会社が成長することによって、どこにたどり着こうとしているのかを社員と共有するために必要なのが「事業計画」です。

はっきりとした事業計画を示すことで、社員の成長ステップを「見える化」することができます。すると、成長のスピードも格段に速くなります。

そこで今回は、ベルシステム24を倒産寸前から1000億円企業にまで成長させた、同社元代表の園山往夫さんの著書『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』から一部を抜粋し、”なぜ「事業計画」が必要なのか”をご紹介します。

事業環境の変化に対応するために

1年もあれば、世の中はガラッと様変わりします。世界や日本の景気がこの先どうなるか、規制や制度変更、外資の本格的参入、競合の出方などによって投資内容の変更とそのスピード調整が必要となり、このことが利益創出に大きく影響してきます。技術進歩の結果、これまで競合と見なされない分野から新たな競合会社が出てくることもあります。

この変化を捉え、「事業計画」に反映することこそ、リーダーたる社長や幹部社員のアンテナの広さと高さ、その精度にかかっています。

直観力で世の中の変化を察知する社長もいますが、大半の社長はいろいろな情報を収集し、自分なりに分析して変化を察知しています。

この変化への対応を誤ると、作戦の「着眼」点がずれます。どんなに努力しても環境にそぐわないことをすれば、社員に無駄な努力を強い、会社が機会損失を蒙ることにもなりかねません。

  • 「事業計画書」は環境の変化を察知してこれを明示し、対応する戦略を考える
  • 「事業計画書」の策定で、事業展開の「着眼点」を明確にする
  • それに対する自社の対応を会社全体の方針として末端まで徹底させる

放っておくと、各部門は前期の作戦の踏襲になりがちです。「事業計画」の全社方針で環境の変化に対応すべく各部門の路線の修正を迫ります。

私は、「中期事業計画書」や毎年度の「事業計画書」の策定に当たり、まず景況感や競合の出方も含めた事業環境の変化を分析することから始め、これを「事業計画書」の冒頭に持ってきます。

社長のヴィジョンを社員と一緒に実現するために

「事業計画」は社長のヴィジョンの実現を通じて会社を成長拡大させる極めて重要な手段です。しかし、自分のヴィジョンを自分一人で実現できる人は世の中にそう多くいないでしょう。会社という組織の構成員たる社員の協力を得て実現できることが大半です。

だとするならば、社長のヴィジョンが社員の「共感」を得なければなりません。社会性を持つ野望であればあるほど、社員の共感を得やすいのです。

高ぶった状態の頭を冷やし、少し洗練された表現で社長のヴィジョンを、「事業計画書」に落とし込む。これは、組織として公的に社員を巻き込むことになる。社長も大手を振ってその実現に向かって会社の資源を使えることになるのです。

会社方針の統一を図るために

社長の方針を組織の末端まで浸透させるための武器が「事業計画書」です。会社の方針の統一を図り、全社一丸となって、決めた目標を実現すべく行動に移すための非常に有効な武器です。

「組織が小さいから事業計画なんて必要ない」と意見を吐く社長もいますが、会社の成長のスピード感がまったく違います。

また、「組織が小さいから皆が方針を分かっている」と考えるのも誤りです。組織の大きさと方針が的確に浸透することは別物です。

  • 価値観の違う社員がたまたま同じ組織に参集し、一緒に仕事をする
  • 彼らの価値観を変えさせるのでなく、組織としての価値を統一して一丸体制をとる
  • 社員のベクトルを合わせ、エネルギーを特定方向に結集する
  • 会社が「どこに向かって、いつまでに、何をやるのか。それを実現したら参加した社員にはどんなメリットがあるのか」の全体図を全社員が納得する

こうしなければ、社員のモチベーションを醸成できず、社員のエネルギーを結集して実行に移すことが期待できません。社長は社員を掌握できません。

事業の全体を描く「事業計画書」は、全社員を掌握し彼らのエネルギーを結集する不可欠な武器です。これがないと会社の成長拡大は望めません。

新規事業や「新しいこと」に取り組むために

このまま事業を展開していても限界が訪れることが明白な場合、今後どの「ドメイン(棲息領域)」で闘いを挑むかを決めなければなりません。

既存のマーケットだけで将来も自社の存在価値を確固とできるほど、世の中優しくはない。現時点でそこそこの利益を計上している会社では、社員からも新規事業への意欲は出てきにくい。そこで新規事業、新商品開発で新機軸を戦略的に打ち出す必要がでてきます。

事業計画には、既存の「ドメイン」の拡大と新しい「ドメイン」を探すことを盛り込む。と言うより、事業計画を作成していくと、新しい分野に取り組まざるをえないはずです。「事業計画書」で、しかるべき新分野へ進出して将来の糧を得るのだという会社の姿勢を明示し、担当部門に投資予算枠と責任を与え実行に移させる必要があります。「事業計画書」が、将来のマーケットを確保するための重要な役割を果たすのです。

