この記事では、「リーダーに必要な資質」とは何かを解説します。この内容は、人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している三浦将さんの著書『才能スイッチ』をもとに編集しています。

具体的な事例や研究結果をもとに、リーダーに必要な資質とは何かを確認していきましょう。

三浦将

株式会社チームダイナミクス代表。人材育成・組織開発コンサルタント/エグゼクティブコーチ。株式会社チームダイナミクス

リーダーに必要な「傾聴と承認」の資質

チームの一人ひとりの潜在能力を発揮させられるリーダーは、従来の典型的なリーダータイプとは異なる点を多く持っています。

最適なリーダーシップスタイルはチームの状態によって変わります。リーダーにとって初期段階での最も大切な仕事は、チームメンバーの自主自立性を高め、モチベーションを高めていくことを丁寧に行っていくことです。

ここでは傾聴と承認のコミュニケーションがその基盤をなします。

傾聴と承認のコミュニケーション

傾聴と承認のコミュニケーションは、どちらかというと、パワーリーダータイプよりも、内向的で、もの静かなタイプの人の方が自然に行える傾向があります。

部下の話をしっかり聴き、力を引き出す

企業研修で人材育成をお手伝いさせていただいている某ベンチャー企業を経営するTさんは、この内向的で、もの静かなタイプ。派手さはありませんが、部下の話をしっかり聴き、人の力を引き出すように接します。そして、部下に対しての指示をほとんど出さないという特徴があります。

部下から、業務を今後どう進めたらいいか相談を受けると、すぐに指示を出すことはせず、「どうしたらいいと思いますか?」と聞きます。そして、「どうしてそう考えるのですか?」「それをするとどんな結果が考えられますか?」とコーチング的な質問を繰り返します。Tさんが放つ独特の「安心安全」な雰囲気があるので、部下は、合っているとか間違っているとか、鋭い意見であるとか鋭くないとかを気にせずどんどん話すことができます。そんな会話のなかで、部下は大事なことに気づいていくのです。部下から相談を受けたときのTさんの返しの極めつけが、

「私にもわかりません。本当にわからないのです。あなたが頼りです。今どう考えているかを聞かせてください」

という返しです。

この驚くべき素直さ。

「積極的に考える習慣」が身につく

普通は、社長としてのプライドや、権威づけのため、こんなことを言えない人の方が圧倒的に多いなか、Tさんにあるのは、目の前にいる人の可能性への信頼(承認)と、みんなで大きな目的を達成したいという気持ちだけなのです。Tさんのこんなやり取りがあるので、社員たちは常に「積極的に考える習慣」がつき、自然とその自主自立性やモチベーションがどんどん上がっていくのです。

利益の高い組み合わせは「内向的上司+能動的な従業員」

著書『GiveandTake』で有名な、ペンシルベニア大学ウォートン校のアダム・グラントとノースカロライナ大学チャペルヒル校のデイビッド・ホフマンは、アメリカの宅配ピザチェーンである調査を行いました。調査では、各店舗あたり平均6人から7人の従業員にアンケートが実施されました。

その結果わかったことは、上司が外向的(指示をテキパキと出すタイプ)で、従業員が受動的であると、利益が有意に高く、従業員が能動的だと有意に低くなるということです。そして、上司が外向的で、従業員が能動的な店舗は、上司が内向的(指示をテキパキと出すというよりも、任せるタイプ)で、従業員が能動的な店舗に比べ、利益が14%も低くなることが判明したのです。

利益の高い順の組み合わせは以下の通りです。

  1. 内向的上司+能動的な従業員
  2. 外向的上司+受動的な従業員
  3. 外向的上司+能動的な従業員
  4. 内向的上司+受動的な従業員
上司が外向的で、従 業員が能動的な店舗は、上司が内向的(指示をテキパキと出すというより も、任せるタイプ)で、従業員が能動的な店舗に比べ、利益が 14%も低 くなることが判明

オペレーショナルな仕事におけるリーダーシップ

ピザ店舗での仕事は、どちらかというとオペレーショナルな側面が多い仕事です。この調査にもあるように、オペレーショナルな仕事というのは、指示をテキパキと出すリーダーがいて、部下が受動的に効率的にそれを実行することで、ある程度の高い成果を出すことができます。「リーダーが答えを持っている」状態であれば、これはこれでちゃんとワークするのです。この構造は、リーダーは指示を出す人→チームメンバーはそれを効率的に実行する人という構造で、リーダーの指示が的確で、メンバーがそれを忠実に実行している限りは、高い成果に結びつきます。

高度成長期時代の日本

たとえば、高度成長期時代の日本はこの状態で、「部下は俺の指示に従っていればいい」というようなストロングリーダーが、従順な部下たちをグイグイと引っ張ることで、結果を残すことができました。この構造では、部下たちはあまり俯瞰的にものを考える必要がなかったり、疑問を持つ必要がなかったりするのです。逆にそれらを考える能動的な部下は、「出る杭」として疎まれるような状態にもなり得るのです。

「不確実性の時代」のリーダーシップ

一方、「不確実性の時代」といわれる現在は、リーダーが答えを持っていない(持てない)ケースが多い状態です。そのため、イノベーションを生み出すためには、集合天才(collectivegenius)が必要なのです。集合天才を生み出すためには、チームメンバー一人ひとりが能動的で自主自立的になっていく必要があります。そのためにも、Tさんのようなアプローチがうまく働きます。必要以上に指示を出さないことによって、メンバーが自然と自主的になっていくのです。

そして、能動的で自主自立的なチームメンバーたちを持つリーダーは、メンバーと「横の関係」で、メンバーの潜在能力を引き出すことによって、成果を上げていくのです。

必要以上に指示を出すことを抑える

ここで勘違いしていただきたくないのは、外向的な人がイノベーションを目指すリーダーに向いていないということをいっているのではないということです。必要以上に指示を出すことを抑え、しっかりと横の関係で、傾聴や承認(目の前の人の可能性を承認すること)をしながら、チームメンバーの潜在能力を引き出すことをしていけばいいのです。

イノベーションに必要な「傾聴と承認」

メンバーの能動性や自主自立性がまだまだ育っていない場合に成果をあげるには、2つのやり方があります。1つは、傾聴や承認を丹念に行い、それらを育てることに注力するやり方。もう1つは、テキパキと指示を出し、手っ取り早く効率を上げていくやり方。後者は手っ取り早く、前者には忍耐が必要です。しかし、イノベーションを起こすためにはどちらのやり方を取るのがいいかは、もうおわかりですね。

チームメンバーの成長に大きな影響を及ぼすことは、リーダーの大切な仕事なのです。

さいごに

この記事では、三浦将さんの著書『才能スイッチ』から「リーダーに必要な素質」についてご紹介しました。『才能スイッチ』では今回ご紹介した内容の以外にも、自分自身の才能や創造性を引き出す方法などが解説されています。三浦さん自身が人材育成・組織開発の現場で培ってきた、実践的なノウハウが紹介されています。

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三浦将

株式会社チームダイナミクス 代表取締役http://www.teamdynamics.co.jp
著書『自分を変える習慣力』『相手を変える習慣力』(クロスメディア・パブリッシング)の習慣力シリーズは、累計20万部を突破。他に『人生を変える最強の英語習慣』(祥伝社)『一流の人が大切にしている 人生がすべてうまくいく習慣38』『「できる自分」を呼び覚ます一番シンプルな方法』(PHP研究所)がある。

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【出典】三浦将.
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