化粧品を中心に商品プロデュースやブランディングをサポートするブランドコンサル会社である株式会社ジェイ・フリートは今まで約30社50ブランドの化粧品ブランドや地域ブランドを成功に導いてきました。

経営者である明神圭祐氏は以前、旧・カネボウにて宣伝販促部兼商品開発室に携わりカネボウ史上最大のメガブランド、「ナイーブ」や「肌美精」「プロスタイル」等を開発・育成の第一人者として携わってきたという。

長年に渡り数々の商品ブランディングをサポートしてきた明神氏にこれまでのブランディング経歴と共に商品ブランドの価値について詳しくお話を伺いました。

明神圭祐(みょうじん・けいすけ)。日本大学経済学部卒業後、旧・カネボウ株式会社へ入社。宣伝販促部兼商品開発室にてカネボウ史上最大のメガブランド、開発・育成の第一人者として携わってきた。ナイーブの広告では日本最大級の広告賞であるACC賞を4年連続受賞という実績をつみあげ、17年間第一線で活躍。2002年41歳でブランドコンサル会社として株式会社ジェイ・フリートを設立。数々の化粧品ブランドや地域ブランド、国際交流イベント等を成功に導いている。

カネボウ「ナイーブ」のブランドマネージャーとして、ACC賞を4年連続受賞

ー現在は独立して化粧品ブランディングをされていますが、旧・カネボウでもブランディング業をされていたんですね。

明神:そうですね。元々、大学時代からブランド戦略に興味を持っていました。カネボウに入社してからも営業を3年したあと、宣伝販促部に14年ほどおりましたが、この時、カネボウの歴史の中で一番大きな商品ブランド「ナイーブ」を作ることができ、またTVCMでACC賞を4年連続受賞しました。これらの経験から、ブランドを育てることに楽しさを感じるようになり、独立してコンサルティング会社を立ち上げることになりました。今では海外の大手インターナショナルブランドから小さな化粧品メーカーブランド、地域ブランドまで様々なブランディングをサポートし、ヒットに導くお手伝いをしています。

ーすごいですね。独立してすぐ声がかかったんですか?

明神:実は創業当初はそんなことなかったんですよ。最初はどこからも声がかからなかったんです。そんなとき、たまたま旅行代理店に勤める友達と地域ブランディングのプロジェクト立ち上げる事になりまして。地域活性化のためのブランディングは一見畑違いに感じるんですが、美容系ブランディングでブランドを育てるのと基本は同じなんです。

実際、この地域ブランディングの施策が成功して、年間2万人もの人が訪れるようになった地域もあります。この出来事がきっかけで、いろいろな企業に声をかけてもらえるようになりました。

ナイーブの命名の秘密

 ーカネボウ時代、ACC賞を受賞したというナイーブは現在も知らない人はいないほどのブランドですが、当時、ヒットにあたっての苦労はありましたか?

明神実はナイーブは最初から「ナイーブ」という名称のボディソープじゃなかったんです。

当時はサブブランド名をつけるというブランド発想がない企業風土で、ナイーブは元々「カネボウ植物性ボディソープ」という名前で販売される予定だった。しかし、花王「ビオレ」資生堂「スーパーマイルド」ライオン「植物物語」など業界を代表する大手競合会社がブランドマーケティングを進めていたので、このボディソープにもサブブランド名をつけてほしいと、商品開発の部長に掛け合ったんです。渋々了承してもらい、商標会議に臨んだんですが、そこで飲んでいたミネラルウォーターが「evian」で、そこから発想を得て「ナイーブ(naive)」に決定したんです。ナイーブはフランス語で「童心的」や「うぶ」などの意味ですが、日本では「やさしい」や「単純(シンプル)」という意味で使われているため、植物性で肌に優しいという特徴にぴったりのブランド名になりました

ーそんな背景があったんですね。

明神:そうなんです。でも、ブランド名を決めたからといって突然売れる商品にはなりません当然、様々な流通施策や販促施策に加えてTVCMなどの広告戦略もたてるわけです

大手競合各社は当時人口の多20代女性をターゲットに、人気有名女優を起用したCMを打ちだしていて、最大手のTVCM予算はたぶん約80~100くらいだったと思います。それに対しこちらは1/10以下の予算で、競合各社と同じ土俵で戦うことは難しいものでした

  別の切り口を探している時、この商品を親子のコミュニケーションツールにできるんじゃないか思いついたんです。当時、新聞やTV番組では親子のコミュニケーションの崩壊が危惧され始めた時期で、「お父さんの下着や服と一緒に洗濯したくない」などと特に父親を嫌う娘さんが増えていたんです。実際、私の周りにも娘さんから辛口なことを言われたりしてる人もいて、これだと思いました。