私は、「事業計画書」の中で、「仕事の10%を新しい取り組みに振り向ける」ことを指示していました。これを全社的な指示として、各部門の事業計画に反映させたので、末端の社員まで有無を言わせず、知恵を絞り何か新しいことに取り組まなければならない状況に追い込みました。

部門によっては、売上直結の新規取り組みができない所もあります。しかし、システムの合理化や新しい業務フローの取り組みをすることで、利益には間接的に貢献できる。一部の部門のみが対象でなく、全構成員が「新しいこと」に取り組む、ここに「事業計画書」の効果があるのです。

「経営目標」として「利益分配」を明確にするために

会社という組織で「経営目標」を実現すると、結果として利益が増大します。この利益の分配が社員の一番の関心事になります。これをスムーズにやるには、利益の分配の「計画性」が不可欠です。

一般的に利益は、実効税率約%の税金を控除後、

  • 将来の投資の原資として内部留保する
  • 配当金として株主に分配する
  • 役員賞与として役員の労に報いる

ことになりますが、本来は、利益算出前に社員への分配率を決めておくべきです。「税引き後利益」算出の前に、この利益を生み出すために努力した社員へ分配する予定の額を最優先で確保します。

そのために、「労働の分配率」を「事業計画書」であらかじめ明記します。付加価値に占める賃金等人件費の比率で、高すぎず、低すぎず明記します。社員が個々人で稼いだ利益等と彼らの人件費のバランスを適正に保つためです。将来計上されるはずの利益全体の特定割合を、社員の労働条件の改善に資する、この「事業計画書」上の約束が結果利益の分配にあたり無駄な誤解と推測を社員の心から除き、社員のモラール向上に大きくつながります。

資金調達の裏付け資料とするために

金融機関ならどこでも同じことですが、融資にあたっては複数の人がチェックするシステムになっており、単独の判断で融資決定はできません。

従って、ある金額の融資依頼に対して、依頼内容が形式的要件を備え、その内容が客観的に適正と判断されるかが出発点となります。金融機関の適正判断にあたり、社長の人となりも重要な要素になりますが、書類に落とし込んだ融資依頼書の「裏付け資料」の内容が重要です。

この時の裏付け資料に効果があるのがしっかりした「事業計画書」です。

この計画書が融資依頼の個別案件と直結するものでなくとも、社長がしっかり経営をやろうとしている、やっている裏付けになるのです。システム開発のために融資を依頼するとすれば、その融資金額が、将来その会社の事業にいかに有効に作用するか、利益増加に貢献するかは、事業計画の短期や中期の計画に当然反映されています。

個別の融資案件であるとしても、経営全体の成長ストーリーを反映した「事業計画書」が、融資の回収安全性の判断に資する有力な資料となります。

資産を計画的に増強するために

社長が会社の資産として何を増やしたいのかは、社長それぞれの価値観により相当違いがあります。不動産を増やしたい、設備の増強をしたい、システムをレベルアップさせたいなどなどです。しかし、これらより大事な資産があり、それが会社の繁栄を助けてくれることに気がついてください。

私が社長在任中、いわゆるバブル絶頂期も経験しました。この時、儲けた利益をすぐ不動産の購入にあてて、その額が本業からの利益を上回った経営者仲間もたくさんいました。残念ながらその後バブルがはじけ、景気のギヤが逆回転して、多くが倒産してしまいました。

会社の事業方針として、「サービスに特化」して絶対に不動産などには手を出さない経営の軸を決めており、お陰様で、バブルがはじけても会社としてはまったく影響を受けず、社員への給与の支払いや賃金改定に汲々とすることは一切ありませんでした。

重要視していた資産は、不動産や設備などの「有形資産」でなく、バランスシートに載らない「無形資産」です。これを計画的に増強する。この策が会社の繁栄を支えてくれました。

今も、この時と同じ考えで指導しています。無形資産とは、ブランドイメージ、顧客基盤などもありますが、それらを土台として支える「ノウハウ」(知的財産)と「人材」(人財)という資産です。これを計画的に増やすのです。

(a)ノウハウ(知的財産)を増やす

ノウハウは、事業計画の中に意図的、計画的に貯める方針を入れないと蓄積できません。一般的にノウハウは社員個人の頭の中に貯まりやすいのも事実であり、社員個人もそのノウハウでビジネス上の自分を引き立たせたい傾向もあります。しかし、これでは組織としてノウハウを有効に使える広がりがない。ここが決定的に重要なことです。

各自のノウハウを会社の資産とするために、次のことを行ってください。

  • 自分のノウハウを一度書いて落とし込む
  • ノウハウをシステム的に貯め込む場所を組織として統一的に決めておく
  • 各自のノウハウをその場所に入れ込ませる
  • それを年に数回レビューして、本当に会社の財産となりうるものかを特定の幹部が判断する
  • 蓄積継続と判断したものは、蓄積し続ける

