この記事では、「ブランド戦略とはどのようなものか?」を具体的な成功事例も挙げながら解説します。
コピーライターである川上徹也さんが著者『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』で解説している内容をもとに編集しています。
【著者】川上徹也 湘南ストーリーブランディング研究所代表。
ブランド戦略とは
会社の売上を向上させたり採用力を強化したりするために、企業ブランドの認知度を高めようとする経営戦略を「ブランド戦略」と呼びます。
ブランド戦略は、「競合他社との違いを明確にする戦略」という意味で「差別化戦略」と呼ばれることもあります。
ブランド戦略 3つの手法
競合他社との差別化を図るのに、一番いい方法は「ファーストワン」になることです。今まで誰もやっていなかった事業を始める。今までなかった画期的な商品を発売する、などです。特にありそうでなかったものには、みんな飛びつきます。
しかし、これが簡単に探し出せれば苦労はしません。そこで、この記事では、特別すごい発想やアイデアや商品力がなくても、競合との差別化を図れる方法を考えていきます。
- ターゲットを絞り込む
- 見せ方を変える
- 勝手に宣言してしまう
ブランド戦略1「ターゲットを絞り込む」
小さな会社やお店がオンリーワンになる第一歩は、何かに「絞り込む」ことです。
違う言葉で言えば、何かの専門家、スペシャリストになることです。自分の会社やお店が一番強いと思われるワンポイントにフォーカスを当てるようにしましょう。
何でもできますは何もできないと同じ
今の時代、何でもできますは何もできないと同じです。つまり、何でも売っているは何も売っていないのと同じとも言えます。
ラーメンもカレーも親子丼もハンバーグもメニューにある店は、一見便利なようですが、味はあまり期待できない気がします。やはり専門店の方がおいしいそうに思うものです。
もちろん立地によっては(高速道路のインター近くで他に店がないドライブインとか)、何でも揃っている方が繁盛することもあります。それでも近くに別の店がどんどんできてきたらどうでしょう?
絞り込むことで「他社と差別化できる」
絞り込むのは勇気がいることです。
しかし絞り込むことによって「他社と差別化できる」「専門家として敬意をしめてもらえる」「価値のわかるお客さんが来てくれる」「自分の得意分野に焦点をあてることができる」などのメリットを得ることができます。
お客さんを断る必要はない
また、絞り込んだからといって、それ以外のお客さんを断る必要はありません。
相手がこちらの価値を認めた上で、それ以外の仕事をお願いされ、あなたがやる価値があると認めたらば、やればいいのです。
絞り込むことで仕事が増えてくる
あなたの絞り込みがうまくいっていれば、不思議なことに、「何でもやれます」と言っていた頃よりも、他の仕事も増えてくることが多いのです(逆に絞り込んだ結果、得意先やお客さんが減ったのであれば、絞り込んだ場所を間違えている可能性が高いと言えます)。
旅行会社の成功事例
東京中野区に『風の旅行社』という旅行会社があります。創業は1991年。ネパール、チベット、モンゴル、ブータンの手配旅行に強い会社でしたが、平行して格安チケットや他のアジア地域のパッケージツアー等も販売していました。
価格競争から決別
しかし、1995年にはパッケージツアーを、1998年には格安航空券の販売をやめることを広告で宣言。リピーターに絞った販売に切り換えました。価格競争から決別し、「風の旅行社」しかできない旅をつくろうと決意したのです。
そうやって絞り込んだことで、お客さんからの支持が強くなり、「○○行くなら風の旅行社」という口コミがさらに広がっていったのです。今では大阪支店もでき、繁盛しています。
製薬メーカーの成功事例
BtoBでも絞り込むことにより成功した例を紹介しておきましょう。
大阪に本社がある老舗の製薬メーカー『マルホ株式会社』です。
マルホは7年前まで、新薬の研究開発から販売までを手がける普通の中堅製薬メーカーでした。しかし2002年、社長の高木幸一氏が社員を集め、2012年のあるべき姿として「皮膚科学関連医薬品のブティック・カンパニー」になる、という長期ビジョンを発表し、新薬の開発をやめ、皮膚科の塗り薬に特化することを宣言しました。
大手が本格参入しにくい環境
新薬開発は膨大なコストがかかる上にリスクも大きく、このまま大手と争っていても勝ち目がないと判断したのです。
皮膚科の外用薬の市場規模は約1000億円と言われ、医療品業界全体が7兆円という規模からすればニッチな市場で、大手は本格参入しにくい環境にありました。
開発費を大幅に縮小
塗り薬は、大手が開発した錠剤などの成分をそのまま塗り薬に応用すればいいので、開発費を大幅に縮小することができたのです。
皮膚科外用薬に絞り込んだマルホは、業績を大幅に改善することができ、今や皮膚科外用薬の分野では、誰もが知っている「スモールガリバー」になっています。
ブランド戦略2「見せ方を変える」
見せ方や魅せ方を変えるのも、競合他社との差別化を図るための有効な手段です。
商品自体は変わっていなくても、見せ方や魅せ方を変えるだけで、まったく違うものになることは多いからです。
飲食店の成功事例
東京国立市に『農家の台所』という野菜レストランがあります。
見せ方を変えるだけで、ここまで新鮮で驚きにみちたオンリーワンになれるのか、という見本のようなお店です。
おいしさよりも、人に話したくなる仕掛けを重要視
レストランというと、普通はおいしさをアピールするものですが、この店は、おいしさよりも、家族や友人に話したくなるようなおもしろい仕掛けを重要視しています。
