経営者はある時点で事業承継のことが頭に浮かび、「誰に継がせるべきか」を考えてはみるものの、日々山積みの経営課題がある中で、事業承継はどうしても後回しにされてしまいがちです。また、身近に相談できる人も少なく一人で頭を悩ます経営者も多くいます。このようなことから後々実際に事業承継を進めようとなったときに、多くのトラブルに見舞われてしまうケースもあります。
そこで今回は、事業承継に関する専門家チームの深い知見を活かし「事業承継コンサルティング」事業を展開している『GSRコンサルティング株式会社』の代表取締役である佐藤良久氏への取材を元に「今から取り組める事業承継の準備」について解説していきます。
今、注目の事業承継
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業承継への関心が高まっています。
帝国データバンクの調査によりますと、コロナを機に8.9%もの企業が「事業承継への関心が高まった」と回答したそうです。コロナ禍における経営不振で、さまざまな中小企業が存続の危機にさらされていることは言うまでもないでしょう。
また、佐藤氏によると世の多くの中小企業は社長が「団塊の世代」かそれ以上であるため、「経営者の高齢化」が問題点として挙げられるのだそうです。経営者自身からの相談やご子息からの相談も多くあるとのことです。
企業が直面する大きな「壁」
事業承継をする際、企業が直面する大きな問題はさまざまあります。
まずは何といっても「後継者決め」です。帝国データバンクが発表している「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によると、国内の企業の65.2%が後継者不在という状態です。子供が後を継ぐのを嫌がる、継がせたい従業員から断われる場合など、後継者探しは何より難しいと言えるでしょう。
また、後継者がいない場合にはM&Aを考えなければいけないということになりますが、財務状況が悪かったり、そもそも会社として生み出している付加価値が低かったりすると、「買い手がいない」ということにもなりかねず、まず事業改善から始めなければいけないこともあります。
次に「株式が分散している」状態。経営者自身が舵をとって事業承継を進めたくても、株式が分散し多くの株主がいると、様々な意見が飛び交い、意見がまとまらない場合があります。
最後は、経営者個人の相続と会社の承継が複雑に絡み合い、収集がつかなくなる場合です。実際に佐藤氏の元を訪れる人の中でも、「はじめは個人の相続コンサルティングだったのに、ふたを開けてみたら事業承継問題を抱えていた」というケースが相次いでいるそうです。
事業承継は準備が肝心
事業承継を進めようと思っても、上記に挙げたような課題が次から次へと出てくるため、一筋縄にはいきません。だからこそ、早い段階から準備を進めていくことが必要だと佐藤氏も言っています。一般に、事業承継の準備には後継者が経営力を発揮していくための育成期間を含めて、5~10年程度を要するとされています。経営者の平均引退年齢が70歳前後であることから、遅くても60歳頃には準備を始めるべきなのです。
そこで、「今日から始めることができる事業承継の準備」を2つご紹介いたします。
「会社」を知ろう
1つ目は、自分の会社について知ることです。「自分の会社なんだからなんでも知っているよ」と思うかもしれませんが、改めて確認することにより新たな発見があったりもするものです。事業承継で引き継がれる経営資源には、大きく分けて5つの資源がありますから、まずこれらを棚卸しすることが大切です。
- ヒト=労働力、創造性、技術力など
- モノ=事業用資産(設備・不動産)、商品・サービスなど
- カネ=資金、株式など
- 情報=顧客データ、取引先のネットワーク、研究成果など
- 知的資産=特許、企業理念、組織構造など
これらを整理し、経営者自身が正しく理解している状態になる必要があります。
特に「知的財産」は今後の成長において重要な要素であるため、どうすれば最もよい形で承継できるか時間をかけて取り組む必要があります。
気持ちのすり合わせをする
2つ目は、気持ちのすり合わせをすることです。佐藤氏によると、近年事業承継の形も多岐に渡ってきているため、どういった形を選択するか、考えて、「気持ちの整理」をすることが大切とのことです。
実際、事業承継というストーリーを進めるにあたって、出てくる人物は社長だけではありません。ご子息や配偶者、親族、株主、役員や従業員まで、実に多くの登場人物のさまざまな思惑が複雑に絡み合っています。気持ちのぶつかり合いから事業承継の話そのものが白紙になってしまう場合もあります。
中でもありがちなのが「継ぐ人」と「継がせたい人」が衝突してしまうケースです。GSRコンサルティングでは東京近郊や埼玉の中小企業のクライアントが主ですが、たとえば「子供が東京の大手企業に勤めている」といった場合、親は「継がせたい」が、子は「継ぎたくない」といった具合に衝突が起きてしまうケースもしばしばあるとのことです。
「継ぐ人」と「継がせたい人」、また会社に関わる全ての人と話し合いながら、全員の「気持ち」のすり合わせを長期的なスパンで行っていくことが事業承継において最も重要なポイントと言えるでしょう。誰もが納得のいく事業承継というものはないのかもしれませんが、それでも進めてきた事業、積み上げてきた会社としての信頼、経営者そして従業員たちの努力に報いるような、「想いを繋ぐ」事業承継が今後ますます必要になってくるのかもしれません。
代表者さまからのメッセージ
「事業承継コンサルティング」という事業は、扱うのが非常に難しい領域です。というのも、さまざまな人の思惑の中でプロセスが目まぐるしく変化し、お客様との長期的な関係性の中で時には不本意な結末を迎えてしまうこともあり得るからです。
それでも我々GSRコンサルティングは一つ一つの中小企業に寄り添い、決算書などから読み取れる定量的な観測も勿論ですが、地域貢献という視点からも、何より「気持ち」を大切にこの事業に取り組んでいきたいと考えています。
ただ、昨今の事業承継に最も足りていないのは「相談できる相手」です。私たちのような専門家も増えて来てはいますが、どうか相談先を絞らずに、さまざまな意見や考え方の中で、より良い選択を模索してほしいと考えています。
佐藤 良久
GSR コンサルティング株式会社 代表取締役
URL:https://gsr-consulting.com/
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