シーズアンドグロース株式会社代表 河本英之さんが著書『本質採用~入社後すぐに活躍する人材を“育てる”採用成功のバイブル~』で解説している、「学生と企業が相互に理解を深める本質採用の進め方」をご紹介します。

河本英之さんは、学生と企業が相互理解を深めたうえで、学生自身が入社後活躍しようという意思を高めることのできる採用活動として、「本質採用」という考え方を提案されています。この記事では、企業が「本質採用」を実践するための具体的なプロセスをご紹介します。

【書籍】『本質採用~入社後すぐに活躍する人材を“育てる”採用成功のバイブル~
【著者】河本英之 
シーズアンドグロース株式会社代表

「本質採用」が採用を変える

まず、「本質採用」とはどのような考えに基づくものなのか、ご説明します。

本質採用とは、

  • 学生と企業が相互に理解を深めるプロセスがあること。
  • 内定(≒人数の確保)が目的ではなく、入社後に活躍できるかどうかを考える。その意志を学生にも意識させ、高めるためのプロセスを考える。

「本質採用」実現のためのプロセス

本質採用実現のため、採用プロセスをストーリーとし、学生を未来の社員に育てます。本質採用は、次の1〜4のステップを踏んで進めていきます。

  1. 集める:3Cの視点を活かしたメッセージ構築で母集団形成
  2. 高める:自社「らしさ」を疑似体験できるイベントの実施
  3. 選ぶ:予定調和を排した、相互コミュニケーションの面接
  4. 決める:弱点を含む自社の特徴を理解してもらい、納得して「入社したい」と思わせる内定者フォロー

1.集める:3Cの視点を活かしたメッセージ構築で母集団形成

どのような媒体、どのようなチャネルを使って広報(≒学生に、自社の採用活動を伝える)するかを考える前に、「自社(の採用)を最も適切に表現するメッセージ・キーワードはどんなものなのか」を考える必要があります。検討のポイントとしては、次のような内容が挙げられます。

  • 求める人物像の志向(何を好み、何を目指すのか)
  • 採用競合はどのような“売り”で学生を惹きつけているのか
  • 採用(および、事業上の)競合と比べ、自社にはどのような特徴があるのか

いわゆる「3C(Company /自社、Competitor /競合、Customer /顧客、この場合学生)」の視点で自社の良さ・オリジナリティをあぶり出し、それをメッセージおよびキーワードとして抽出します。

メッセージおよびキーワードは、学生の動向を鑑み、最も効果的と思われる
チャネルや媒体に投下し、学生の反応を待ちます。

ポイントは、自社視点のみでメッセージおよびキーワードを考えるのではな
く、競合および学生をも視野に入れた総合的な見地から、自社の特徴を考えるところにあります。

もし、この記事をお読みの方の会社が、就職情報を利用しているなら、次の視点で自社の広報メッセージを見直してみてください。

競合の広報として自社のメッセージを当てはめてみて、違和感はありますか? ありませんか?

もし、違和感なくフィットしてしまうようであれば、そのメッセージは貴社の特徴を適切に表現できているとは言えません。挑戦、成長、使命感、覚悟、自己実現……そのような使いやすい言葉を一度排除して、もう一度自社らしい表現を考え直してみることをお勧めします。

2.高める:自社「らしさ」を疑似体験できるイベントの実施

就職サイトなどでエントリーを行った後は、説明会をはじめとしたイベントへ呼び込み、直接の接触をはかることになります。

講義形式の、一方通行的な説明会に対する疑問は一般的となり、いわゆる体感型の説明会を取り入れる企業は多くなりました。また現場の社員の協力を仰ぎ、より職場の雰囲気をしっかり伝えようとする企業もたくさん存在するでしょう。双方向的で、学生に発言や質問の機会が多くある説明会が、そうでない説明会より学生の印象に残りやすく効果的であることは、もちろんのことです。ですが、そうした考え方が一般的になった今、「自社」をより強く学生に印象づけるためには、もっと大事なことがあるのです。

(特に、インターンシップなど早期のイベントで傾向が顕著ですが、)時折見かけるのが業界や各職種の仕事内容については一般的な内容に終始し、自社「らしい」情報は会社概要だけ、というような説明会ですが、それでは学生に自社を強く印象づけることは難しいでしょう。内定寸前の段階で役員面接をした際に、役員から「学生の志望動機が弱い」というような評価が下されてしまうような状況は特に、ここに原因があります。

説明会では、学生に自社の「らしさ」を疑似体験させることをお勧めします。

例えば、あるメーカーでは事前の設計段階でハイパフォーマーインタビューを行い、我々客観的な第三者がその企業DNAを抽出します。その後、企業DNAをどのように学生に訴求するべきかを担当者の方々と議論し、決定します。そのDNAがわかりやすいように企業DNAストーリーを制作し、学生に読み解いてもらいます。

