この記事では日本全国の企業に引っ張りだこの人事コンサルタント内海正人さんの著書『仕事と組織はマニュアルで動かそう』より「チームの人数に合わせた、適切なマネジメントのやり方」をご紹介します。

内海正人(人事コンサルタント)

総合商社の金融子会社にて法人営業、融資業務、債権回収業務を行う。その後、人事コンサルティング会社を経て、株式会社船井財産コンサルタンツにて人事コンサルタント、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務を行う。平成15年に日本中央会計事務所に合流、日本中央社会保険労務士事務所代表として現在に至る。

2人〜5人までのマネジメント

2人以上のチームになると、役割を持って業務を分担しないといけません。2人で重複する仕事をしていても、ムダとなるからです。同じようなことを2人で行うより、専門的な業務は、どちらかの担当としたほうが仕事がスムーズに流れていきます。しかし、現実はなかなか厳しいものです。ムダを省いてとった措置が、かえって業務の流れを複雑化してしまったり、適材と思って仕事の割り振りを実施したら、実は得意ではなかったりと、理想と現実のギャップはとても大きいのです。

責任の境界線

さらに、少数で業務をまわしているとなると、多くの場合は個人のパフォーマンスによって売り上げがつくられています。このようなときは、業務の明確な区分がなくても仕事はまわります。

むしろ、ルールをつくらないほうが「働きやすい」という意見も出がちです。数人のときは、これでもなんとなく仕事がまわっているのです。しかし、3人、4人となった場合には、業務の重複も目に見えてわかります。ここで、ルールと責任の境界線が必要となってきますが、必要と感じたときには準備が遅い傾向があります。準備が遅いということは、会社はいい状態ではないでしょう。そして、責任の所在で争いが起こる可能性が高いのです。人数が少ない場合は、逃げようがありません。しかし、人数が増えてくると、他人のせいにすることが容易になるのです。特に、ルールと責任が曖昧な状況だと・・・。

このことを防止するためにも、組織図と担当業務は、早い段階で作成しましょう。そうすることにより、各人の責任の所在の明確化と担当業務の範囲が自覚されます。これをはっきりさせることは、会社が窮地に立たされたときの意思統一の基礎になるのです。そのために、状況がいいときから準備をする必要があります。

5〜10人くらいのマネジメント

チームのメンバーが5人から10人ぐらいになると、組織としてのマネジメントをきっちりしないとすぐに崩壊します。これは、個人のパフォーマンスのばらつきによるバランスの悪さが主な原因です。そのため、メンバーに「誰かがやるからいいだろう」的な発想が生まれたら赤信号です。これが如実に出た例があります。それは「トイレ掃除に見る責任感」です。

最近、最寄り駅のトイレに次のような看板がありました。「いつもきれいに使ってくれて、ありがとう」。当たり前のことですが、「確かにそうだな」とうなずいてしまいました。このトイレは、お客さんの使い方も悪く、確かにみんながきれいに使っているという感じではありませんでした。それは、誰かが最初にマナーを破ったことで、悪い利用がエスカレートしていったのです。

このことは、会社のトイレにも当てはまります。私の会社でも同じことが発生しました。まだ人数も少なく、5~6人のころは、誰が使うか一目瞭然という状態です。その頃は、みんなとてもきれいに使っていました。しかし、ある程度の人数になると、そうは行きません。人数が10人前後になってきたら、トイレのゴミ箱が散らかり始めたのです。毎日、管理業者の人が掃除してくれているにも関わらず・・・。きっと、「誰が散らかしているかわからないからいいや」「紙が散らかっていても、管理業者の人が掃除をしてくれるから、まあいいか」という意識が多くのスタッフに生まれているのでしょう。

5~6人のときは、個人が特定される状況です。しかし、10人前後になると不特定となり、とたんに責任という文字が薄らいでくるのでしょう。そして、悪い方向は、気がついたときに元を断たないと、すぐに増殖してしまいます。「元」を断つのは、気がついた「あなた」です。

