車さえあれば働けるのに、車を買うことができない。そのような人たちにローンの活用機会を創造することにより、就業機会の創出や、貧困・低所得問題の解決に貢献する金融包摂型FinTechサービスを展開するGlobal Mobility Service株式会社。その代表取締役社長を務める中島徳至氏に真面目に働く人が正しく評価されるための金融ローンについてのお話をお伺いしました。
真面目に働いた人が正しく評価される世の中を目指して
―事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか。
中島:私どもの会社は金融包摂型のFinTechサービスをグローバルに展開しています。車を必要とする職業で頑張って働きたくても、自動車ローンやリースを組めないという方々は世界になんと17億人もいます。しかし、世界を見てもそういった方々に向けた金融サービスの事例はありませんでした。
そのため、貧困や低所得層の人々の多くは新しい車を購入することができず、経年劣化した車をレンタルして使い続けることが当たり前になっていました。先進国では、環境に配慮された車両や電気自動車の導入が進む一方で、新興国では排気ガスを多く出す車が走っているのでは、地球全体で見たときに環境問題を解決しているとは言えません。
こういった状態を改善するためにも、頑張って働こうとする誰しもが自動車ローンを組めるようにすることと新興国で頑張って働いている人が正しく評価される仕組みをつくること、この両輪でこの社会課題を解決していく必要があると考え、2013年11月にGlobal Mobility Service株式会社を起業しました。現在では、日本・フィリピン・カンボジア・インドネシア・韓国で約270名の社員と共に事業を展開しています。
―このような事業を始めようと思うに至った経緯をお聞かせいただけますか。
中島:私はこれまで日本とフィリピンでそれぞれ電気自動車のベンチャー企業を2社経営してきました。フィリピンで2社目の電気自動車ベンチャーを立ち上げ、開発・製造をしたときに、ローンを組めずに車を購入できない方が多くいるという現実を目の当たりにしました。しかし彼らの多くは真面目に働いている方ばかりで、返済能力があることもわかっています。彼らは自動車を購入したいのに、金融機関が過去の履歴に対して審査をして与信が付与されないためローン・リースが組めなかったのです。日本にいるとなかなか気づけない問題ですよね。
貧困や低所得層の人々は世代を超えてその経済環境から抜け出せないという社会的な課題を解決する必要がありました。真面目に働く人が正しく評価される仕組みを作ることができれば、この社会課題の解決につながると気づいたのが事業を立ち上げようと思ったきっかけです。
2つの独自技術を活用した次世代ローン
―具体的なサービス内容をお伺いできますか。
中島:弊社は独自開発のIoTデバイスMCCSと車両のデータを分析するプラットホームMSPFを活用したサービスを提供しています。
MCCSとは、あらゆるモビリティに装着することができ、位置情報や車両データのセンシング(情報収集)、エンジンの遠隔起動制御などを可能にするデバイスです。GPSと加速度センサーなどによって車がどのような挙動で走っているのか、運転が粗いかなどを把握できるようになります。MCCSからセンシングされたデータは、MSPFというプラットフォームに蓄積されていき、金融機関や決済システム、各種FinTechサービスなどのパートナーさまごとに必要なデータと連携し、分析して、ドライバーの働きぶりを可視化し、価値化できるようになっています。
MCCSとMSPFを活用すれば、支払いが滞ったときに車両のエンジンを遠隔で安全に起動制御して、支払いの催促を行うことができます。入金が確認されたら3秒ほどで制御されていない状態に戻すことも可能です。この仕組みによって、信用を補強して、低与信の方でも自動車ローンを組むことを可能にしているのです。
MSPFに蓄積されているデータを確認すれば、
- 朝何時から何時まで走ったか
- 何キロ走ったか
- どんなルートを走っているのか
- どれだけ定期的に仕事をしているか
このような情報から銀行はしっかりと返済をしてくれる人なのか、確認をすることができます。これが新たな信用となり、ローンやリースを組むことができるようになるのです。銀行としても、安心してローンの貸し出しを行うことができます。
