斜陽といわれている出版業界。
この業界は、この20年変わり続けてきました。
特にビジネス書は、激変したといっていいほどです。

出版は何が変わったのか?それは何が原因なのか?
この激動の20年を編集者、著者として第一線で活躍し続けてきた、
弊社グループ編集長の川辺秀美にゆるりと聞きました。

川辺秀美(かわべ・ひでみ)

編集者・作家。クロスメディア・パブリッシング所属
1968年横浜市生まれ。立教大学文学部ドイツ文学科卒業。高野山大学大学院修士課程密教学中途退学。就職情報会社を経て、出版社へ。ビジネス書版元書籍編集長を経て独立。独立後は、コンサルティング、教材開発、講師、作家として活動。2013年以降は新聞社、出版社に所属して活動中。専門は、国語力、読書術、編集術、メディア開発、仏教。

編集作・著作

 

出版とビジネス書を巡る、よもやま話

出せば売れた90年代のビジネス書

―川辺さん、今年で出版業界何年目ですか?

川辺 20年以上かなぁ。 出版社に転職したのが、90年代後半だった。

―長いですね。最初からビジネス書を編集してたんですか?

川辺 そう。その頃は今と違って、出せば売れるって感じでしたね。

―えっ。本当ですか。だいたい1万部は超える感じですか?

川辺 まあ、そこまではいかないけど。売れ筋のテーマに合わせれば、1万部は超えるケースが多かったかな。重版するのが当たり前みたいな感じだった。

―売れ筋テーマって、やっぱりお金とか、仕事術、自己啓発……?

川辺 いや、当時は実用系が主流だったね。初心者向けのパソコン書とか、堅めの実用書が主流で、はじめて作った本が『電卓で金利計算』。こんなの誰が買うのかな? と思ったけど、ロングセラーになって2万部超いきました。

―え~。

川辺 実用書をつくる、っていうのが昔のビジネス書のスタイルだったんだよ。その方が確実に重版するから。当時は今みたいにスマホで情報を取れたりしないから、ビジネス書に頼るしかなくて、ある程度固定客がいたんです。

―う~ん。なんかだいぶ今とは違いますね。今のビジネス書のイメージは、仕事術や自己啓発系が中心ですよね。

2010年代のビジネス書に求められるもの

川辺 書籍のつくりも変わったよ。字数だって以前は10万字くらいあったんだから。

―今、だいたい6~8万字くらいですもんね。

川辺 きっちり丁寧に書かれてたんだよね。そういう本が好まれてたっていうのもあるけど。

―へえ~。

川辺 読者のレベルも高かったし、著者にちゃんとファンがついてたんだ。今は大変だよね。その人が無名だろうが有名だろうが、タイトル次第で売れるか売れないかが決まっちゃう。

―そうですね。売れた企画の第二弾が売れないっていうのはよくありますね。

川辺 もう書籍ではないよね。週刊誌なみにセンセーショナルでなければならない

―それはいつ頃からですか?

川辺 たぶん2000年以降からだと思う。そのころ、新しいプレイヤーの出版社、例えばフォレスト出版やディスカヴァー・トゥエンティワンが出てきたよね。そういったプレイヤーが中身もデザインも革新していった。

―良くも悪くも、変革していったってことですか。

川辺 そう。この時期にビジネス書というジャンルが完璧に崩れて、今までいた読者が離れていき、企画性の高いものだけが、ヒットする感じになってきたんですよ。

―川辺さんの『ウケる技術』も企画ベースの書籍ですよね。

川辺 そうそう。その流れの走りですね。

―2003年でしたっけ、あれ。

川辺 2003年。その頃から企画性やデザイン性が問われるようになってきた。あと、ビジネス書の読者に、女性や20代が入ってきたことで流れが大きく変わりました。

―あー。それまでビジネス書の読者は、男性中心だったんですね。

川辺 そう。7割8割が中年男性だったね。女性はほとんどいなかったと思うな。今は半分くらいは女性かもね。

―書籍によっては、もっと女性の割合が高いのもありますよね。

川辺 そう、だから書籍の作り方も変わってきてる。さらに、スマホへ情報の主流がシフトしてから、本の価値が強く問われていると思います。企画の目新しさや書籍の売りがはっきりしてないものは、読まれないという傾向になってるかも。

―書籍のつくり方が色々な要因で変わってきたんですね。

川辺 2009年に出版された『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』から特に流れが大きく変わってるんじゃないかな。

―「もしドラ」ですか……。より企画勝負になってきたということですか?

川辺 というより、編集がデザインからコラージュの世界へ移行したというふうに見ています。

―コラージュってどういうことですか?

第一回はここまで!続きもゆるりと聞いていきます。