各社員がどのようなやりがいを感じ働いているのか、自分が働いたらどんな想いで働けるのかなどという「仕事の深み」を疑似体験します。その後、解説で企業DNAに触れるため学生の中では「自分が理解したこの会社の魅力はもっと深いところにあるんだ」という気づきを与えることができ、企業DNAストーリーを持ち帰り説明会以降も読み解くことで深まっていくというような仕立てです。

学生に「リアルな自社(の特徴や魅力)を伝える」と言うと、「ネガティブな面を包み隠さず伝えること」と考える傾向が多いように思えます。それも間違いではないのですが、学生たちが知りたいと考えている「リアル」とはそうしたことではなく、「働く現場で、何が起きているのか」なのです。そしてそれが、企業のスタンスや理念・ビジョンなどコアな部分とどのように繋がっているのか、および“現場で起きること”の積み重ねで実現に向かうビジョンとセットで伝えられるべきであることは、言うまでもありません。

3.選ぶ:予定調和を排した、相互コミュニケーションの面接

説明会などのイベントの後は、面接など“人と人”のクローズドなコミュニケーションの局面となるでしょう。

もはや最近の話ではありませんが、面接に関するノウハウが書籍などにまとめられ、学生たちはそれで“テクニック”を身につけ面接に臨んでいます。

長く続いた不況をベースとした就職環境の厳しさがあり、行き着く先として就職活動の目的が「内定取得」になってしまった状態が、そのような風潮を生んでいるのかもしれません。

企業側からすると、その場しのぎのテクニックで就職活動を乗り切ろうとする学生の態度を嘆きたくなるでしょう。それは、私にもよく理解できます。また、インターネットが普及した以降の世代について、それ以前の世代よりコミュニティ(≒交友関係)の幅が狭く、同じ価値観・趣味などの仲間としかコミュニケーションを交わさない状態があり、その分コミュニケーション能力が低い傾向にある、などという分析も耳にしたことがあります。

しかし、私は面接が形骸化してしまう状態の改善には、採用側である人事担当者の皆様をはじめとした企業側に努力をしていただきたい、と考えています。

理由は2つで、ひとつは相手側に変わることを望むより、自分たちが変わる方が確実であり問題解決への早道だからです。もうひとつは、マニュアル通りの回答を引き出しているのは、マニュアル通りの質問しかできていないことにも要因があると考えているからです。

志望動機、入社後何をしたいか、それは競合では不可能なのか、自分の長所と短所、学生時代に何をしてきたのか……そうした“当たり前”の質問には“マニュアル通り”の回答しか得られなくても仕方ありません。いわゆる圧迫面接でさえも、対策が出回っている時代なのです。

私が提言したいのは、面接(OBOGとのコミュニケーションも含みます)という場を、「問答」のための場から、「議論」のための場に変えることです。前の章で述べた、「素直さとは何なのか?」について(面接官と学生の間で)フラットな議論を交わす」ようなコミュニケーションを、是非お勧めしたいと思います。互いに素になって向き合い、本当の姿を見せあう。そうしたことで、本質採用は実現できるのではないかと思っています。もっと言えば、議論の末に学生は「自分を出し切った」という思いに至り、たとえ内定に至らなくても、その会社に対し好印象や感謝の念を抱くと思います。

「選ぶ」の部分の締めくくりとして、ひとつ申し上げたいことがあります。「選ぶ」のは、企業側だけではありません。学生と企業、互いに選び合うのがこのプロセスなのです。

4.決める:弱点を含む自社の特徴を理解してもらい、納得して「入社したい」と思わせる内定者フォロー

企業とは「法人」であり、長所短所があるところ、一人ひとり顔が違うところは人間に近いものがあります。

内定を出す(学生視点で言えば、自社に入社することを決意する)段階においては、自社の弱点もきっちりと理解してもらい、それでも入社する意志があるかどうかを確認する(それでも入社したい)という状況まで、学生を育てることが大切です。

バブル期までの学生に比べ、最近の学生が入社後のイメージギャップへの耐性が低くなっていることとその要因については、前述させていただきました。隠していても、入社すれば弱点はそのうち見えてしまいます。また、新人が入社し、様々なことを身につけ仕事を覚えていく道のりの中においては、必ず壁にぶつかるなど葛藤局面に出くわします。その時に退職の理由となってしまうのが「弱点」であり、踏みとどまって乗り越えていこうという気持ちの源泉になるのが、「弱点を踏まえても、ここで生きていきたい」という思い、そして「ここで成し遂げたいこと」という強い志望動機なのです。

さいごに

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

本質採用


本質採用~入社後すぐに活躍する人材を“育てる"採用成功のバイブル~

AMAZONで見る