この記事では、「リーダーが果たすべき役割」とは何かを解説します。この内容は、人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している三浦将さんの著書『才能スイッチ』をもとに編集しています。

具体的な事例や研究結果をもとに、リーダーに必要な素質とは何かを確認していきましょう。

三浦将

株式会社チームダイナミクス代表。人材育成・組織開発コンサルタント/エグゼクティブコーチ。株式会社チームダイナミクス

リーダーの役割は「強固な関係性の共同体をつくること

創造的なことに挑戦するとき、前例のないことに挑戦するとき、先のことはなかなか見えません。ベンチマークにするものもなく、模倣する成功例もありません。もしあったら、イノベーションにはならないからです。

イノベーションを目指すリーダーには、チーム全体の能力を引き出しながら、「四の五の言わず、とにかく進む」という態度が必要になってきます。革新的なチームは前もって進むべき道を計画するよりもまず行動を起こすのです。

ビジョンでイノベーションを引っ張ることは不可能

そして、注目すべきはビジョンについての考え方です。

ハーバードビジネススクールで、組織行動論、経営管理論を担当するリンダ・ヒル教授は、こう言います。

「方向性を定めるリーダーシップは、問題の解決法がすでにわかっており、単純な場合にはうまく機能する。しかし、本当に独創的な対応を必要とする問題の場合、どのように対応すべきかを前もって決められる者はいない。ならば当然、人々にビジョンを受け入れさせ、ともかく実行させるという方法でイノベーションを引っ張ることは不可能だ」

「ビジョンを設定し、それを追求するように社員を鼓舞することは、イノベーションを引っ張るリーダーの役割ではない」

価値観を共有し、強固な関係性を持つ

ヒル教授は、世界トップクラスのイノベーションリーダーたちのリーダーシップスタイルを研究するなかで、トップリーダーたちが最も心がけていることについても述べています。それは、

「リーダーの役割とは、新しいアイデアを生み出す意欲があり、また、実際に生み出せる共同体をつくることなのだ」

ということです。

ヒル教授の言葉は、ビジョンを設定することを否定しているわけではありません。チームメンバー全員が共感できるビジョンを設定することは、とても大切です。

ただ、イノベーションを目指すリーダーには、ビジョンを設定して、メンバーを鼓舞することよりも、もっと大切な役割があるといっているのです。

それは、メンバー同士で価値観を共有し、強固な関係性を持つ共同体をつくることです。

この共同体をつくることが、リーダーの最も大切な仕事だということです。

もし、あなたのチームが明確なビジョンを持てる状態であれば、共同体をつくるという仕事を全うしつつ、全員が共感を持てるようなビジョンを設定して、全員に浸透することをおすすめします。

このとき、「会社のビジョンでは共感を得られないんだよな」と感じている方は、それをチームメンバーの共感を得られるものに翻訳するのも、リーダーとしての大事な仕事です。ビジョンとは「気持ちが高ぶる目標」。この高ぶりが感じられないような、ただ目標数字が並べられているようなものをビジョンとは呼びません。この高ぶりを全員と共有できるような、チームとしてのビジョンを、打ち出してみてください。

一方、もし、あなたのチームが明確なビジョンを持てないような、前人未到のイノベーションに挑戦している状態であれば、共同体をつくるという仕事を徹底させることが、活路を開きます。

「自立の心理学」アドラーと、共同体感覚

リンダ・ヒル教授の言う共同体というのは、チームメンバーそれぞれが、その天才性(潜在能力)を発揮して、それが集合天才(collective genius)となり、イノベーションを生み出すための最高のチーム状態の事です。

このチーム状態をつくることが、イノベーティブを目指すリーダーとしての大きな役割であるのであれば、一体どうやってこの状態をつくっていくのか?

ここでアルフレッド・アドラーの提唱した「共同体感覚」に注目してみたいと思います。この共同体感覚というものが、この状態の理解を深めてくれます。

幸福の3原則

共同体感覚の話に入る前に、アドラーが説いた「幸福の3原則」について触れたいと思います。

人の幸福度は、どんな心の状態にあるかで決まります。アドラーは、その幸せな心の状態をつくるものとして、3つの主要要素を唱えました。それが以下の3つです。

自己肯定:自分を認めることができる・自分の可能性を信じることができる
他者信頼:人が信用できる・属している集団に所属感がある
他者貢献:人や社会に貢献している感覚がある

自己肯定

自己肯定は、人間の幸福感の基礎をなすものです。自分のことを認めることができる度合いが高まれば、充実感も増し、幸福度も増していきます。ここでも重要になってくるのが承認です。自分に対する承認です。自分への承認度が上がるにつれ、人間の潜在意識はより「安心安全」の状態になり、人間の偉大なる潜在能力が発揮されやすい状態になるのです。

