この記事では、「事業計画書の書き方」を解説します。
ベルシステム24の元社長である園山征夫さんの著書『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』で解説している内容を参考に編集しています。
事業計画書とは
「事業計画」は一般的に以下のように定義されています。
事業計画は事業の達成目的、目標、達成する計画・過程を示した公式のステートメントまたはその文書のこと。
事業計画|Wikipedia
ここでも触れられている「文書」のことを、「事業計画書」と呼びます。
事業計画書は、自社が成長することによって、どこにたどり着こうとするのかをはっきり示し、目標を社員と共有するために必要となります。
事業計画書を作るメリット
具体的な書き方・作り方の前に、事業計画書を作成するメリットを確認しておきましょう。しっかりとした事業計画書は、企業活動を行う上で様々な役割を果たします。
社長のヴィジョンを社員と一緒に実現するために
社長のヴィジョンを、「事業計画書」に落とし込むことで、組織として公的に社員を巻き込むことことができます。社長も大手を振ってその実現に向かって会社の資源を使えることになります。
会社方針の統一を図るために
会社が「どこに向かって、いつまでに、何をやるのか。それを実現したら参加した社員にはどんなメリットがあるのか」の全体図を事業計画書で示します。そうすることで、社員のベクトルを合わせ、エネルギーを特定方向に結集することができます。
新規事業や「新しいこと」に取り組むために
事業計画には、既存の「ドメイン」の拡大と新しい「ドメイン」を探すことを盛り込みます。「事業計画書」で、しかるべき新分野へ進出して将来の糧を得るのだという会社の姿勢を明示し、担当部門に投資予算枠と責任を与え実行に移させるのです。そうすることで「事業計画書」が、将来のマーケットを確保するための重要な役割を果たします。
「経営目標」として「利益配分」を明確にするために
会社という組織で「経営目標」を実現すると、結果として利益が増大します。この利益の分配が社員の一番の関心事になります。これをスムーズに行うためにも、「労働の分配率」を「事業計画書」であらかじめ明記します。
資金調達の裏付け資料とするために
融資依頼に対する金融機関の適正判断にあたり、社長の人となりも重要な要素になりますが、書類に落とし込んだ融資依頼書の「裏付け資料」の内容が重要です。この時の裏付け資料に効果があるのがしっかりした「事業計画書」です。この計画書が融資依頼の個別案件と直結するものでなくとも、社長がしっかり経営をやろうとしている、やっている裏付けになるのです。
細々とした判断に翻弄されないために
社長の本来の仕事とは、「将来の種になる事業の着眼点を見つけ、経営の戦略を練り、必要資金を調達し、事業推進の主役たる人材を育成する」ことです。これらのことに時間を使うためにも、判断の基準としての大枠を「事業計画書」に示すことで、細々とした判断は部下に任せることができます。
リーダーシップを発揮するために
「事業計画書」の最大の目的は、経営目標達成に向けて社長が強いリーダーシップを発揮できるようにすることです。
もし、社長が「事業計画書」でその年度や毎月のやるべき仕事の大枠を握っていれば、次のようなことを迷いなく指示、指導できます。
- 目標は遂行できたか
- 遂行にあたりどんな課題が生じたか
- その課題や積み残し分をいかに解決する考えなのか
- 課題の解決にあたり他の部門のヘルプが必要なのか
これらのことが、月次レビューのための定例報告会の場で明確に議論できるはずです。
事業計画書の書き方
事業計画書に書くべき項目
まずは、事業計画書に書くべき項目を確認します。事業計画書には、大きく分けて以下の10の項目を盛り込みます。
- 事業を通して実現したいトップの「夢」「思い」「志」「ヴィジョン」
- 経営理念
- 外部環境:環境の変化が及ぼす影響
「景況感、競合環境」「代替商品動向」「ユーザー要望の変化」など - 内部環境:自社の制約要因の変化
「投入可能な経営資源」「時間、期間」など - 前期の成果と反省
- 経営目標
「重要な計数」「重点項目」 - 新たな「方向性」と「戦略」
- 方向性実現、戦略実現の「課題」と「リスク」要因
- 課題解決及び(当期)目標実現のための「事業計画施策群」など
- 施策ごとの具体的アクション
事業計画書の例
以下の表は、上記の項目を踏まえて作成された事業計画書の作成例です。(『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』P71より)
第1章 | 『×ヶ年中期計画(中期事業計画書)』の要約、重点目標、核となる戦略、計数総括の概略、クオーター単位の取り組みスケジュール |
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第2章 | 自社を取り巻く環境 ― 顧客の選択の変化、××システム商品への顧客反応、競合相手の動静と異業種のベンチマーク |