上司に報告することや、部下が行動するのを待っているのでは遅すぎます。「まずい」と感じた人が行動を起こす責任があるのです。特に、あなたがリーダーという多くのスタッフを引っ張る立場の人なら、なおさらです。あなたの行動の裏には「影響力」が生まれています。ですから、率先して自分で行動しましょう。そして、その背中を社員に見せて、伝えていくのです。こうなると社員も逃げられません。トイレ掃除を例にしましたが、いくらマニュアルで手順や役割をしっかり決めても、それを実践するには各人の責任感が重要なのです。

能力の差が出てきます

同じ業務をこなす人が出てくると、個人の能力の差が出てきます。数人であれば、みんなが同じことを同じようにやっていれば問題ない状態でした。しかし、人数が増えて役割、分担、そして責任と、各人の業務がばらばらとなって、それぞれの仕事がそれなりに各人に任される状況となるのです。この段階では、自分のポジションをこなせばいいと考えがちです。しかし、組織がもう少し大きくなると、「あいつがやってくれるからいいや」という意識が芽生えます。また、実際に能力の差が見えてきます。ここでいう能力とは、主に仕事をこなすスピードや仕事を熟知するスピードです。とりあえず、仕事をものにするスピードが劣る人物は、最初は、能力がないと見られがちです。

あなたは、「20対60対20の法則」をご存知ですか? これは、私が20 代半ばで金融の融資の仕事をしていたときに、一番の取引先の社長から聞いた言葉です。それは、20%の優秀な営業マンが売り上げを引っ張っていて、残りの60%の営業マンが「そこそこ」の数字を挙げている。そして、残りの20%の営業マンが会社にぶら下がっているとのことです。この社長いわく「20%をカットしても60%から脱落者が出るから、割合は変わらない」とのことです。実際に、その会社を長く担当しましたが、社長の話は当たっていました。

このことは、いろいろな場面に当てはまります。私がかつて勤めていた会社でも同じことが起こっていました。成績上位者は、何をやっても、まあまあの数字をつくり出してきます。その他の人は頑張って、何とか目標をクリアしたり、しなかったりでした。そして、成績下位者は、いつもメンバーが同じで、数字は毎回といっていいほど上がっていませんでした。

そのときの割合が20%、60%、20%でした。この状況を見て、以前に聞いた社長の話は「本当だ」と感じました。やはり、ある程度の人数で、無意識のうちに力関係が配分されていくのでしょうか。また、業務が分担され起こる現象なので、この対策としては人事異動や適材適所を会社が真剣に考えないと、今後の発展にはつながりません。

仮に、成績下位者を「解雇」しても、自然発生的に次の予備軍が生まれてきます。それでは意味がありません。さらに、「解雇」という手段は、残っている社員のモチベーションにも影響します。「会社が彼らをクビにした。いつ、我々も対象になるかもしれない・・・」と本来がんばってもらわなければならないスタッフにも悪影響が出るのです。この影響を抑えるためにも、個人個人の社員の能力を真剣に考え、将来の方向性も見据えた人事異動を実行しましょう。

10人以上のマネジメント

スタッフが10人ぐらいのチームには、どのような状態が多く見られるでしょうか?

例えば、会社をチームとして考えると、起業して順調に伸びている会社の場合は、そろそろ混乱が生じるケースが見受けられます。創業時のように、「誰が何をやっているのかが一目でわかる」状況を卒業した会社は、混沌とした動きが出てきます。「人手が足りない!」「よし採用だ!」このように採用活動を始めると、次は新人を教える人がいないことに気がつきます。また、このような採用の方法をとると、人物へのフォーカスよりも担当する業務に対する適性が優先となります。さらに、募集で集まる人たちも「社長の人物」「会社の将来性」というものよりも、「給料はいくらか?」「ボーナスはあるか?」「休みがとりやすいか?」など、働く条件で会社を選ぼうとする人たちが集まってきます。

