この記事では、「営業の心得について、箱田 忠昭さんの書籍『新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ』よりご紹介します。

【書籍】『新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ
【著者】箱田 忠昭
 インサイトラーニング株式会社代表

営業の心得「まず、お客に好かれよう」

法人対法人(BtoB)の取引でも、法人対個人(BtoC)の取引でも、結局は人間対人間の交渉です。そこでは、基本的に“感情”が大きく交渉を左右します。お客は、決して嫌いなセールスパーソンから商品・サービスを買いません。

私の家では、お客さまが遊びに来るとなると、よくケーキを買っておもてなしをします。実は、近くにおいしい洋菓子店があるにも関わらず、わざわざ遠くまで買いに行くのです。なぜだかわかりますか?遠くの洋菓子店のほうが、おいしいケーキがおいてあるから、ではないのです。ケーキの味、つまり品質は同じようにおいしく、品揃えも同程度、価格も同じような価格帯のお店です。それなのに、なぜわざわざ遠くの洋菓子店まで買いに行くのでしょうか。それは、近くの洋菓子店の店員の態度が良くないからです。「いらっしゃませ」の挨拶もなく、店員同士話をしていたり、注文してもそれに対する返事がいやいや言ってる感じで、ただ仕事をこなしているといった接客なのです。「なんか嫌な感じ、こんなお店には二度とケーキを買いに行きたくない」と思うわけです。

逆に、遠くにある洋菓子店の店員は愛想もよく、とても気持ちのいい接客をしてくれます。同じケーキを買うなら、少しくらい遠くてもこの洋菓子店で買いたいと思うのが当然の感情です。今では店員さんとも仲良くなり、いろいろ話をする仲です。おそらくこの先もケーキはこの店で買うことになるでしょう。

このように、人は決して嫌いなセールスパーソンから商品・サービスを買おうとはしません。

飛び込み営業や新入社員が、お客に好かれるために知っておくべき法則

私は仕事柄多くのセールスパーソンに会う機会があります。もちろん、トップセールスと呼ばれる人たちにも会います。できるセールスパーソンは見た目だけではわかりません。いわゆる体育会系の元気のある人もいれば、逆に口数が少なくどう見てもトップセールスには見えない人など、実にさまざまなタイプのセールスパーソンがいます。

しかし、よくよく話を聞いてみると、彼らにはひとつの共通点があるように感じます。それは、売ることが第一の目的になっていないということです。まずはお互いよく知り合い、良い人間関係を作り、その結果として売り上げが上がってくる、ということを経験的に理解しているのです。アメリカの社会心理学者ロバート・ザイアンスの「熟知性の法則」という法則があります。

人は知らない人に対して、攻撃的、批判的、冷淡になる傾向がある

例えば、夜遅くまで仕事をして電車で帰宅している途中、隣に知らない人が座ってきたとします。その人はかなりお酒が入っていて、酒のにおいをプンプンさせています。しかも顔が真っ青です。気分が悪そうで、今にも吐きそうな感じです。こんな状況にあったら、正直いって早く自分の降りる駅についてこの人から離れたい、と思います。

しかし、それがあなたの親しい人だったらどうでしょう。「どうしたんですか、大丈夫ですか。とりあえず、次の駅で降りて少し休みましょう」と声を掛けるはずです。

つまり、相手を知っているか、知らないかであなたの態度は180度違ってくるということです。

人は、その人を知れば知るほど、会えば会うほどその人を好きになる傾向がある

とにかくお客を数多く訪問して、お客を知り、自分を知ってもらうことです。そして、親しい間柄になることです。一度しか会ったことのないセールパーソンより、100回会ったことのあるセールパーソンに人は親近感を覚えますし、同じ商品なら後者のセールパーソンから買いたいと思うものです。

ですから、「近くまで来たので寄らせてもらいました」「新製品のパンフレットが出来たので真っ先にお持ちしました」と言って、とにかくお客と会う機会を増やしてください。1ヶ月に1回分の訪問をするより、5分の訪問を1ヶ月に6回行うほうが、接触頻度が高く有効です。要は訪問時間ではなく、訪問回数なのです。

しかし、どうしても訪問することができない場合は、それ以外の方法で接触頻度を高めるようにします。

例えば、頻繁に電話をしたり、何かあるたびにメールをして、相手と直接ではないにしてもコミュニケーションを取るようにします。特に相手が知りたい情報などを入手したらすぐに連絡するようにすれば、相手との距離もいっそう近くなるでしょう。季節のイベントなどに合わせてお歳暮、お中元、クリスマスカードを送ったりすることも効果的です。

