「経営をサポートしているプロフェッショナル」へのインタビュー第5回は、株式会社 Studio Gift Hands の代表を務める三宅琢さんへのインタビューをお届けします。
三宅さんは、産業医やコンサルタントとして、多くの組織において健康やモチベーションの管理に関わる業務を行なっています。様々な組織をサポートしてきた経験をもとに「マネジメントにおいて大切なこと」について教えていただきました。
マネジメントで大切なのは「自分の不調」に気づくこと
―産業医・コンサルタントとして組織に関わる中で、近年のビジネスパーソンはどのような悩みを抱えていると感じますか?
三宅 新入社員のメンタル不調が増加傾向にあると思います。また、管理職になって不調になる人もとても多いように感じます。
―原因は何だと思いますか?
三宅 新入社員のメンタル不調の原因は、業務への適性不良や対話不足から来る、上司や同僚との対人関係の悪化が挙げられます。
一方、管理職になって不調になる人の原因は、真面目すぎて部下の育成に必要以上に心を悩ませていることが挙げられます。また、部下との距離感がわからず放置してしまった結果、休職者が続出するグループのリーダーなどにも、メンタルの不調を起こす人は多いようです。プレイヤーとしては優秀であったが、人材の育成や管理といった知識・経験がないために、マネジメント業務をうまく回せず、行き詰ってしまっているのだと思います。
また最近では「ハラスメント」というフレーズが一人歩きしてしまい、部下との対話に不安を感じている管理職もとても多いようです。
どんな人でも簡単に「自分の不調」に気づく方法
―それらの悩みを予防・解消する方法は何かあるのでしょうか?
三宅 「心や体の健康の管理」と「モチベーションの管理」は別物であるという認識を持つことで、対処の方法はとても明確になります。
「心や体の健康の管理」は、原因を詮索するよりも、”当日連絡の遅刻”や”欠勤の頻度”といった数値化できる指標で評価します。「モチベーションの管理」については、上司が指導するのではなく、部下自身に学びに行くという姿勢を心がけることで、とてもシンプルに対処できるようになります。
またマネジメントをする上で最も大切なことは「上司自身がベストな状態を保つためのセルフケア」を実践することです。
自分の不調に早く気づき、対処できてこそ、他人の不調にも気づくことができます。
また自分に対しても他人に対しても言えることですが、不調の原因を探すよりも不調の「兆し」をとらえて、適切なタイミングで対処することが大切です。
これらを知り、実践することで、部下のマネジメントに関する多くの悩みが解消されるはずです。
三宅さんが、著書『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』で解説している「どんな人でも簡単に自分の不調に気づく方法」をご紹介します。
どんな人でも簡単に自分の不調に気づく方法は、「食う寝る遊ぶ」を“心の揺らぎのパラメーター”とすることです。「食う寝る遊ぶ」はいわば「心の体温計」。ちょっと熱があるかな、と思ったら体温計で熱を測るのと同じように、「ちょっとこの頃、調子が出ないな」と感じたら、以下の「チェックポイント」に沿って「食う寝る遊ぶ」をチェックしてみてください。
― チェックポイント ―
◎食う
大好きだった料理がおいしく感じない
お腹が空いたと感じない
空腹感や満腹感と実際の食事量にズレがある
味の好みが大きく変わった
◎寝る
寝付きが悪くなった
目覚めがスッキリしない
時間的には十分寝ているのに寝た気がしない
予定より早く目が覚めてしまい、再び寝付くことができない
◎遊ぶ
いままで好きだったことをする気になれない
何をしてもつまらないと感じ、苛立ってしまう
時間だけは潰せても満足感や興奮がない
このようなことがあれば、「ストレスによって、心身のコンディションに揺らぎが出ている状態」と考えてみるべきです。何かしらのストレスを感じて、いつもの自分ではなくなってしまっている。その結果、「食う寝る遊ぶ」に微妙な変化が起きるのです。そこを見逃さないこと。この、いわば「微熱」のときにスケジュールを調整して休みを入れたり、専門家に相談したりすれば、比較的短期間のうちに回復できるはずです。残念ながら専門家でも、人の揺らぎを簡単に感知することはできません。まずは「食う寝る遊ぶ」によって自分自身で揺らぎを感知し、対処することです。
『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』P68-70より
働く人の健康とモチベーションを最大化する
―企業を成長させていくうえで、経営者が意識するべきことはありますか?
三宅 私は日々の業務を行う上で、多くの企業や組織を診てきました。その上で、組織の要となる管理職の方々が生き生きと働く姿は、組織の強さの指標になると感じています。
人財という言葉が示すように、企業にとって人は財産であり、働く人の健康とモチベーションを最大化することは、経営者にとっても重要な視点であると思います。
さいごに
今回は、株式会社 Studio Gift Hands の代表 三宅琢さんに「マネジメントにおいて大切なこと」ついてうかがいました。
- 「モチベーションの管理」と「心や体の健康の管理」は別物。
- 部下のマネジメントをする上で、最も大切なことは「上司自身がベストな状態を保つためのセルフケア」が実践できていること。
- 「働く人の健康とモチベーションを最大化すること」は経営者にとっても重要な視点である。
書籍のご紹介
『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』
三宅琢さんからのコメント
組織の性格に寄らず、日本中の悩める管理職が少しでも肩の荷を下ろせるような「マネジメントのコツ」を伝えたいと思って本書を書きました。管理職の方々が本書を通して不必要なマネジメントに対する不安から解放されて、より健康に働けるようになることを心から願っています。
三宅琢
産業医 株式会社 Studio Gift Hands 代表取締役
医学博士、日本眼科学会眼科専門医、日本医師会認定産業医・産業衛生専攻医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社 Studio Gift Hands 代表取締役、公益社団法人 NEXT VISION 理事、東京大学政策ビジョンセンター客員研究員、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、産業医科大学訪問研究員。眼科医として、視覚障害者の新しい医療ケアとして iOS 端末を用いた情報ケアの普及活動および実践医療を行い、産業医・労働衛生コンサルタントとして、IT 系企業から大手 アパレル企業まで多くの企業の職場環境に関するコンサルタント業務を行う。年間 100 回以上の研修・講演では、新入社員対象セルフケア研修、管理職対象ラインケア研修、人事労務担当者対象メンタルヘルス法務研修、障害者採用担当対象合理的配慮研修等、 幅広い企業ニーズに対する研修会を行う。2017年12月開院の神戸アイセンター病院内の情報ケアセンター「ビジョンパーク」のコンセプトデザインディレクターを務める等、医療、福祉、産業保健の領域を超えたディレクターとしても幅広く活動。2018年8月より株式会社ベンチャーバンクのCHO(Chief Happiness&Incubation Officer)推進室室長補佐として健康経営の新しい形を模索している。
インタビュー
「経営をサポートするプロフェッショナル」
企業の「経営をサポートしているプロフェッショナル」へのインタビューをお届けしています。
経営・マーケティング・組織・人材など、様々な面から企業の課題を発見し、問題解決につながるような情報をお伝えしていきます。