他者信頼

自分を認めることができる度合いが上がってくると、それに比例して、相手を認めることができる度合いも上がってきます。目の前の相手をどれくらい承認できるかは、あなたが自分自身をどれくらい承認できる状態にあるかに比例するのです。相手を承認できる度合いが高まってくると、人を信用し、信頼できる度合いも高まってきます。家族、学校、会社など、自分が属している集団のなかで、信頼できる人間が増えてくると、所属感が高まっていきます。「私はここにいていい」という感覚です。逆にこれが低いと、「家にいたくない」「学校に行きたくない」「会社に行きたくない」という状態になってしまいます。これは決してハッピーとはいえない状態です。所属感のある集団では、お互いに承認し合うことが行われています。そして、そのことにより、属する人たちの幸福度が高くなっていくのです。承認のパワーは、本当に偉大です。

他者貢献

アドラーは、この所属感というものを求める「所属欲求」を、人間の根源的な欲求であると定めました。そして、所属感のある集団のなかでは、他のメンバーや集団全体に対して貢献したいという気持ちも高まります。他者に貢献している、貢献できているという感覚は、人間にとっての最高の幸福感です。特に、しっかりと自己肯定でき、他者信頼をできている状態で、他者貢献ができているというのは、究極の幸福感であるといって過言ありません。

信頼できるチームメンバーたちに囲まれているスポーツチームで、その勝利に貢献できたときの気分が最高であるように、この他者貢献というのは、何事にも代え難いような幸福感を運んできてくれます。

承認の文化を持つ共同体

共同体感覚とは「全体とともに生きている感覚」。そして、「自分がその大切な一部である」という感覚です。そして、共同体感覚を持って生きている人は、全体の一部として、全体に貢献することに最高の幸福感を感じ、それを常に実践しようとします。このアドラーの言う共同体感覚とは、共同体感覚を持った人たちの集団では、その人たちが幸福を感じるだけに留まらず、人間の潜在能力の発揮が高いレベルで行われます。そのため、常に高い成果や成長が生まれる場となります。

アドラーは、共同体全体にとって価値あるものを判断する感覚を「コモンセンス」と呼びました。共同体感覚は、このコモンセンスをしっかりと持ち合わせた感覚です。

コモンセンスは、私的な欲にとらわれず、共同体に貢献しながら本当の幸せを得ていく感覚のことでもあります。それは利他の感覚といってもいいでしょう。そして注目したいのは、アドラーはこのコモンセンスを、「バイアスにとらわれずに、物事を澄んだ目で見て、本質をとらえようとする感覚」という側面でも見ていたということです。

このアドラーの考えを参考にすると、「新しいアイデアが生み出される共同体」の本質が見えてきます。

  • 自己肯定感の高まる集団であること
  • 相互信頼のある集団であること
  • 全体への貢献が行われる集団であること
  • 自主自立性の高い集団であること
  • 物事を澄んだ目で見て、本質をとらえようとする感覚の優れた集団であること
  • 全体の発展のための利他の精神を持つ集団であること

これらから、イノベーティブを目指すリーダーの仕事とは、幸せな共同体づくりでもあるということがいえます。そんな共同体では、仮に大変なプロジェクトを抱えていても、メンバー一人ひとりの潜在意識は、常に安心安全な状態にあります。そして、それがゆえ、各自の潜在能力の発揮が高いレベルで進み、集団天才が生まれる場となるのです。

ここで、チームメンバーの自己肯定感を高めるためにも、メンバー間の相互信頼を高めるためにも、最も大切になってくるのは、相手への承認です。

つまり、イノベーティブを目指すリーダーが、その役割を果たすために最も注力すべきは、「承認の文化づくり」であるということです。承認の文化がある環境では、チームメンバーの潜在意識は、安心安全になり、心の枠組みがどんどん外れていきます。この環境をつくることができるのは、イノベーティブリーダーたる存在の必須条件といっても過言ではありません。

そのためには、リーダー自身が相手を承認することができる存在であることだけでなく、チームメンバーたち同士も承認し合うことができるような存在になることに導くことが重要です。そういった意味では、承認こそ、リーダーが率先垂範して行っていくべきことでしょう。

そして、承認というものを、チームのコモンセンスに位置づけ、それを徹底するようなルールや仕組みづくりも大切になってきます。

私がコンサルティングさせていただいてるある企業では、承認の本質を体得するコミュニケーション研修を社員全員が受け、日々実践し、習慣化することを行っています。本質をしっかり体得した上で実践を繰り返すことは、本当に重要です。そして、相手への承認というものを行動評価の最重要点として位置づけ、評価制度に取り入れるという仕組みもつくっています。また、採用基準においても、「相手への承認を実践できているかどうか」を、技能や経歴よりも重要視するルールをつくっています。

つまり、任用ー教育̶評価̶報償というヒューマン・リソース・マネジメントシステム(HRMシステム)全体を通して、一貫して「承認」というものを重視するという、徹底したルールづくりを行っているのです。

これにより、社員一人ひとりや全体の共同体感覚が高まり、お互いに貢献し合う行動が増えるなど、結束はより強固なものとなっています。

そして、コンサルティングで話し合っている目標は、この承認というものを評価制度からなくす日がくること。つまり、相手への承認というものが、「当たり前」として、企業文化の奥深くに根づくことが、本当の目標なのです。これが、真のイノベーティブな組織へと変容していくための、大切なステップとなるのです。

