この記事では、就業規則に「賞与」に関するルールを記載するときのポイントを、社会保険労務士 寺内正樹さんの著書『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』よりご紹介します。
【書籍】『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』
【著者】寺内正樹 社会保険労務士 / 行政書士
賞与とは
社員に渡す給料は、一度、決めてしまうとなかなか変更することが困難です。特に、金額を下げる場合には、労働条件を不利益に変更することになるため、個別の同意が必要になってきます。しかし、社員に渡すお金で、会社の都合で変動させることができるものがあります。それが「賞与」です。
「賞与」は、いわゆるボーナスのことです。賞与は、月々支払われる生活を支える給料とは性質が異なり、臨時で支払われるため、就業規則などで決められていない限り、金額をその都度、自由に変動させることができます。さらには、会社の財産状態が悪いので、支給しないという判断を行なうことさえできるのです。
賞与について就業規則に記載するときの3つのポイント
額の縮小と見送りについて
会社にボーナスがあるのは当然だと思っていたり、ボーナスをあてにしてローンを組む社員もいるはずです。そこで、まずは、「会社の業績等によっては、賞与の額を縮小し、又は見送ることがある」と明示をしておくことで誤解はなくなります。
支給する対象者について
また、支給をする対象者についても「支給対象者は賞与の支給日に在籍している従業員に限る」としておくことで、退職者から賞与を請求されることも予防できます。
支給時期と算定期間について
次に、問題となってくるのは、支給時期と算定期間です。一般的には、「夏季賞与」と「冬季賞与」という形で、年2回支給をしている会社が比較的多いです。例えば、「夏季賞与」の支給時期を7月、算定期間を12月~5月、「冬季賞与」の支給時期を12月、算定期間を6月~11月としておきます。すると、中途で入社した人の賞与の計算は行ないやすくなり、社員に対しても説明がつきます。つまり、4月入社であれば、最初のボーナスの支給が7月であっても、4月、5月の2ヶ月分を基準として計算していると説明することができます。
就業規則で賞与のルールを説明して納得してもらう
特に法律で求められているわけでもないのに、ここまでルールを決めておく必要があるのか、と思う方もいるかもしれません。しかし、会社にとって「あたりまえ」のことであっても、社員側からしてみると説明されなければ何もわかりません。たとえ、賞与を自由に決めることが法律上は問題がなかったとしても、それで社員の納得を得られるかは、まったく別の問題なのです。
社員の人数が少ないうちは、社長が個人的な感覚で賞与のたびにアバウトに金額を決めたとしても、それほど大きな問題は起こりません。なぜなら、社長の眼が社員すべてに万遍なく届いているからです。
しかし、会社として人が増えてくるといろいろな考えの人が出てきます。中には、賞与の金額に疑問を持ち、不公平感を持つ人も出てくるかもしれません。この不公平感をなくすためには、賞与の金額が決定するルールを説明して、理解し、納得してもらうことです。
金額決定のルールには「柔軟性」も大切!
賞与の金額を決定するルールは、すべてを就業規則で定めておく必要はありません。
なぜなら、就業規則に記載すると、細かな部分であっても変更をした場合には、労働基準監督署に変更の届出をしなければならず、手続が煩雑になってしまうからです。
特に、賞与は、短期的な成果を評価する際に利用されることが多く、会社として柔軟性を持たせたい部分ですから、ルールが途中で変更になる可能性も考えられます。そこで、決定の基準となる要素だけでも記載しておくことだけでも効果はあります。
従業員40名の広告代理店のケースです。この会社は、もともと全体的に残業時間が長めではあるのですが、特に仕事の遅い人ほど労働時間が長く、残業代ばかりが増えてしまうという悪循環に陥っていました。
そこで、残業しないことが評価される仕組みとして、賞与で調整を図ることにしたのです。
具体的には、賞与の算定期間の月平均の残業時間を計算し、月間20時間ならA評価、月間30時間ならB評価、月間40時間ならC評価として、残業時間を賞与の評価の一項目としました。その結果、効率良く仕事を終わらせて残業時間が短い人には賞与が多くなるという仕組みを作ることができました。
就業規則には、「賞与は、従業員各人の勤務成績、残業時間などを査定して決定し、支給する」と細かい内容までは記載していませんが、賞与の決定に残業時間を考慮するというルールは、この記載だけでも従業員に伝えることができています。
さいごに
以下のページでは、「就業規則」を会社の成長拡大に役立つものにするためのチェックシートを公開しています。
記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。
仕事のあたりまえは、
すべてルールにまとめなさい!
『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』では、今回ご紹介した内容の他にも、あなたの会社に合ったルールの作り方や、会社の成長につながるヒントを紹介しています。会社にルールがなく社内にまとまりがないと感じる方や、会社の急成長に対して体制が整ってないと感じている経営者の方は、是非一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
寺内正樹
シリウス総合法務事務所代表(http://www.kaisha-teikan.com/)
2002年11月より行政書士事務所を開設。2005年10月、社会保険労務士の登録も行い、企業の法務・人事労務をトータルにコンサルティングしている。中小企業の新会社法対応、会社設立には特に力を入れており、従来の業務に加え、個人情報保護法対策・プライバシーマーク取得支援などの新分野にも積極的に取り組んでいる。
Facebook:terauchimasaki
【参考】寺内正樹.仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!