第3章 | 自社の強み、弱さから目的に即した課題の抽出・分析と顧客の要望とのギャップへの作戦 |
第4章 | ××新システムの段階的レベルアップ |
第5章 | ドメインの再定義、堅持分野とそれを基にしたニッチな多軸商品化路線 |
第6章 | 顧客に更に近づく、新しい顧客を増やす商品企画、営業企画、販売促進策 |
第7章 | 売上(受注)実現の裏付けある策、営業人材の育成策 |
第8章 | 軸を維持した新事業、新商品開発と不要なリスクの回避策 |
第9章 | 販促導線の効果測定と自社商品ブランドの強化 |
第10章 | 顧客視点での複数の収益源泉ルートの確保と、機動的に動ける組織体制 |
第11章 | 業務プロセス改革と価値の付加、業務支援のシステム化、新しいことへの取り組み、情報の一元化・スピード化 |
第12章 | サービスの生産性とクオリティーを継続的に把握・是正できる仕組み |
第13章 | リーダー人材の育成具体策、具体的目標、キャリアプラン、独立支援策 |
第14章 | 縦、横のコミュニケーション活動と仕組み、「見える化」作戦、人事・労務・給与改善、モチベーションへの取り組み |
第15章 | 自社のヴァリューチェーンの洗い直しと経営体制の強化 |
第16章 | ノウハウの蓄積、活用の仕組み、ツール類の開発 |
第17章 | 協業・提携作戦、カネのかからない買収作戦、合併策 |
第18章 | 投資の具体的内容とキャッシュフローの姿 |
第19章 | 損益計算書、貸借対照表主要項目の姿 |
事業計画書の書き方
事業計画書は以下のような流れで内容を考え、作成していきます。
- 「経営理念」を具体的に表現する
- 「戦略」を決める
- 戦略を実行レベルに「戦術」として落とし込む
- 目指す「目標」を数値で示し、説く
順番に詳しく確認していきましょう。
1.経営理念を具体的に表現する
会社を成長・発展させるには、経営哲学が必須です。それは会社経営にあたっての骨格、背骨部分に相当し、これがしっかりしたものでなくてはなりません。会社繁栄の土台となるものです。
この経営哲学は「経営理念」とも表現され、簡単に言えば、「社会的な使命」や「存在意義」です。
たくさんの会社が競争して生きている中で、自分の会社はこういう存在意義のある経営をして社会的な使命を全うしていくという、経営の根幹となる部分です。この中に社長の野望・思い・志などの抽象的なものがヴィジョンとして包含され、それをデザインした形で具体的に表現します。
社長の野望・思い・志を具体的に表現する方法
経営者の夢をデザインする際には、人材や資金など経営のために必要な資源を集めることを可能にする「魅力ある物語」にすることがカギになります。
大枠として次のことを念頭に、経営の基礎となるグランドデザインにしてください。
- まず、社長がやりたいこと、「夢」を紙に落とす。発する言葉のままに落とす
- 販売する商品のイメージを描く
- 商品の差異化のポイントを列挙する
- その商品を販売してどれほど儲けたいか、「利益の額」を書き込む
- 利益を生むための社員数、人件費を予想して数字を入れてみる
- 社員の将来の給与水準を書く
- 商品の生産にかかるコストを予想して数字を入れる
- 逆算して、売上の数字を想定する
- これらの数字をいつまでにやるのかの時限を明示する
- どんな競合相手がいるかを描く
- 必要な資金量と調達方法の概略を明示する
- これらをできるだけシンプルに描いてみる
グランドデザインは、大まかな設計図です。細かく書く必要はありません。やりたいことを明示して、どの時点で、どれだけ儲けたいか、そのために資金がどれほど必要かを明示すればよいのです。
6つの約束
『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』の著者である園山征夫さんは、ベルシステム24の社長就任後、まず「6つの約束」として自身の「夢」を描き、社員に具体的に呈示しました。
一、5年以内の上場
一、テレコミュニケーション分野でダントツ一番化
一、テレコミュニケーション分野の徹底的な教育の充実
一、コミュニケーション・マネジメント研究所の立ち上げと確立
一、近代的オペレーションセンターの実現
一、全センター黒字化と一大イベントの実施
この節に関連する項目
- 事業を通して実現したいトップの「夢」「思い」「志」「ヴィジョン」
- 経営理念
2.「戦略」を決める
「戦略」とは競争に勝ち、儲けるための方向性を決める成長シナリオです。
事業を長年続けていると、知らず知らずのうちにその業界に培われた伝統や慣習に染まり、考え方や行動もそれに縛られてきます。
社長自身はそれらを打ち破ろうと努力しても、多数派の社員は伝統や慣習の中で商売をしがちです。それに準ずる方が居心地が良いからです。会社全体に新たなことを考えて実行するエネルギーが不足してきます。
そうならないように、「事業計画書」の中で、
- 会社の成長を引っ張るドライバーを探し、会社がさらに儲かる方向性を選択する
- その方向性を実現できる戦略を探し、その優先順位付けをする
