企業の中でも特に中小企業にとっては、「ブランディング」に取り組むことは重要になります。

自らも「ブランドファースト経営」を実践して19期連続で増収を続け、中小企業へのブランディング支援事業を展開する『株式会社ブランディングテクノロジー』の代表取締役社長である木村裕紀氏へのインタビュー取材を元に、ブランドの重要性について解説していきます。

「ブランド」の正体とは?

突然ですが、「ブランド」とはいったい何でしょうか?

「ルイ・ヴィトン」「シャネル」といったハイブランド、小売や卸業者などが独自の商品を展開するプライベートブランドなど、「ブランド」という言葉は日常的に使われ、さまざまな人がさまざまな定義をしています。

木村氏は、「ブランド」を一言で別の表現をするならば「らしさ」だと言っています。企業にとってのブランドとは、“自社らしさ”であり、お客様、社員、取引先などに一番伝えたいこと。そして、それを一貫して伝え続ける行為が「ブランディング」であると言っています。

では、企業にとってなぜブランドが重要なのでしょうか?

ブランドファーストがもたらす効果

木村氏がブランドの重要性に気づいたのは、自らが経営する会社の成長過程からでした。Webシステム販売が営業主体だった会社を経営していく中で、書籍を出版する機会があり、そのときに「Webコンサルタント」というコンセプトを作り出しました。このコンセプトが生まれたことで会社として目指すべき方向が明確になり、Webコンサルティングを実践するために必要な人材が入社しはじめ、新規の部署がどんどん立ち上がっていき、売上が一気に伸びていきました。

このように、ブランディングによって自社が急成長できた経験、また多くのお客様のデジタルマーケティング支援をする中でもブランドのあるなしで成果が変わるといった経験を通じて、「ブランド」が経営にもたらす効果と、ブランドを第一に据えて経営する「ブランドファースト」を意識するようになったのです。

「ブランド」というセンターピンから倒す

テクノロジーの進化が進み、変化のスピードが激しくなった今、企業が抱える経営課題は、より複雑化しています。加えて、少子高齢化で特に地方の中小企業では優秀な人材を採用することが難しい、デジタル化を推し進めたいが何から手をつけていいかわからないなど、改善しなければならない課題はたくさんあるものの、課題を解決するための資金も余裕もないという企業が多くあります。これら山積みの課題を解決するのに「ブランドファースト」という考え方が重要になります。

経営課題をボーリングのピンに例えてみます。これらのピンを1つずつ倒そうとしたら何投もボールを投げなければなりません。経営課題を解決するという視点に立つと、時間とお金が余計にかかってしまうでしょう。では、どうするかというと、まずセンターピンである「ブランド」というピンを倒すことを考えます。そうすることで後ろのピンを連鎖的に倒すことができるのです

例えばブランディングを進めることで、2列目のアウターブランディングとインナーブランディングにつながっていきます。外部に自社がどういった会社なのかを知ってもらうアウターブランディングが浸透すれば、営業活動がスムーズになったり、採用力の強化などにつながります。社員に理念・存在意義・ミッション・ビジョン・行動指針を浸透させるインナーブランディングが進めば、社員の仕事の質が高まり、組織力の強化、顧客満足度の向上などにつながります。まずしっかりと「ブランド」というピンに狙いを定めて倒すことで、企業活動が非常に効率よくなるのです。

「ブランド」を言語化しよう

企業ロゴ、ホームページ、パンフレットなど、統一感がなくデザインがバラバラの会社を見かけることがあります。そういった会社がブランディングを始めようとすると、単純にデザインの統一感を図ろうとするケースを見かけますが、それはブランディングとは言えません。

何よりも先にやるべきことは、しっかりとCI(Corporate Identity)の言語化をすることです。CIとは、「らしさ」の素とイメージすればわかりやすいかもしれません。出発点としてとことん会社や社員の思いを深掘りして、自社がどういった特性や独自性も持つ企業なのか理解を深めます。繰り返しになりますが、「ブランド」とは、会社の「らしさ」を描くこと。大切なのは一番伝えたいことを決め、それを一貫して伝え続けることです。

「らしさ」が言語化され、言葉や文章になって初めて、人に伝えることができるようになり、お客様や社員に共感してもらえるようになるのです。

額縁に飾ってあるだけの理念では意味がない

ブランドの重要性を伝えると、「うちの会社には、経営理念がしっかりあるから大丈夫」と言われることがあります。しかし、「ある」と「浸透している」はまったく異なります。

社員がしっかりと経営理念を言えますか?

理念に沿った活動ができていますか?

お客様にも理解してもらえていますか?

理念を額縁に入れて飾ってあるだけでは「仏作って魂入れず」で、意味がないのです。

「ブランド」づくりとは、会社を変えることではありません。会社に根付くDNAや経営者の想いをわかりやすく言語化・明確化・デザインすることで、社内外に浸透させていくことです。

読者へのメッセージ

「ブランド」づくりは中長期で必ず会社にとってプラスになっていきます。経営をしていく中では「上り坂」「下り坂」「まさか」という3つの坂がありますが、「上り坂」のときにこそ「ブランド」に投資してほしいと思います。「ブランド」があれば、会社が「下り坂」のときや、コロナなど予期できないことが起こった「まさか」のときを乗り越える土台となります。即効性のある広告などに比べて、すぐに結果が出るというものではありませんが、ブランドは資産として蓄積されます。ぜひ、みなさんも「ブランド」を育てていきませんか?<木村裕紀>

木村 裕紀(きむら・ゆうき)
ブランディングテクノロジー株式会社 代表取締役
URL:https://www.branding-t.co.jp/
東京都渋谷区南平台町15-13帝都渋谷ビル4F・5F