また、こんな話もあります。ある婚約していたカップルが、彼が北海道へ転勤になったため、東京と北海道とに離れ離れになってしまいました。彼は、北海道から毎日彼女に速達のラブレターを書き、その手紙は、郵便局の配達員によって毎日彼女に届けられたのです。そして、なんと年後、彼女はその配達員と結婚したということです。遠くにいてなかなか会えない人より、毎日会う人を好きになるということなのです。

人はその人の人間的側面を知ったときに好意を持つ傾向がある

「いや、実は母親と同居しているんだけど、その母親が認知症で大変でね。夜中に突然起きだしたり、大声出したり、そのたびに起こされてね。でも、自分の母親だし、これまで苦労して俺のこと育ててくれたわけだから、できるだけのことはしてやりたいんだ」こうした部長の人間的側面を知ることによって、あ、部長って本当はお母さん思いの優しい人なんだ、と見る目が変わります。少し好意を持ちます。翌日、またいつものように怒鳴られたとしても、部長に対してこれまでとは違った感じを受けるはずです。

このように、人は相手の人間的な側面、つまりプライベートな面を知ることによって、安心感を覚え、好意を持つものなのです。

実は、私は毎日それを実践しています。私の仕事は、毎日のようにセミナーや研修会で講演を行うことです。私はそのセミナーや研修会の中で自分についていろいろと話をします。家族は妻と人の息子、そして孫もいること。趣味はサーフィン、カントリーミュージック、座禅であること。そして、何より妻を愛していること。こうした私の人間的側面を話すことで、受講生が私に好意を持ち、結果として研修効果が上がることを期待しているからです。つまり、私は積極的に自己開示しているのです。

ではいったい、どんなことを自己開示すればいいのでしょうか。

失敗談、悩み、夢、家庭のことなどがよいでしょう。「昔こんなヘマをしたことがある」と聞いた部下は、「意外でした。課長でもそんな失敗あるんですね」となります。逆に、自慢話は避けるべきです。自慢話を聞いて喜ぶ人はいません、かえって反発を受けることになります。

それからもう一つ。お客とあなたとの“共感ゾーン”を広げることで、お互いの良好な関係を築くことができます。どういうことかというと、例えば今でも付き合いのある学生時代の親友を一人思い出してください。おそらくその親友とあなたは、同じ学校で、同じクラス、同じ年齢、同じクラブ活動をしていた人ではないでしょうか。

社会人であれば誰しも、仕事の面とそれ以外の面とを持っています。人間的側面とは仕事以外の面のことであり、家族のこと、趣味のこと、ものの考え方、信条、価値観といったプライベートな側面のことです。こうしたプライベートな面を知ると、人はその人に好意を持つのです。

例えば、普段から怒りっぽくて、いつもイライラしておっかない上司と初めて飲みに行ったとします。「君、今日飲みに行こう」当然、断ることなどできません。「はい部長、お供します」飲み始めは仕事の話からスタートです。「君ね、あの企画書はどうにかならないのか。あれじゃダメだよ、お客さんに出せない。やり直しだな」そうこうしているうちに、だんだん部長も自分のことを語り始めるわけです。

つまり、私たちは同じ面が多い人が好きなのです、同類項が好きなのです。それを“共感ゾーン”と呼んでいます。この共感ゾーンが広ければ広いほど人は親しくなることができます。

ですから、お客との面談の際には、共感ゾーンを広げることです。野球やゴルフなどの趣味の話でもいいでしょう。出身地、出身校、あるいは息子がいる、娘がいるなど、とにかくお客との共通点を探してお客と親しくなることです。

できるセールスパーソンは聞き上手

セールス活動において、いかにお客に好かれ、良い感情を持ってもらうことが大切であるかということは、前述のとおりです。お客とコミュニケーションをとって、お互い知り合うということが大事になるわけです。その際、自分の意思を相手に伝えることはとても重要なスキルです。話し方、プレゼンテーションの能力がこれに当たります。

しかし、それと同じくらい重要なのが聞くスキルです。人を説得するには、まず相手が何を考えているのか、どんなニーズやウォンツがあるのかを確認する必要があります。まず、相手の情報が必要になるわけです。

できるセールスパーソンは、例外なくこの能力に優れていて、セールストークよりセールスリスニングに力を入れています。

聞くことで情報が入る

実は、私には苦い経験があります。以前、ある大手企業から私の会社に研修の引き合いがありました。それは、若手セールスパーソン向けの研修依頼でした。200人を対象に回に分けて開催したいというのです。

