オンリーワンになるためのアプローチとして「とりあえず宣言してしまう」という方法があります。宣言してしまうことで、それが事実として一人歩きしていくことがあるのです。

そこでこの記事では、コピーライター 川上徹也さんが、著書『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』で紹介している「とりあえず宣言してしまう」ことでブランディングを行っている事例を公開します。

川上徹也

湘南ストーリーブランディング研究所代表。
ストーリーの力で、会社・商品・個人を”売れ続けるブランド”にするクリエイティブ・ディレクター。『一行バカ売れ』(KADOKAWA)『自分の言葉で語る技術』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

「とりあえず宣言してしまう」ブランディング

「土用の丑はうなぎ」

たとえば、「土用の丑」の日にうなぎを食べるという習慣は、江戸時代の発明家として有名な平賀源内が発案したものだと言われています。知り合いのうなぎ屋に「夏にうなぎが売れない」と相談された源内は、「土用の丑はうなぎの日、食すれば夏負けすることなし」というコピーを考えました。このように勝手に宣言した「土用の丑はうなぎ」が、200年以上たった今でも受け継がれているのです。

「日本一の夕日の町」

宣言でわかりやすいのは、「日本一」「世界一」と宣言してしまうことです。

四国の愛媛県伊予市に双海町という町があります。双海町は、「しずむ夕日が立ち止まる町」というキャッチフレーズで、今から20年以上も前に「日本一の夕日の町」と宣言しました。

それまでの双海町は、過疎に悩む何の取り柄もない町でした。きっかけは、取材で訪れた東京のテレビ局のディレクターが何げなく言った「ここの夕日はきれいですね」のひと言。それを聞いた、町職員の若松進一氏は、何も自慢することがなかった町を、夕日でブランド化することを思いつきました。なにげなく眺めていた夕日の美しさの価値を、よそ者によって気づかされたのです。双海町を「日本一の夕日の町にする」という「志」を立てた若松氏ですが、最初は誰にも相手にされませんでした。夕日が価値を持つなんて、地元の人には信じることができなかったのです。

そんな役場や住民を説得し、まず駅で夕日コンサートを開催しました。またどこにでもある夕日をオンリーワンの夕日とするため、「恋人岬」と名付けて、モニュメントを立てました。自身も全国の夕日スポットを見て回り研究を重ね、のちに「夕日学」という講座を開設するほどになりました。また「夕日の時刻表」をつくり、観光客から「今日は何時に日が沈みますか?」とたずねられたときに答えられるよう、地域住民の人に持ってもらうようにしました。

今では「夕日の町」としてすっかり有名になり、年間50万人以上の観光客が訪れます。ふたみシーサイド海水浴場の夕日の観覧席では、「夕やけソフトクリーム」を食べながら沈みゆく夕日をいつまでも眺めているカップルが多く見受けられます。

「日本一小さい牧場」

神奈川県藤沢市にあるイイダ牧場のキャッチフレーズは、「日本一小さい牧場」です。牧場というと〝小さい〟はマイナスイメージですが、逆手に取ったわけです。

実際に行ってみると、10頭ばかりの牛が飼われている牛舎があるだけの、牧場とも言えないくらいの広さです。ここの売りは、ジェラートやソフトクリーム。かなり辺鄙な場所であるにもかかわらず、お客さんが口コミで次から次へとやってきて、駐車場はいつも順番待ちです。

味は確かに絶品ですが、この「日本一小さな牧場」というキャッチフレーズがなければ、ここまで口コミでは広がらなかったと思います。「日本一」「世界一」という言葉は、人に紹介しやすいフレーズなのです。

「世界最高の仕事」

2009年、オーストラリア・クイーンアイランド州観光公社は、「世界最高の仕事」(The Best Job in the world)というキャンペーンを仕掛けました。このキャンペーンは、グレートバリアリーフに位置するハミルトン島で、住み込みの管理人を募集するというもの。島にある豪邸で半年間ほとんどを遊んで暮らして、報酬が15万オースラリアドル(現在のレートで約1100万円)というもので、ネットで大きな話題になり、最終選考が開かれたハミルトン島には世界中から数多くのメディアがかけつけました。これも、「世界最高の仕事」と勝手に名付けたネーミングが成功の大きな要因であることは間違いないでしょう

このように勝手に宣言してしまうことで、ブランド化できてしまうケースは多々あるのです。

「日本一」「世界一」とうたうときの注意点

ただし、注意していただきたい点があります。テレビ新聞等の広告で「日本一」「世界一」等とうたうには、具体的で客観的な数字を示さないといけないという厳しい規定があります。またマス広告以外でも、その表示を見たお客さんがその商品を実際よりも、著しく優良である・有利になると誤認する表示は、公正取引委員会により違法とみなされる可能性があるので注意してください。

現実と大きく離れた表示は逆効果になるだけなのでやめておいた方がいいでしょう。

(『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』をもとに編集)

 

『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』
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