―なるほど、MCCSとMSPFの2つを活用したローンサービスなのですね
中島:そうです。私たちのFinTechサービスの対象は車を買いたいけど買うことのできない人に向けたものです。日本では、シングルマザーや新社会人、外国人労働者など信用力がない方が車を買うときや飲食業から配送ドライバーになりたいがローンが組めない方がご利用いただけます。
新興国では、貧困・低所得のドライバーは、富裕層の車両オーナーからデイリーで車をレンタルして、その車を活用して働くことができますが、それによって働いた人に与信がつくわけではありません。頑張りが消費されるだけなのです。
弊社の金融包摂型のFinTechサービスにより、これまで、金融にアクセスできなかった方にアクセスできるようになり、頑張りを可視化することで、真面目に働く人が正しく評価されるようにしたいとの思いが根底にあります。DXにより飛躍的に社会を変えるサービスです。
また、ドライバーの働きぶりをMSPFに蓄積したデータから可視化して、新たな信用を創造することも可能です。
これまでの与信がない方が、自動車ローンを完済するために真面目に働くことにより、さらに教育ローンなどを組めるというステップアップを踏むことができる。これによって、ローンを返そうという意識が高まることが期待できるのです。
例えば、フィリピンではトライシクルという三輪タクシーがあるのですが、30万円で購入して3年間頑張った実績が評価されて、与信が高まると四輪の車を買えるようになります。そうすると、Grabなどのライドシェアのドライバーとして働くことができるようになり、所得の水準が一気に上がります。
このようにドライバーの可処分所得を上げるための手段としての車の提供を通じて、頑張ったドライバーに夢を与えることができます。
これまで自分の車を所有するということがありえなかった貧困層に未来を与えることにつながり、自分たちの子どもを学校に通わせられるようにもなるのです。
貧困層の人が頑張りステップアップし、経済を回すようになることで社会全体の成長の貢献につながっていくと考えています。
―自動車ローンに注目したのにはなにか理由があるのですか。
中島:新興国からすると、自動車とは昔でいうところの馬の役割を果たすものです。日本に住んでいると、自動車というと「余暇を楽しむための道具」として考える方も多いと思います。しかし、新興国では所有していれば就業の機会を得て、収入を得ることができる道具なのです。そういった国では自動車を手にすることが至上の喜びにつながります。労働意欲が上がり、家族ぐるみで応援してもらえるようになる「夢を実現するためのツール」なのです。幸せな将来のための手段を1人でも多くの方に手にしてもらいたいとの思いから、自動車ローンに取り組んでいます。
これから進む道
―今後の課題
中島:前例がない取り組みなので、やはり社会に理解してもらうことが一番大切だと思います。電気自動車の事業をしていたときの話ですが、社会や地球には必要とされている電気自動車でも、推奨したがっている自動車メーカーは当時はほぼありませんでした。これまでの自動車が売れなくなるから電気自動車を普及させると自分たちの仕事がなくなるとの危機感があったのだと思います。
同様に金融包摂型FinTechに取り組んでいく中では、銀行では「これまで何十年と貸さないでやってきたのに、それを崩してしまっていいのか」という話は当然のように出てくると思います。しかし、世界に必要なものはいずれ受け入れてもらえると考えています。
―読者へのメッセージ
中島:2030年までに、世界1億人にファイナンスを提供しようという目標を掲げています。
今はデジタル時代なので、さまざまな国の課題にサービスを提供できると考えています。その時に、私たちだけの力では提供できないものもたくさんありますので、金融機関と協力していくことが不可欠です。
新興国で車がなかなか売れないという課題を抱えている自動車メーカーにもぜひ活用していただきたいです。自動車メーカーに使っていただくことで広く世界の貧困層に対してサービスを提供していくというのが、今後の展望ですね。
そのためにも、日本や世界の様々な企業との連携を推進していければと思っております。
Global Mobility Service株式会社 代表取締役社長
会社URL:https://www.global-mobility-service.com
東京都港区芝大門一丁目12番16号 住友芝大門ビル2号館4F