そこで20代女性のターゲット設定をやめ、ボディソープをボディソープとして売るのではなく親子のコミュニケーションツールとして売り出そうと考えました。最終的にTVCMには当時男性タレント人気ナンバー1の所ジョージさんを起用しました。ボディソープを通してあたたかくコミカルな親子関係を描くCMにすることでナイーブをファミリー層にむけたブランドにしていく設定しました。他社とは違うインパクトと面白い表現で消費者の印象に残すことに成功したCMの効果でナイーブは爆発的ヒットをおこし、カネボウ史上最大のブランドに成長しましたボディソープが家族の絆を繋ぐアイテムになりました。

ここで重要なのはブランディングというのはモノを売ることが目的ではないということです。モノを売るのではなく新しい習慣や文化をことなのです。

低予算でも文化を創り出すことはできる

ー新しい文化を作ることでその商品が売れるようになるんですね。

明神:そうです。他にも、セルフのおしゃれ染めのヘアカラー文化もつくったこともあります。

自分で髪を染めるセルフヘアカラーは今では当たり前に店頭で並んでいますが、当時は家で白髪染めをする方はいても、おしゃれ染めをする人は少なかった時代。そんな中、おしゃれ染めのヘアカラー商品を売って欲しいと言われるのですが、予算もなく、TVCMもできない状況でした。そこで思いついたのはおしゃれ好きな高校生や大学生ヘアカラー商品をプレゼントすることでした。これなら低予算でできさらに手軽に自分で髪を染めるということがトレンドになれば、それは習慣なり、新しい文化になります。いくつか競合する毛染めメーカーさん協力して配り歩いたところ、SNS等がない時代であったにもかかわらず「外国人モデルみたい」「思ったよりおしゃれ」「おこづかいで買える」という口コミが広まり大ヒットしたんです。当時の高校に毛染め禁止の校則はなく、高校生を中心に若い方々が抵抗感なく毛染めをするようになりましたこれにより、今までになかったおしゃれ染めをする習慣・文化を創り出と思いますし、必然的におしゃれ染めヘアカラー商品も売れるようになりました。

商品ブランディングは、モノを売るのではなく新しい文化を創ること

ーブランディングで新しい文化を生み出すなんてすごいですね。

明神:ブランド価値を高めるためにはモノを売るのではなく、新しい文化や習慣を提案し、浸透させることが大切です。モノを売ろうとすると結局、値引き競争にしかならないのです。だから面白い体験や文化を提案するのです。今までなかったものが認められ、新しい文化・習慣になったらいいと思いませんか?私はこの発想がブランディングの原点だと思っています

ー現在はどのような取り組みを行っているんですか?

明神:今、一番力を入れているのは個人に向けたビューティ・ブランディングプロジェクトです。ビューティ・ブランディングは簡単に言えば、美しい自分らしさを身に付けようという考え方です。人々が受け取ったり、想像するブランドイメージってあると思いますが、個人も同じで、どうせなら美しいイメージであったほうが良いと思うのです。

 メイクアップ、服の着こなし、姿勢や仕草、笑顔ひとつでおしゃれで美しいイメージって出てくるものです。これらに加えて、正しい化粧品の知識・パーソナルカラーの知識を取り入れた最新メイクアップやファッションでも美しい自分を演出できるし、ちゃんとスキンケアの知識を知っていれば、いつまでも若くて素敵な自分でいられるかもしれない。

そういうことが大事で、昔のまま、ずっと同じではなく、様々なおしゃれ&ビューティのノウハウを複合的に、ちょっとだけ使いこなすことでそれが人生の美しさに繋がればいい。誰もがそう思ってくれたら、女性も男性もみんな素敵な生き方ができるんじゃないかと思っています。

ウィズコロナのマスク必着時代でもおしゃれ&ビューティを楽しもうということで、昨年、世界的ネイルアーティストによるネイルアートのおしゃれマスクを作りました。このデザインマスクに合わせたネイル+メイクアップのトータルビューティ動画なども制作し、発表しています。これから時代が大きく変わっていく中で、より美しい自分らしさを目指すビューティ・ブランディングという新しい文化が浸透し、素敵な生き方を楽しめる時代を作っていけたらと思っています。

明神圭祐(みょうじん・けいすけ)
日本大学経済学部卒業後、旧・カネボウ株式会社へ入社。宣伝販促部兼商品開発室にてカネボウ史上最大のメガブランド、開発・育成の第一人者として携わってきた。ナイーブの広告では日本最大級の広告賞であるACC賞を4年連続受賞という実績をつみあげ17年間第一線で活躍。2002年41歳でブランドコンサル会社として株式会社ジェイ・フリートを設立。数々の化粧品ブランドや地域ブランド、国際交流イベント等を成功に導いている。
株式会社ジェイ・フリート:http://www.j-fleet.co.jp/