小さな会社やお店がオンリーワンになる第一歩は、何かに「絞り込む」ことです。違う言葉で言えば、何かの専門家、スペシャリストになることです。

自分の会社やお店が一番強いと思われるワンポイントにフォーカスを当てるようにしましょう。

そこでこの記事では、コピーライター 川上徹也さんが、著書『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』で解説している「オンリーワンになるためのアプローチ」をご紹介します。

川上徹也

湘南ストーリーブランディング研究所代表。
ストーリーの力で、会社・商品・個人を”売れ続けるブランド”にするクリエイティブ・ディレクター。『一行バカ売れ』(KADOKAWA)『自分の言葉で語る技術』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

何でもできますは何もできないと同じ

今の時代、何でもできますは何もできないと同じです。つまり、何でも売っているは何も売っていないのと同じとも言えます。

ラーメンもカレーも親子丼もハンバーグもメニューにある店は、一見便利なようですが、味はあまり期待できない気がします。やはり専門店の方がおいしいそうに思うものです。もちろん立地によっては(高速道路のインター近くで他に店がないドライブインとか)、何でも揃っている方が繁盛することもあります。それでも近くに別の店がどんどんできてきたらどうでしょう?

専門分野を持つ

たとえば、旅行会社で考えてみましょう。

一昔前まで、大手の旅行会社の価格は高く、ありきたりのツアーしかありませんでした。中小の会社は価格や個人旅行の手配などで勝負できたのです。しかし、今は大手でも格安チケットを扱い、個性的な商品を出してきています。そのような環境下では、小さな会社が「何でもできます!」と言っても、わざわざそこに頼む理由があるでしょうか。何かに特化して専門分野を持ってないと生き残っていけないでしょう。

たとえば「イタリア専門」「四国お遍路旅行専門」「海外フィッシングのことなら」「ボランティア体験ツアー専門」等、色々考えらますね。

ポジショニングを検証する

何かに絞り込むときには、他に同じ専門家がいないかどうかを検証する必要があります。いわゆる、ポジショニングを検証するということです。ネットで検索をかけてみて、同じことをしている会社やお店がどれくらいあるかを調べるのは、最低限必要な作業です

競争相手のいないブルーオーシャンかと思ったら、意外にも血みどろの競争がくりひろげられているレッドオーシャンだったということもあります。ただし、ブルーオーシャンであれば成功し、レッドオーシャンであれば失敗するといった単純なものでもありません。

ブルーオーシャンには競争相手もいない代わりに、お客さんも誰もいない、という可能性もあります。

「ベラルーシ専門の旅行会社」

前述の旅行会社の例で言うと、たとえば「ベラルーシ専門の旅行会社」を旗揚げしたとします(ベラルーシは旧ソ連の東ヨーロッパの国。あくまで例です)。この原稿を書いている時点で、ネットで検索した限りでは「ベラルーシ専門の旅行会社」はヒットしませんでした。確かにファーストワンでオンリーワンです。でもお客さんが来るでしょうか?

もちろん日本には“ベラルーシが大好き”という方も一定の数はいらっしゃるでしょう。インターネットがあるので、かなりのニッチでもお客さんは全国から申し込む可能性はあります。しかしそれだけで商売が成り立つにはかなりの営業努力が必要だと思われます。ベラルーシの魅力はまだ多くの人には知られていないし、それを広めるには多少時間がかかるでしょう。もちろん、それでも広めたいという熱い志がある方にとっては、やってみる価値はあるとも言えます。

逆にレッドオーシャンだったということは、それだけ需要が多いということです。

「イタリア専門の旅行会社」

たとえば「イタリア専門の旅行会社」は結構な数がヒットします。でもそれだけ、イタリアは人気があるのです。

その場合、さらに絞り込むか、新しい付加価値をつけるかを考えてみることでオンリーワンになれる可能性があります。

たとえば、ミラノ専門、トスカーナ専門、フェレンツェ専門、南イタリア専門などの地域や都市で絞り込む。

たとえば、パッケージツアー専門、個人旅行専門、列車の旅専門、高級ホテル専門、地元の小さな宿専門など、カテゴリーで絞り込む。

たとえば、ソムリエと行くワインツアー専門、写真家と行く撮影旅行専門という風に付加価値をつける。

他にも色々な方法があると思います。

企業の差別化戦略事例

B to C 企業の事例『風の旅行社』

東京中野区に『風の旅行社』という旅行会社があります。創業は1991年。ネパール、チベット、モンゴル、ブータンの手配旅行に強い会社でしたが、平行して格安チケットや他のアジア地域のパッケージツアー等も販売していました。

しかし、1995年にはパッケージツアーを、1998年には格安航空券の販売をやめることを広告で宣言。リピーターに絞った販売に切り換えました。価格競争から決別し、「風の旅行社」しかできない旅をつくろうと決意したのです。

そうやって絞り込んだことで、お客さんからの支持が強くなり、「○○行くなら風の旅行社」という口コミがさらに広がっていったのです。今では大阪支店もでき、繁盛しています。

B to B 企業の事例『マルホ株式会社』

BtoBでも絞り込むことにより成功した例を紹介しておきましょう。

大阪に本社がある老舗の製薬メーカー『マルホ株式会社』です。

マルホは7年前まで、新薬の研究開発から販売までを手がける普通の中堅製薬メーカーでした。しかし2002年、社長の高木幸一氏が社員を集め、2012年のあるべき姿として「皮膚科学関連医薬品のブティック・カンパニー」になる、という長期ビジョンを発表し、新薬の開発をやめ、皮膚科の塗り薬に特化することを宣言しました

新薬開発は膨大なコストがかかる上にリスクも大きく、このまま大手と争っていても勝ち目がないと判断したのです。皮膚科の外用薬の市場規模は約1000億円と言われ、医療品業界全体が7兆円という規模からすればニッチな市場で、大手は本格参入しにくい環境にありました。塗り薬は、大手が開発した錠剤などの成分をそのまま塗り薬に応用すればいいので、開発費を大幅に縮小することができたのです。

皮膚科外用薬に絞り込んだマルホは、業績を大幅に改善することができ、今や皮膚科外用薬の分野では、誰もが知っている「スモールガリバー」になっています。

まとめ

絞り込むのは勇気がいることです。

しかし絞り込むことによって「他社と差別化できる」「専門家として敬意をしめてもらえる」「価値のわかるお客さんが来てくれる」「自分の得意分野に焦点をあてることができる」などのメリットを得ることができます。

また、絞り込んだからといって、それ以外のお客さんを断る必要はありません。

相手がこちらの価値を認めた上で、それ以外の仕事をお願いされ、あなたがやる価値があると認めたらば、やればいいのです。

あなたの絞り込みがうまくいっていれば、不思議なことに、「何でもやれます」と言っていた頃よりも、他の仕事も増えてくることが多いのです(逆に絞り込んだ結果、得意先やお客さんが減ったのであれば、絞り込んだ場所を間違えている可能性が高いと言えます)。

勇気を持って絞り込みましょう。

(『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』をもとに編集)

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