを言えない人の方が圧倒的に多いなか、Tさんにあるのは、目の前にいる人の可能性への信頼(承認)と、みんなで大きな目的を達成したいという気持ちだけなのです。Tさんのこんなやり取りがあるので、社員たちは常に「積極的に考える習慣」がつき、自然とその自主自立性やモチベーションがどんどん上がっていくのです。

さいごに

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

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三浦将

株式会社チームダイナミクス 代表取締役http://www.teamdynamics.co.jp
著書『自分を変える習慣力』『相手を変える習慣力』(クロスメディア・パブリッシング)の習慣力シリーズは、累計20万部を突破。他に『人生を変える最強の英語習慣』(祥伝社)『一流の人が大切にしている 人生がすべてうまくいく習慣38』『「できる自分」を呼び覚ます一番シンプルな方法』(PHP研究所)がある。

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【出典】三浦将.
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