- 会社の行く先に向けて社員個々人の行動や仕事のやり方を変えさせ、戦術に落とし込む
これが「戦略」です。
この戦略の内容こそ「事業計画書」の中で最も重要なところで、社長の「夢」、「思い」や「志」がヴィジョンとなったものを現場の実行プランとしてつなぐ役割を果たします。
戦略の選択手順
戦略は以下のような手順で選択します。
- 外部環境などから先行きを予測する
- SWOT分析などから方向性候補群とドライバーを探す
- ビジネスモデルやドメイン、ポジションなどの方向性を決める
- 「将来の姿」を実現できる戦略を選択する
- 将来の糧を増やすため、戦うドメイン(事業領域)で競争相手に対する優位性を築き、自社の成長スピードを速める
- 戦略資源を集中配分する
この節に関連する項目
- 外部環境:環境の変化が及ぼす影響
- 内部環境:自社の制約要因の変化
- 前期の成果と反省
- 経営目標
- 新たな「方向性」と「戦略」
3.戦略を実行レベルに「戦術」として落とし込む
「戦術」とは、個別の戦闘でどう勝ち、目標とする「利益」を出すか、その戦闘で勝つ方法です。言葉は格好良い響きを持っていますが、それとは裏腹に「泥臭い作戦」です。
戦略を実行レベルに「戦術」として落とし込む。個別の部門の責任者に落とし込みます。
これを部門の責任者が部下と一緒に考え実行するので、「事業計画書」の中で部門の責任者を誰にするかの人事・組織に連動して策定しなければ意味がありません。
その戦闘で勝たなければ将来の礎が出来ないとなると、相当の力量と経験豊富な部門責任
者を充てねばなりません。
施策の例
事業計画書にどのような施策を記載するかは、各会社の状況により異なります。ただし、長く継続して成長・発展するためには、事業開発・商品開発施策、人材施策、ノウハウの蓄積施策は欠かせないものです。
事業計画書に記載する施策には、以下のようなものが考えられます。
- 人材施策(人材教育・研修、募集採⽤)
- 事業開発・商品開発施策
- 営業・マーケティング施策
- サービスマネジメント施策
- 物流施策
- クオリティー施策
- コミュニケーション施策
- 在庫管理施策
- 業務省⼒力化施策
- ノウハウ蓄積施策
- 提携・買収施策
- 立地施策、向上増設施策
- 設備投資施策(投資計画、資金計画)
- 人事・組織計画・人員計画
- 連結収益計画(売上、原価、経費、利益など)
- 連結貸借対照表
この節に関連する項目
- 方向性実現、戦略実現の「課題」と「リスク」要因
- 課題解決及び(当期)目標実現のための「事業計画施策群」など
- 施策ごとの具体的アクション
4.目指す「目標」を数値で示し、説く
計画を数字で表すのは当たり前のこと。しかし、「事業計画書」に明快な数値が示されていないのも、意外に多いのが現実です。これでは事業の成長拡大が危ぶまれます。
綺麗にまとめてあっても、数字を反映していない抽象的な言い方では各部門の計画に落とし込めない
抽象的な目標には、ダメ出しします。例えば、「人材力の強化」が「目標」だとしても、この記載だけでは現場が走れません。「営業マネジャーレベルの人材を期末までに×名育成」という目標となると、各部門はそれを実現するために候補者を選び、その人に具体的な素養と経験を積ませるカリキュラムをつくる現実的なステップに入ります。「事業計画書」が実態のあるものに変わるのです。
数値に落とせない定性的なものがあったとしても、定量化の工夫はできる
例えば、「レベル」のマーケティング能力の人材×名を「レベル」に引き上げるという目標設定はできます。これを「マーケティング能力のアップ」としても多分うやむやになるだけで育成がおぼつかないはずです。マーケティング能力を測定する自社なりの方法を考察すれば、これはある種の会社としてのノウハウ候補ともなり、そのノウハウが、人材育成の研修のカリキュラムで威力を発揮します。
全体の構成と数字の意義を理解、納得させる
会社を根幹から変革するには、「構成」全体や「中期経営戦略」「年度事業計画」、それらの中の数字の背景を地道に説明し、納得させなければなりません。
さいごに
この記事では、「事業計画書の書き方」について解説しました。
以下のページでは、企業経営において必要不可欠な事業計画書作成における、「3つの構成と10の骨子」について記載したチェックシートを公開しています。
書籍のご紹介
記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。
勝ち続ける会社の
「事業計画」のつくり方
園山征夫
ベルシステム24元代表
84年CSKに入社。CSK創業者、故大川功会長より経営危機のベルシステム24の立て直しを託され、86年専務、87年43歳で同社社長に就任。就任早々、社員に「6つの約束」として会社の将来像を示し、94年店頭公開。99年には東証1部上場を果たし、テレマーケティング業界No.1の企業に成長させた。
【出典】園山征夫.勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方