フォロワーシップを育てる

「自立の心理学」とも呼ばれるアドラー心理学。このアドラー心理学が重視するのが、自主自立性。自主自立性が高いことは、ビジネスマンとしても重要な要素です。これは、あのグーグルの採用基準においても必要条件のトップに入ってくるといいます。

イノベーションを目指すチームにおいて、チームメンバー一人ひとりの主体性というものは、さらに重要になってきます。イノベーションはチームメンバー全員の仕事で、集合天才性(Collectivegenius)を発揮することによって生まれるからです。

主体性とはリーダーシップのことでもあります。つまり、全員がしっかりとリーダーシップを発揮する必要があるのです。

こういう話をすると、「全員がリーダーシップを発揮するのでは、船頭が多すぎて困ってしまうではないか」と受け取られる方が意外にいらっしゃいます。誤解のないように「、全員がリーダーシップを発揮する」ということの本質を、例にとってご説明します。

2つのスポーツチームがあるとします。1つは、全員がリーダーの指示に従い、しっかりと自分の役割を行うチーム。一人ひとりが優秀で、役割を心得え、そして全うします。いいチームです。チームメンバーのスタンスはこうです。

「自分には自分の役割がある。リーダーの指示に従って、その役割をしっかりやることが何よりも大事だ」

このスタンスに基づいて、しっかりやります。しっかりやるので成果が残せます。そんななか、他のチームメンバーのミスで試合に負けることがあると、「原因はあいつ」「自分はしっかりやったから」という感じになってしまうことも否めません。リーダーの判断の上にやったことで負けても、「自分は指示に従ってしっかりやったから(原因はリーダーの指示)」という感じです。

そしてもう一方のチーム。こちらも一人ひとりが優秀で、自分の役割を心得え、全うします。チームメンバーのスタンスはこうです。

「自分には自分の役割があると同時に、チームの勝利に貢献する責任を持っている。チームの結果はリーダーの責任であると同時に、私の責任でもある」

チームメンバー一人ひとりがこの考え方を持っているので、他のチームメンバーのミスで試合に負けても「あの状況のなかで、自分に何かできることはなかっただろうか?」と考えます。リーダーの判断の上にやったことで負けても「リーダーがより良い判断をするために、自分はもっと貢献できたのではないか?」と考えるのです。

どちらのチームが強いと感じるでしょうか?

また、どちらのチームが強くなっていくと感じるでしょうか?

後者のチームのメンバーの持つスタンスが、まさにアドラーの言う「コモンセンス」、共同体全体にとって価値あるものを判断する感覚です。私的な欲にとらわれず、共同体に貢献しながら本当の幸せを得ていく感覚でもあります。そして、これこそがまさに、リーダーシップなのです。この章の冒頭でもご紹介した言葉をここで繰り返します。リーダーシップの本質は役職や権限とはまったく関係ありません。リーダーというのは、リーダーという立場でリーダーシップを発揮する人です。そして、その他のメンバーは、フォロワーという立場でリーダーシップを発揮する人。フォロワーが発揮するリーダーシップをフォロワーシップといいます。リーダーシップは、役職や権限とは関係なく、個人に属するものです。それは個人の責任感であったり、「達成したい」「役に立ちたい」という情熱であったりします。

先の例の後者のチームのように、チームメンバーが共同体感覚を持ち、フォロワーシップを持っているチームでは、集合天才性(collectivegenius)が発揮されやすくなるのです。これがヒル教授の言う「新しいアイデアが生み出される共同体」なのです。

そういった意味においては、チームメンバーのフォロワーシップを育てることが、イノベーションを目指すリーダーの役割です。フォロワーシップを育てることは、次世代のリーダーを育てることでもあり
ます。

「自分には自分の役割がある。リーダーの指示に従って、その役割をしっかりやっていればいい」というスタンスのフォロワーを、現場の仕事ができるからといって、リーダーに任命しても、リーダーとして機能するまでには、幾多の経験をする必要があるでしょう。

一方、フォロワーシップのある人は、リーダーに任命したその日から、リーダーとしての力を発揮し始める可能性が高い人材です。なぜなら、それまでリーダーのポジションになかっただけで、実質はチーム内でフォロワーシップという名のリーダーシップを発揮し続けていた存在だからです。

さいごに

この記事では、三浦将さんの著書より「リーダーシップの役割」について解説しました。

以下の記事では、リーダーに必要なスキルについて、1000億円企業の経営者 園山征夫さんにお話をうかがっています。ぜひこちらも参考にしてみてください。

リーダーに必要な4つのスキルとは?

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

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三浦将

株式会社チームダイナミクス 代表取締役http://www.teamdynamics.co.jp
著書『自分を変える習慣力』『相手を変える習慣力』(クロスメディア・パブリッシング)の習慣力シリーズは、累計20万部を突破。他に『人生を変える最強の英語習慣』(祥伝社)『一流の人が大切にしている 人生がすべてうまくいく習慣38』『「できる自分」を呼び覚ます一番シンプルな方法』(PHP研究所)がある。

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【出典】三浦将.
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