私の会社の営業担当者Kさんが先方に出向いていろいろとニーズを聞き出し、私も最終段階の企画書を提出する際には同行し、プレゼンテーションを行いました。先方の部長は、「いや、さすがに箱田先生、うわさには聞いておりましたが非常にいいプレゼンテーションを聞かせていただきました。たいへん勉強になりました、ありがとうございました。ぜひ私どもの営業研修をお願いいたします」と言ってくれました。

そこで、早速研修の日程を決めて部長と別れたのです。私は部長がこれだけ言ってくれるのだから、もう決まったものと思っていたのです。ところが、それから一週間後キャンセルの連絡が入りました。

「そんなはずはないだろう、日程まで決めておいて」と、正直怒りもこみ上げてきました。Kさんによると、先方の求めているのは、新人のセールスパーソンに対してセールスの基本をロールプレイング中心に教えてほしいというものでした。例えば、名刺の出し方、挨拶の仕方などです。ところが、私の行ったプレゼンテーションは提案型営業の進め方で、彼らにはレベルが高すぎるというのです。「それなら、どうして事前にそのことを聞いてこなかったのか」とKさんをただしました。

事前に先方のニーズを正確に理解していれば、それに合った企画書を作り、プレゼンテーションを行っていたのに、と後悔しても後の祭りでした。「若手セースルパーソンとは、具体的に入社何年目くらいの人たちが対象ですか?」「彼らにどんな能力を身につけてもらいたいと考えていますか?」事前に、この2つの質問をしていればよかったのです。

聞くことで仲良くなれる

質問して聞くことによって、相手を知ることができます。たとえ初対面であっても、

「出身はどちらですか?」
「え、茨城県の古河市。実は父の実家が古河市なんです。今でもよく遊びに行きます」
「古河第五小学校出身ですか、それじゃ私の父と同じ学校ですね」

となれば、一気に壁が取り払われ話が弾みます。いろいろ質問することによって、相手との共感ゾーンが広がります。

「私も子供のころ正月など遊びに行くと、よく祖父と土手で凧揚げしました」
「もしかすると、同じところで遊んでたかもしれませんね。いやー驚いた」

どんな些細なことでも共感ゾーンは広げることができます。

「お子さんは今おいくつですか?」「それなら、ウチの子供と同じですね。最近生意気になってきましてね.」
「お休みの日は何をしてますか?」「自転車でサイクリングですか、いいですね。実は私も最近健康のために自転車を買って、土日は時間くらい走ってるんですよ。結構いい運動になりますよね」

どんどん質問して共感ゾーンを広げ、相手と仲良くなるようにしてください。

聞くことで相手は満足する

人は話を聞くよりも、話をするほうを好みます。基本的に話好きなのです。それも自分のことを話すのが大好きで、特に自慢話は聞いてもらうだけで気分が良くなります。

カール・ロジャースによれば、「人は話をすることにより心が癒やされる」といいます。

お客も自分の話をちゃんと聞いてくれる人が好きなのです。聞くことによって相手の心を開かせましょう。

デール・カーネギーの著書『人を動かす』には次のような記述があります。

ニューヨークであるパーティに出席したときのことです。あるご婦人がカーネギーを見つけて、「失礼ですが、あの有名な話し方の先生のデール・カーネギーさんですか?」と聞いてきました。カーネギーが「はい、そうです」と答えると、「感激です。私は話が下手なので、ぜひ話し方のコツを教えてください」と頼んだのです。すると、カーネギーはそのご婦人に、「それより、先ほどチラッと聞きましたが、以前ライオン狩りに行かれたそうですね。すごいですね」「いつ行かれたのですか?どなたと行かれたのですか?どうやってライオンをつかまえたんですか?」と、いろいろと質問したそうです。

そのご婦人は得意げに分以上にわたって話をした後、こう言って帰っていきました。「あら、もうこんな時間。もう行かないと。カーネギー先生、ありがとうございました。さすが話し方の先生だけあってお話が上手ですね。とても楽しかったです」カーネギーはほとんど話をすることもなく、ひたすらライオン狩りの話を聞いていたそうです。にもかかわらず、「カーネギー先生は話が上手で、とても楽しかった」となるのです。

