この記事では、就業規則に「退職」のルールを記載するときのポイントを、社会保険労務士 寺内正樹さんの著書『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』よりご紹介します。

【書籍】『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!
【著者】寺内正樹 
社会保険労務士 / 行政書士

「退職」の2つのパターン

「退職」は、大きく分けて次の2つのパターンに分かれます。

  • 社員の申し出による退職
  • 会社・社員双方の意思表示がなくてもある事柄を満たすことによる退職

それぞれ確認していきましょう。

社員の申し出による退職

社員の申し出による退職は、「自己都合退職」とも言われ、いわゆる「一身上の都合により」という理由で退職届を会社に提出することでなされるものです。

「退職」の申し出を早めにしてもらう工夫をする

法律上は2週間前の申し出で契約を終了できる

この点、法律上は雇用期間が定められていない正社員については、原則として、2週間前に申し出をすれば雇用契約を終了できるとしています。

しかし、実際に2週間前に退職の申し出をされても、業務の引継ぎや代わりの人員の補充などを考えると、会社としては、その後の対応が大変になるケースが多く見られます。

あえて2週間より長い期間を定める

そこで、ルールとしては、あえて2週間より長い期間(例えば「1ヶ月前」など)を定めておき、退職の際に事前に余裕を持って申し出る意識を持ってもらうことは大切です。

ただし、この場合も1ヶ月前という期日を守らなかったために、退職を認めないなどの不利益を与えることは許されません。とはいえ、常に2週間前に申し出るというルールをつくる必要まではありません。そこは、会社が運営しやすいルールを作ればよいのです。

申し出は「書面」で行なう

また、後になって、申し出の事実が不明確にならないよう、退職届という形で「書面」で申し出を行なうこともルール化しておきましょう。

業務引継ぎについてもルール化する

さらに、退職時の業務引継ぎについても明確に定めておくことが効果的です。業務を引継ぐ義務は、雇用契約に付随する義務と考えられています。

正当な引継ぎが行われるようなルールの例

例えば、社員が業務の引継ぎも行わず、残った年次有給休暇をすべて取得して退職したい、と言ってきているのですが、すべて認めないといけないのかという相談もよく受けます。

ある不動産会社では、勤続10年の社員が40日の年次有給休暇をすべて取得して辞めたいと言ってきました。年次有給休暇は社員に認められた権利ですから、残日数があれば原則として取得を認めなければなりません。

しかし、これは業務引継ぎを行わなわなくて良いということではありませんので、正当な引継ぎが行われない場合、退職金を減額または不支給とするルールを作りました

その結果、引継ぎをしっかりと終えた後で、残日数を有給消化するという結論になりました。

会社・従業員双方の意思表示がなくてもある事柄を満たすことによる退職

会社・従業員双方の意思表示がなくてもある事柄を満たすことによる退職については、退職となる条件について明確に定めておく必要があります。

意思表示がなくても退職と認めた方が良い場合

例えば、休職期間満了時・死亡時・定年退職時・行方不明時など、意思表示がなくても退職と認めた方が良い場合は結構あります。

社員が失踪してしまった事例

イベント制作会社で、突然、ある社員が行方不明になりました。前日までは普通に連絡がとれていたのですが、まったく連絡がとれなくなってしまったのです。携帯電話はもちろんつながらず、社長がその社員の実家にまで足を運びましたが、両親も行方がわからないというのです。そのまま、なんと1ヶ月が過ぎてしまいました。

会社としては、これ以上待っても仕方ないので、何らかの処分を下したいのですが、解雇するには、無断欠勤などが解雇の事由として定められていないといけませんし、原則として解雇予告手当も支払わなければなりません。

その時に「無断で欠勤し、本人と連絡をとることができない場合で、欠勤開始日より14暦日を経過したとき」などに退職するというルールを作っておくことで、それを理由に退職したものと扱うことができます。

結局、さらに10日ほどしてその社員は見つかったのですが、この会社の場合、退職のルールが整備されていなかったので、解雇予告手当を支払い解雇となりました

ルールの整備がされていれば、状況に応じて、解雇と退職を使い分けることができたのですが、この会社では残念ながらそこまで気を回せていませんでした。

定年退職の場合

また、定年についてもルールを定めておく必要があります。

現在、多くの会社で、60歳を定年として、その後、再雇用制度を採用する形をとっています。

「いつをもって定年となるのか」を明確にする

就業規則では、いつをもって定年となるのかについてもルールを設けておくべきです。

例えば、60歳の誕生日、60歳となった月の末日、60歳となった月の賃金支払日など様々な解釈で定年日は変わってしまうため、この点を明確にしておくのです。

さいごに

この記事では寺内正樹さんの著書より、就業規則に「退職」についてのルールを記載するときのポイントを解説しました。

この記事のポイント
  • 退職の申し出は、「早め」「書面」でしてもらうようにする。「業務引継ぎ」に関するルールも明確にする。
  • 社員の「休職期間満了時・死亡時・定年退職時・行方不明時」などは、意思表示がなくても退職と認めるルールを作る。
  • 定年退職は、「いつをもって定年となるのか」を明確にする。

以下のページでは、「就業規則」を会社の成長拡大に役立つものにするためのチェックシートを公開しています。

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寺内正樹

シリウス総合法務事務所代表http://www.kaisha-teikan.com/
2002年11月より行政書士事務所を開設。2005年10月、社会保険労務士の登録も行い、企業の法務・人事労務をトータルにコンサルティングしている。中小企業の新会社法対応、会社設立には特に力を入れており、従来の業務に加え、個人情報保護法対策・プライバシーマーク取得支援などの新分野にも積極的に取り組んでいる。

Facebook:terauchimasaki


【参考】寺内正樹.
仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!