斜陽といわれている出版業界。
この業界は、この20年変わり続けてきました。
特にビジネス書は、激変したといっていいほどです。

出版は何が変わったのか?それは何が原因なのか?
この激動の20年を編集者、著者として第一線で活躍し続けてきた、
弊社グループ編集長の川辺秀美にゆるりと聞きました。

前回の最後は、ビジネス書の本質について迫る話でした。第三回は、その続きです。
ぜひ、今回も楽しんでいってください。

川辺秀美(かわべ・ひでみ)

編集者・作家。クロスメディア・パブリッシング所属
1968年横浜市生まれ。立教大学文学部ドイツ文学科卒業。高野山大学大学院修士課程密教学中途退学。就職情報会社を経て、出版社へ。ビジネス書版元書籍編集長を経て独立。独立後は、コンサルティング、教材開発、講師、作家として活動。2013年以降は新聞社、出版社に所属して活動中。専門は、国語力、読書術、編集術、メディア開発、仏教。

編集作・著作

 

出版とビジネス書を巡る、よもやま話

買う動機付けがされている企画しか売れない

―ちょっと話が戻りますが、ビジネス書の基本はコンプレックスや悩みを解決するってことなんですか?

川辺 基本そうだよ。自分の悩みを解決してくれるツールとして購入される。ビジネス書で、面白そうだから買うというのはないよね。今ある課題に対しての解決策を求めていることが大半だと思う。

―そうですね。スマホでほとんど情報は取れますからね。買う動機がないものは買われませんよね。

川辺 男性はどんぶり勘定で本を買うんで、多少企画が甘くても買ってくれる可能性はあるけど、今、女性読者が多くなってきてるから、よりシビアになっていると思うんですよ。

読者はどこにいるのか?

―川辺さんが書籍を制作するときも、悩みとかコンプレックスをもとに企画するんですか?

川辺 基本は読者がいないところにボールを投げたってしょうがないから、読者がいるかどうかですよ。

―読者がいる、いないってどう判断するんですか?

川辺 仮説を立てます。例えば、世の中に体型について悩んでいる人って全国で何人いるのかを推定して、1000万人いるとするよね。じゃあ、1000万人の1%の人が買ってくれれば、10万部の可能性があるなって考えるわけ。僕の考え方だと、推定読者が100万人いたら、そのうちの1~3%くらいしか購入まで辿り着かないと考えます。

―母集団の1~3%くらいが目安になりますか?

川辺 あくまで感覚値。根拠はありません。企画を立てる時は大まかな母集団は意識します。その母数が多ければ、うまくいく可能性は高いですよね。

―なるほど。

川辺 そう考えると、企画するポジショニングというのは無数にあるようで、いくつかしかないんです。2018年のトレンドは明らかに「教育」ですよね。これは少子高齢化とAIなどのテクノロジーの進展という流れから、ある程度長期トレンドになる可能性があります。

―親の悩みは、深そうですよね。

川辺 それから、2010年以降ずっとトレンドになっている「歴史」というテーマも長期トレンドになる可能性が高いと見ています。歴史は「変えられない」から、世代を超えた共通言語として機能するからです。

―歴史もコンプレックスの一つなんですか?

川辺 いや、智慧だと思います。世代間を超えた教養です。しかも、ビジネス書、小説、漫画、アニメ、舞台となんにでもコンテンツ化できるのが強みです。

―なるほど! さっきのビジネス書を買う理由とは違うんですね。歴史の場合は。

川辺 コンプレックスというより、人間のもともと持っている無意識の領域、ロマンとかに近いかもね。

―ある意味、小説に近いですね。

川辺 というより、歴史は小説そのものですね。

本を買う動機は3つある

川辺 そう。さっき、コンプレックスとかロマンとか書籍を購入するニーズの話をしたけども、本を買う動機って大きく3つだと思ってます。一つは、学歴とか体型とかコンプレックスを問題解決してくれそうってこと。二つ目は、温故知新の教養への気づき、感動物語。これはさっきのロマンの話だね。世代を超えた教養でもあるし、歴史、偉人、ブランドを再発見できる。2010年頃に売れたニーチェ、ブッダの関連書籍もそうだと思うし、最近だとハンナ・アーレントがブームだよね。三つ目は、パラダイムシフトを起こす新しい知識を得られるってこと。

―パラダイムシフトを起こす新しい知識?

川辺 今だとAI、ビットコイン、脳科学がそうだね。カタカナ系の新しい言葉や概念を解説してる書籍。いわゆる意識高い系と揶揄されるような書籍。買う理由は、同僚、部下、クライアントに威張りたいってことが大きいと思うけど。

―これらの購入動機を考えながら、多くの読者層がいる企画にしていく必要があるんですね。

川辺 うん。企画するのは、かなり難しい。だから、企画だけではなく、著者の選定、出版のタイミング、タイトルの切り出し、出版後のPR計画など、トータルで戦略的なモノづくりが求められていると思います。

第三回はここまで!続きもゆるりと聞いていきます。