いかに人の話を聞いてあげるということが大事であるかがわかります。あなたもセールスパーソンとして、お客の話、特に苦労話や自慢話に耳を傾けることです。

聞くことで知識が増える

人から聞いて学ぶことは多くあります。一人の人間が一生のうちに経験することなど、たかが知れていますから、どんどん聞いて知識を増やすべきです。業界の知識、会計の知識、経営の知識といった仕事に直結するものばかりでなく、おいしいコーヒーのいれ方、車のメンテナンスの仕方などの知識でも構いません。ともかくど
んどん聞いて貪欲に知識を増やしてください。そうすることによって、ほかのお客との面談の際に、その知識を生かして共感ゾーンを広げることもできます。

例えば、新規開拓をする場合、特定の業界に絞ってアプローチを行うことがよくあります。そのやり方にはメリットがあります。業界を絞って徹底的に訪問すれば業界知識や最新情報を得られるからです。

ある訪問先で聞いた業界情報を次の訪問先で話すことによって、「君、よく知ってるね。勉強してるね!」となり、あなたに対する評価、信頼感は一気に増します。

聞くことでお客の人間性がわかる

話をすることよって、その人の人間的な側面がかなり見えてきます。話の内容、話し方や態度、目つき、声のトーンなど観察することによって、積極的な人だとか消極的な人だとか、あるいは優しい人だとか厳しい人だとか、論理的だとかそうではないとか、身をもって感じることができます。そうすることによって、そのお客とどのように交渉していくべきなのか、ヒントを得ることができます。

上手にお客の話を引き出すための5つのコツ

当然のことですが、あなたがお客の話を聞くときは、積極的に前向きに聞くべきです。ここでは、できるセールスパーソンがどのようにしてお客から話を引き出しているのか、その聞き方のルールを見ていくことにしましょう。

うなずき効果

お客の話を聞きながら、うなずきを入れます。大きくうなずいたり、小さくうなずいたり、その時々の話に合わせて行います。ボディランゲージで視覚に訴える方法です。このうなずきの効果は絶大です。

話をしている側からすると、うなずいている人はきちんと好意的に話を聞いているという意思表示をしていると受け取るわけです。

相づち効果

うなずきに加え、相づちを打つとさらに効果的です。視覚だけでなく、耳からも訴えることにより相乗効果が生まれます。うなずきながら、「なるほど」「そうですね」「よくわかります」「それで、どうなったんですか」と話に潤滑油を与えるのです。

お客は気分が良くなり、ますます話を続けます。こうして話を好意的に聞いてくれたあなたは、お客にとって好感の持てるセールスパーソンとなるのです。

視線効果

お客の目を見て話を聞くということは、今私はあなたの話に集中しています、という意思表示でもあります。

資料を見ながら話を聞いたり、目を逸らして話を聞いていては、真剣に話を聞いていないと思われますし、何だか落ち着かない人、自信のない人と思われてしまいます。

目には力があります。ぜひ、しっかり相手の目を見て話を聞くようにしてください。

質問効果

質問することも、お客に対して話を聞いているという意思表示になります。

質問には2つ種類があります。一つはクローズド質問であり、もう一つはオープン質問です。

クローズド質問は、「イエス」か「ノー」で答えられる質問のことです。「最近、運動してますか?」「今日は天気がいいですね?」という類の質問です。これですと、話が後に続きません。「はい」なり「いいえ」と相手が答えたら終わりです。

一方、オープン質問は答えが無限にある質問で、主に相手の意見、考え方を聞く場合に使います。「商品購入の際、気をつけていることは何ですか?」「今、最も関心のある事柄は何ですか?」「今、何か問題をかかえていますか?」といった質問です。

効果的なオープン質問で、お客の本音を引き出してください。よいセールスパーソンは聞き上手であり、質問上手であることを覚えておいてください。

メモ効果

商談中にメモを取るということは、お客に対して安心感を与えます。メモがあればお互い後で見直すこともできますし、間違い、勘違いを防ぐこともできます。

商談の際は必ずメモを持っていき、話し合いが始まる前に準備しておいてください。

営業の心得が学べる本

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

「高いなぁ」と言われても
売れる営業のしかけ


新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ

営業に行くとお客さんに必ず言われるのが「高いなぁ、もっと安くならないの?」という一言。そうなると値下げしてでも売れればいいと思ってしまうかもしれませんが、大きな間違いです。 どんなときでも、より高く売るのが営業マンの仕事です。本書では、お客の心理を利用して、値切りを封じ込める「提案営業のやり方」と「価格交渉のスキル」を紹介しています。

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