この記事では、就業規則に「採用」に関するルールを記載するときのポイントを、社会保険労務士 寺内正樹さんの著書『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』よりご紹介します。
【書籍】『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』
【著者】寺内正樹 社会保険労務士 / 行政書士
入社時の書類は「提出期限」を決める!
社員の採用は、組織をつくるための最初のステップになるため、重視している会社は多いです。これから新規に採用を考えている経営者に「どんな人が欲しいですか?」と聞くと、やっぱり「良い人」が欲しいと答えます。多くの経営者の答えから「良い人」を分析してみると、会社にとって「プラスになる人で、かつ、マイナスにならない人」のことを指しています。「プラスになる」とは、会社にとって必要な能力・経験を持っていること、「マイナスにならない」とは、トラブルを起こさないことです。
このような人材を採用できれば問題はありませんが、実際は、なかなかそうはいきません。書類選考や面接を繰り返しても、完璧に人を見抜くことは残念ながら不可能です。そのため、「採用」に関しては、採用してからでも何らかの対応が行なえるようなルールをつくることが必要です。
まず、新入社員については、「雇用保険被保険者証」や「年金手帳」など社会保険加入に必要な書類のほかに、「身元保証書」や「誓約書」といった会社のリスクを軽減する書類の提出を求めるようなルールをつくるべきです。
「身元保証書」については、社員が会社に対して何らかの損害を与え、会社が損害賠償請求をする際に、第三者にその債務を保証してもらうための書類です。社員の親族を含めた1~2人を保証人として立ててもらうことが多いです。
「誓約書」は、入社の段階で、会社として守ってもらいたい事柄を誓約してもらうための書類です。例えば、個人情報の取り扱いや副業の禁止など法律上禁止されていることに留まらず、会社として決めたルールに従うことを約束してもらいます。
そして、これらの書類は、遅くとも入社日より14日以内に提出させるルールをつくるのがポイントです。万が一、書類の未提出があったり、内容の虚偽などが発覚し、やむを得ず解雇を行なおうとする場合に、14日以内であれば、30日分の平均賃金である「解雇予告手当」を支払わずに進めることが可能だからです。
誤解されやすい「試用期間」のメリット
次に、「試用期間」についても明確に定めておくべきです。「試用期間」とは、入社後に基礎的な研修等を行ないながら、社員の職務遂行能力や適格性などを判断する期間です。
期間については、特に法律上の決まりはなく、一般的に、1~6ヶ月ぐらいで設定されることが多くなっています。不当に長い場合、期限を定めない場合には、試用期間として認められなくなる可能性もあるため、明確な期間をルールとして定めておくべきです。
そして、多くの会社で、試用期間を定めるメリットは、①試用期間中であれば社会保険に加入しなくても良い、さらには、②試用期間満了と共に当然に本採用を拒否することができる、と誤解されています。
この「試用期間」について、判例は「解約権留保付労働契約」としています。つまり、試用期間中であっても、労働契約は通常通り成立しているため、社会保険に加入する義務は当然あるのです。
また会社は、この期間において社員としてやっていける見込みがない場合に契約を解約できる権利を持っているに過ぎません。試用期間の途中で解雇をしたり、試用期間満了後に本採用を拒否することは、この解約権が行使されて、はじめて可能になります。
そして、この解約権を行使する場合も通常の解雇と同様に、「客観的・合理的理由があり、社会通念上相当性であること」が必要です。しかし、試用期間は、会社が期待する社員としての能力や適格性を判断する期間であることから、結果として、通常の解雇より権利行使が認められやすいのです。
具体的には、以下の2点が認められることが必要です。①採用時点では判断不可能な実際に働いてもらってはじめてわかる事実が明らかになった場合、②その事実から、社員として引き続き雇用することが不適当と客観的に認められる場合です。
あるマーケティングの会社で、営業職であるにもかかわらず、派手なメイクや大きなアクセサリーをつけてくる女性社員がいました。彼女は入社後1ヶ月は普通だったのですが、環境に慣れてくるにつれ、格好がどんどん派手になり、「営業職としてふさわしくない」と注意しても一向に聞き入れなくなりました。通常の解雇であれば、この時点で行なうことは難しいかもしれませんが、3ヶ月の試用期間が設けられていたため、この会社の社員として不適当として本採用を見合わせました。このように、いざという時に「通常の解雇より広く権利行使が認められる」ことが試用期間のメリットなのです。
さいごに
以下のページでは、「就業規則」を会社の成長拡大に役立つものにするためのチェックシートを公開しています。
記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。
仕事のあたりまえは、
すべてルールにまとめなさい!
『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』では、今回ご紹介した内容の他にも、あなたの会社に合ったルールの作り方や、会社の成長につながるヒントを紹介しています。会社にルールがなく社内にまとまりがないと感じる方や、会社の急成長に対して体制が整ってないと感じている経営者の方は、是非一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
寺内正樹
シリウス総合法務事務所代表(http://www.kaisha-teikan.com/)
2002年11月より行政書士事務所を開設。2005年10月、社会保険労務士の登録も行い、企業の法務・人事労務をトータルにコンサルティングしている。中小企業の新会社法対応、会社設立には特に力を入れており、従来の業務に加え、個人情報保護法対策・プライバシーマーク取得支援などの新分野にも積極的に取り組んでいる。
Facebook:terauchimasaki
【参考】寺内正樹.仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!