店のキャッチフレーズからして“お腹いっぱいの満足度3割、知的満足度7割の野菜レストラン”なのです。まさにストーリーに満ちたレストランだと言えます。
この店の一番人気は、色とりどりの珍しい野菜が並ぶサラダバー。同じ野菜でも何種類かの品種があり、ディスプレイの仕方も独特です。名前も野菜名ではなく品種名で呼ばれています。そこには語り部と呼ばれるスタッフが常駐していて、それぞれの野菜の説明をしてくれます。語り部たちは、スペックで覚えた知識ではなく、実際に取引きのある農家を訪問し、作業を手伝う中で、話すべきネタを仕入れてきます。スタッフは、野菜エンターテイナーでもあるのです。
農家の方々をブランド化
また入り口前の壁には、契約農家の方々の顔写真を選挙ポスター風にデザインして、ずらっと貼ってあります。これにより、農家の方々をブランド化し、彼らがつくった野菜に付加価値をつけているのです。
他にも楽しい仕掛けがいっぱいで、飽きることがありません。国立以外に恵比寿にもお店がありますが、どちらも連日予約でいっぱいの賑わいです。
確かに、提供される野菜はおいしいです。でも、このように「こうやって栽培したからおいしいんだよ」と知らされるからこそ、そのおいしさの理由がわかり、食べる方も楽しい気分になるのです。いくらおいしい野菜でも、このお店のようなエンターテイメント性がある魅せ方をしていないと、ここまで話題にはならなかったでしょう。まさにオンリーワンのお店です。
このお店は、『国立ファーム』という会社が経営しています。経営者はAV業界で一世を風靡した高橋がなり氏。以前の会社を引退し、農業を志しました。
この会社の企業理念は「農業改革 ~ものづくりがかっこ良いと思える社会づくり~」です。レストランだけでなく、生産から流通まで一貫して行い農業を活気ある産業にすることを「志」としています。そのために、農産物に付加価値をつけ、生産者をブランド化することで、農家に利益が出る仕組みをつくろうとしているのです。
参考:ブランド戦略の成功事例「見せ方を変えるブランディング」
ブランド戦略3「勝手に宣言してしまう」
競合他社との差別化を図るアプローチの3番目は、ちょっと荒っぽいですが、とりあえず宣言してしまうということです。宣言してしまうことで、それが事実として一人歩きしていくことがあります。
たとえば、「土用の丑」の日にうなぎを食べるという習慣は、江戸時代の発明家として有名な平賀源内が発案したものだと言われています。知り合いのうなぎ屋に「夏にうなぎが売れない」と相談された源内は、「土用の丑はうなぎの日、食すれば夏負けすることなし」というコピーを考えました。このように勝手に宣言した「土用の丑はうなぎ」が、200年以上たった今でも受け継がれているのです。
宣言でわかりやすいのは、「日本一」「世界一」と宣言してしまうことです。
自治体の成功事例
四国の愛媛県伊予市に双海町という町があります。双海町は、「しずむ夕日が立ち止まる町」というキャッチフレーズで、今から20年以上も前に「日本一の夕日の町」と宣言しました。
町を夕日でブランド化
それまでの双海町は、過疎に悩む何の取り柄もない町でした。きっかけは、取材で訪れた東京のテレビ局のディレクターが何げなく言った「ここの夕日はきれいですね」のひと言。それを聞いた、町職員の若松進一氏は、何も自慢することがなかった町を、夕日でブランド化することを思いつきました。
なにげなく眺めていた夕日の美しさの価値を、よそ者によって気づかされたのです。双海町を「日本一の夕日の町にする」という「志」を立てた若松氏ですが、最初は誰にも相手されませんでした。夕日が価値を持つなんて、地元の人には信じることができなかったのです。
そんな役場や住民を説得し、まず駅で夕日コンサートを開催しました。またどこにでもある夕日をオンリーワンの夕日とするため、「恋人岬」と名付けて、モニュメントを立てました。自身も全国の夕日スポットを見て回り研究を重ね、のちに「夕日学」という講座を開設するほどになりました。また「夕日の時刻表」をつくり、観光客から「今日は何時に日が沈みますか?」とたずねられたときに答えられるよう、地域住民の人に持ってもらうようにしました。
今では「夕日の町」としてすっかり有名になり、年間50万人以上の観光客が訪れます。ふたみシーサイド海水浴場の夕日の観覧席では、「夕やけソフトクリーム」を食べながら沈みゆく夕日をいつまでも眺めているカップルが多く見受けられます。
「日本一」「世界一」とうたうときの注意点
ただし、注意していただきたい点があります。テレビ新聞等の広告で「日本一」「世界一」等とうたうには、具体的で客観的な数字を示さないといけないという厳しい規定があります。
またマス広告以外でも、その表示を見たお客さんがその商品を実際よりも、著しく優良である・有利になると誤認する表示は、公正取引委員会により違法とみなされる可能性があるので注意してください。
それぞれの戦略が互いにリンクしあっている
以上、競合他社と差別化し、ブランドを確立するための3つの戦略を見てきました。
それぞれのアプローチの方法は、独立したものとして考えるのではなく、リンクしあっているものと考えた方がいいでしょう。
ブランド戦略について学べる本
記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。
価格、品質、広告で勝負していたら、
お金がいくらあっても足りませんよ
『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』では、商品・サービス・企業自身が「人をひきつけ、共感できるストーリー」を組み込むこみ、ファンを作るための方法が解説されています。具体的な事例を織り交ぜながら、ストーリーのつくり方、活用の仕方を説明していきます。