この記事では、就業規則に「秘密情報」に関するルールを記載するときのポイントを、社会保険労務士 寺内正樹さんの著書『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』よりご紹介します。

【書籍】『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!
【著者】寺内正樹 
社会保険労務士 / 行政書士

秘密情報とは

以前、生命保険のコンサルティング会社の社長からこんなご相談がありました。

「うちは、数社の生命保険を効率良く組み合わせて、保険料を安く、保障を大きくしていくのがノウハウです。ところが、辞めていった社員の中には、このノウハウを使って、独立したり、同業他社で同じような仕事を始める例があります。何とかならないですかね?」

この会社のノウハウは、いわゆる「秘密情報」にあたるものです。「秘密情報」とは、公然とは知られていない会社の事業活動に有用な技術上または営業上の情報のことです。

雇用契約が結ばれている在職中であれば、社員は、会社の利益を不当に侵害しないように配慮する「誠実義務」を負っていると考えられています。それに付随する義務として、「秘密情報を保持する義務」も負うことを認めた判例もあります。

秘密情報のルールを定めるときのポイント

何が秘密情報にあたるかを明示する

ルールを定める時のポイントは、何が会社にとっての「秘密情報」にあたるかを具体的に明示しておくことです。例えば、製品・サービス・技術の開発・企画、製造原価、価格決定、財務、社内人事、顧客、業務提携、営業ノウハウなどの情報は「秘密情報」にあたるとしている会社が多くあります。そうすれば、これらについての情報漏洩があった場合も、即座にその会社にとっての「秘密情報」として対応することが可能です。

退職後も義務を負うことを明確にする

次に、在職中だけでなく、「退職後」も義務を負うことを明確にしておくことです。

退職後は、雇用契約がなくなり、誠実義務もなくなるため、社員は「営業秘密を保持する義務」を当然には負いません。だからこそ、就業規則などで、この点について明確に定めておく必要があるのです。

さらに、ルールをより強化し実質的に規制するため、入社時・退職時などに個別に誓約書、契約書を作成しておくことが有効です。なぜなら、就業規則などは、あくまで社員のためのルールであり、退職者に向けて作られているものではないからです。

このようなルールを定めておくことで、会社が費用と労力を注ぎ、苦心して作り上げたノウハウが簡単に利用されることを、ある程度防止することが可能になります。

退職者を「ライバル」にさせないためには…

さらに、「秘密情報」の利用とは別の問題として、退職後に競合する同業となることを防止したい、という希望を持つ会社も多くあります。たとえ大々的にノウハウなどの「秘密情報」を利用しないにしても、同業他社が自社の内部でしか知られていなかった情報を知ったり、新規で会社を立ち上げられて、会社の顧客に営業をかけられたりするのはあまり気持ちの良いものではないでしょう。

そこで、前職の会社と競合する会社に就職したり、自ら同じ業務を行なう会社を設立・運営することを禁止する「競業避止義務」をルールで課すことができないのか、という問題になります。

この点、在職中であれば、秘密情報と同じように雇用契約の付随義務として社員の「競業避止義務」を認めた判例もあります。ただし、退職後については、憲法にも「職業選択の自由」が定められており、退職後に何をするかは原則として本人の自由で、当然に「競業避止義務」が認められるわけではありません。

そこで、この場面でも就業規則などで、ルールとして明示をしていくことが重要になってくるのです。ただし、「秘密情報を保持する義務」は、あくまで秘密情報が他に広まっていかないようにして、社員の就職・起業などの活動を「制約」するのみでした。それに対し、「競業避止義務」は活動そのものを「禁止」することになり、社員に与える影響が大きいことから、より注意をしなければなりません。厳しすぎる「競業避止義務」は、裁判などで無効と判断されてしまう可能性もあるのです。

判例によれば、①対象従業員の地位、②競業禁止期間の長さ、③競業が禁止される地域、④対象となる職種・業務内容、⑤代償措置の有無、などを総合的に考慮して判断されることになっています。

①従業員の地位については、義務を課されるのは、管理職や研究職など秘密情報により深く関わる社員に限られているか、ということです。次に、②期間ですが、競業避止義務は制限の度合いが大きいことから、長期に義務を課すと認められにくくなります。判例でも、判断は分かれており、その期間である必要性や代償措置から判断されます。③地域は、その会社の営業エリア外の行為まで禁止する必要性は低いです。④職種・業務内容は、元の会社のものと実質的に同じものかどうかです。⑤代償措置は、義務を負わせる代わりに退職金の上乗せなどの埋め合わせ措置があるのかどうかです。これらを考慮し、競業避止義務はルールとして有効に認められるのです。

さいごに

以下のページでは、「就業規則」を会社の成長拡大に役立つものにするためのチェックシートを公開しています。

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寺内正樹

シリウス総合法務事務所代表http://www.kaisha-teikan.com/
2002年11月より行政書士事務所を開設。2005年10月、社会保険労務士の登録も行い、企業の法務・人事労務をトータルにコンサルティングしている。中小企業の新会社法対応、会社設立には特に力を入れており、従来の業務に加え、個人情報保護法対策・プライバシーマーク取得支援などの新分野にも積極的に取り組んでいる。

Facebook:terauchimasaki


【参考】寺内正樹.
仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!