働く条件で会社を選ぶ人たちは、創業したての頃に合流したメンバーとは明らかに異なります。みなさんお気づきだと思いますが、創業したての頃に合流したメンバーは「社長を手本に!」「社長が目標!」の人たちです。しかし、「人手が足りない」という理由で採用した人たちは、「雇用条件」の優劣で会社を選んでいます。転職が当たり前となった今日では、「もっと条件のいいところを探そう!」などといって、すぐに辞めてしまうケースも見受けられます。この人たちは雇用条件を基準に会社を選んでいるので、条件がいいところが見つかったら、あっさり移ってしまう人たちです。さらに、業務に追われて人手を確保しているので、仕事を教えるポジションの人がいません。とりあえず、その場しのぎの人材確保なので、マネジメントや教育ということはまるで考えていません。というより、余裕がないというのが本音でしょう。そのような現場では、人材の使い方が手薄になり、新しく入った社員は訳がわからずただ立っているという状況でしょう。そうすると、会社の混乱に巻き込まれ、被害者意識が芽生えて、離職していくケースが増えていきます。

なぜ、このようなケースに陥ってしまうのでしょうか?一言でいうと、「社長の目が届かなくなる」のです。社長以下のリーダーの中で、マネジメントできる人材がいれば問題の傷口が大きく広がらないのかもしれません。しかし、仮にマネジメントできる人材がいても、仕事で忙殺されていたらいないのと同じことです。

今までは、社長の目の届く範囲で業務が動いていました。意思決定もその場の判断で事が足りていました。しかし、スタッフの数が増えて、それができなくなる人数が「10人」くらいの人数です。この人数だとマネジメントの手法も考えないといけませんが、まだ、個人のパフォーマンスで動かせる部分も多くあります。ですから、どっちつかずの会社が多いのも事実です。しかし、先を考えないとこれからの発展もないのです。この時期が会社発展の正念場となります。

「就業規則」というルール

会社が大きくなると、いろいろな人が入社してきます。ここで、働き方に誤解を生じさせてしまっては、余計なトラブルも発生してしまいます。社員一人ひとりがいろいろな個性を持つのはいいことですが、ビジネス上、勝手な解釈がまかり通るようでは、仕事になりません。

組織・チームのマネジメントは、10人の組織も50人、100人の組織も基本は同じです。というのは、現場で監督できる人数というのは限りがあります。ですから、組織を考える際には、組織をユニット単位で考えていくのです。それを、組織のピラミッドに当てはめるだけの話です。ここを、無視して一人のマネージャーに多くの部下をつけると、最終的には、公平な取り扱いはできないし、人事評価などでは、正当な評価が不可能となっていくのです。基本をきちんと押さえ、よく考えたルールを適用し、組織の形を守って、会社運営を考えないと、うまくまわるものもまわらなくなってしまうのです。

10人以上の組織だと、法律で「働くルールを作成し、行政に届け出ないといけません」と法律で決まっています。具体的には、就業規則を作成し、従業員の代表者から意見を求め、所轄の労働基準監督署に提出しなければならないのです。

なぜ10人を越えると法律の義務が発生するのでしょうか? これは前述のとおり、10人というのは微妙な人数だからです。労働条件で入社した人もいれば、社長の身内も社員として働いているのです。しかし、そろそろ組織的な動きを検討しないと、会社としての発展が難しいとうすうす気がつく頃かもしれません。

よって、会社組織が法的に「ルールをつくりなさい」という状況なのです。就業規則を用い労働基準法を始めとする会社と社員の働くルールを決めなければなりません。でも、絶対に決めなければならないことは、そんなに多くはないのです。例えば、仕事の始まりと終わりの時間、休日、休憩時間、給料の決め方や支給日など、当たり前のことばかりなのです。しかし実際は、法律の決め事だけでは、会社は動きません。そこで、会社がうまく回るためのルールを就業規則に盛り込むのです。そして、その就業規則を社員に知らせ、守ってもらい、会社の業務がスムーズに動くようにするのです。

「就業規則があるのは知っているが、実際に目を通したことがない・・・」というスタッフは多いでしょう。就業規則は、各種業務マニュアルをつくる上で基準となる会社のルールでもあるので、これを機会にチェックしてみてはいかがでしょう。

 

仕事と組織は、
マニュアルで動かそう


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本書では、日本全国の企業に引っ張りだこの人事コンサルタントの著者が、あなたの会社に合った業務マニュアルのつくり方から、マニュアルの活用方法を述べています。あなたの会社もマニュアルをつくり、効率的・効果的な仕事と組織をつくっていきましょう。
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