蓄積されたノウハウを資産として有効活用するならば、企画提案から営業の闘い方、顧客の攻略方法にいたるまで、その会社ならではの差異化戦略を立てることができます。

(b)人材(人財)を増やす

「事業計画書」の中に自社の社員像を描き、それに合致した人材(人財)育成を計画的に実行しない限り、人材は育成されません。

これは特定の業種に限った話ではなく、サービス業も製造業も人材のレベルで勝負が決定してしまいます。良い製品をつくるのも人材、これを販売するために提案するのも人材、社内の組織が円滑に運営されるのも優秀な人材が必要だからです。

入社した段階から優秀な人もいます。しかし、80%位の社員は、入社後にいろいろな研修を受けてレベルアップしていきます。ほったらかしで成長するのは多分全体の%程度、自己啓発の才能を持った人材で、それ以外の人材は背中を押してやらねばなりません。「事業計画書」の中で人材育成を明示しておきます。その中に自社の社員像を描き、それに合致した人材育成を計画的に実行する。「どのレベルの人材をこの一年で何名育成する」のかは重要な戦略です。幹部レベル、マネジャーレベル、その下のレベルの育成人員数とそのための期間を「事業計画書」で方針として出すのです。

人材に悩んでいる社長には、この考え方が欠落しています。必要なら外部から引き抜けばよいとの発想を持ちすぎです。外部から異質な人材を入れることは確かに重要ですが、メガネにかなった人材をタイムリーに外から獲得するのは、中小の企業では難しい。採用した社員のレベルアップを図り、その社員が次の若手社員を計画的に育てるという形が適正なのです。

細々とした判断に翻弄されないために

どの社長も忙しさを誇らしげに語る傾向があります。自らのスケジュール表が毎日ぎっちりと埋まっていないと不安な社長もいます。しかし、考えてください。「そもそも社長の仕事は何か?」を。社長の本来の仕事とは、

  • 将来の種になる事業の着眼点を見つけ
  • 経営の戦略を練り
  • 必要資金を調達し
  • 事業推進の主役たる人材を育成する

ことです。このために時間を使って忙しいのであれば文句はありませんが、そうではない社長も多いようです。

細々とした判断は部下に任せる。そのために部下が最良の判断をしてくれる環境をつくる。判断の基準としての大枠を「事業計画書」に示していれば、部下に任せられるのです。部下に「任せる」ことができる判断業務のために社長の時間を取られないことになります。

「事業計画書」がなく、社員に尺度や物差しがないと、部下は自分の判断業務の大半を社長に委ね、自身のリスクをヘッジしようとします。結果として社長のみが大忙しになり、本来の社長の仕事が疎かになります。特に創業社長の場合、社内の隅々まで知らないと安心できない人もいます。会社を成長軌道に乗せる本来の責任と任務はどこかに追いやられ、日常の
忙しさを誇ることになるのです。

この傾向を自ら戒めるためにも「事業計画書」が効果を発揮します。

リーダーシップを発揮するために

「事業計画書」の最大の目的は、経営目標達成に向けて社長が強いリーダーシップを発揮できるようにすることです。

通常、事業の計画は年度単位で作成され、それを毎月、四半期ごと、半年ごとにレビューしていきますが、この過程で社長のリーダーシップの有無がよく見えます。

「事業計画書」を作りっぱなしで、計画とレビュー行為をワンセットに作動させていないとしたら、この会社のリーダーは大きな機会ロスを発生させています。レビューの判断基準がぶれているように社員には映ります。社長の判断基準が計画から離れコロコロと変わる危険性を孕んでいるからです。

結果として、社長の判断を揶揄する言葉が聞かれることになります。「知行合一」しない社長のリーダーシップに社員が明らかに疑問を感じるからです。

もし、社長が「事業計画書」でその年度や毎月のやるべき仕事の大枠を握っていれば、次のようなことを迷いなく指示、指導できます。

  • 目標は遂行できたか
  • 遂行にあたりどんな課題が生じたか
  • その課題や積み残し分をいかに解決する考えなのか
  • 課題の解決にあたり他の部門のヘルプが必要なのか

これらのことが、月次レビューのための定例報告会の場で明確に議論できるはずです。社長はその報告に対してアドバイスし、決断できます。課題解決にいろいろな選択肢が提案されるならば、オプション選択は社長の出番です。

以上の通り、事業計画を遂行する過程での課題解決のために「事業計画書」を基に決断することは、社長のリーダーシップそのものです。社長が「事業計画書」の作成とそれに即した決断行動を具体化する時、社長のリーダーシップは間違いなく強化される。結果として会社の成長拡大につながります。

【出典】園山征夫.勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方

 

 

会社を成長拡大に導く、事業計画チェックシート

会社を成長拡大に導く 事業計画 チェックシート

以下のページでは、企業経営において必要不可欠な事業計画書作成における、「3つの構成と10の骨子」について記載したチェックシートを公開しています。

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