この記事では「減給を行うときに知っておくべきこと」をご紹介します。
会社で減給を行うときに知っておくべき「法律」を確認したうえで、「社員に減給理由を説明するときのポイント」を確認していきましょう。
人事コンサルタントの内海正人さんが著書『今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方』で解説している内容をもとに編集しています。
労働基準法による減給の上限
「会社の業績が思わしくない・・・」
たとえ業績が悪化しても、社長の一声、会社の一存で社員の給料を下げる訳にはいきません。
社員は会社に雇われていますが、これは雇用契約に基づいてのものです。よって、約束した給料は毎月支払わないといけないのです。
しかし、給料を下げなくてはいけない場合もあります。その場合は、賃金を下げなくてはいけない理由、会社の状況などを社員に説明し、理解を仰いで給料を下げる必要があります。
「このときに一体どのくらい下げていいものなのでしょうか?」
「法律の縛りはあるのでしょうか?」
この質問を多くの社長から質問されます。この話でよく出る言葉は、「給料を下げる場合、下げる金額の限界は10%ですか?」ということです。
減給の限度額は”1回の月給の総額の10分の1”
10%の給料カットはインパクトのある数字です。しかし、労働基準法をはじめ関係する法律を見ても、「給料を下げる場合は10%が限界です」とは書かれていません。
しかし、この10%が関係する法律があります。それは、労働基準法第91条が関係すると思われます。
労働基準法第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
この法律では、制裁のため、給料を減額する上限を設けたものです。そして、その上限が1回の月給の総額の10%を超えてはいけないということなのです。
この法律が根拠となって、「給料を下げるには10%が限界」と言われています。もちろん目安としての10%のラインは考えられます。
給料は生活保障の意味合いがあるので、大きく変動すると社員の生活が安定しません。だから、目安としてこの辺まではと考えていることと、労働基準法第91条が結びついてのラインではないかと考えられます。
中長期的な判断がポイント
しかし、この数字に限らず、給料を下げるのは社員にとっても会社にとっても不幸なことです。
この危機を「どう乗り越えていくか」が次の組織を強くすることになるのです。
現実は現実として受け止めなくてはいけませんが、会社は社員に「希望」を与えないと発展しなくなります。
近視眼的な判断よりも中長期的な判断が必要となります。
「減給の理由」を説明するときのポイント
今までの日本の会社は、毎年給料が上がる「ベースアップ」がありました。よって、社員全員の給料が上がっていきました。さらに、1年に1度の定期昇給も実施されてきました。しかし、現在の経済情勢では、多くの会社の業績が悪化しています。
減給を行うときに社員に伝えるべきこと
2010 年の春闘も「賃金より雇用重視」の姿勢を打ち出し、「一時的な定期昇給の凍結なども 議論の対象となりうるとの認識を示した」となっています。
この動きは、人件費の総額を抑える方向へと動いています。つまり、減少傾向にある総人件費を「全社員でいかに分けるか」という流れになってきたのです。
具体的にはどのようになるのかというと、次のようなことが珍しくなくなってきています。
- 辞められると困る社員には昇給を手厚く
- 平均的な社員には昇給無なし
- 平均以下の社員には減給
つまり、仕事ができない社員の給料は減らしていかないと、会社そのものが成り立っていかない時代となったのです。
社員と正直に話し合う
給料を下げることに必要なことは、「正直な話し合い」の実施です。
そして、次のような話を包み隠さず伝えることが重要です。
- 会社の現在の業績
- 社員の業績に対する結果
- なぜこの給料となったのか
- 「これ以上出せない」という理由
さらに、会社の状況を正確に社員に伝え、理解してもらうことが重要です。
会社のトップが、減給の理由を直接伝える
しかし、多くの社長が「そんなこと社員はわかっている」と話しますが、果たしてそうでしょうか?
社員にとっては「会社の売上」よりも「自分の給料」
社員という立場では、「会社の売上」よりも「自分の給料」と考えます。
冷静に考えれば、「会社が厳しければ、社員の給料も上がらない」と受け止められますが、自分のこととなると感情が先立って、理解まで行きません。頭では理解できていても、いざ自分の身に降りかかる火の粉を追い払うのに必死となります。つまり、感情では許せないのです。
会社のトップが”直接”伝える
ここを会社トップの立場で、きちんと説明しましょう。そして、真摯な態度で臨みましょう。それから、直接伝えることがとても「重要ポイント」となってきます。
コンサルティングの現場で、「給料のカット」や「労働条件の社員に不利になる変更」について、社員に直接説明してくれと依頼されるケースがありますが、私はお断りしています。これは、社員の持つ感情の流れがわかるからです。
外部のブレインがいきなり社員の目の前に出てきて、「来期から給料が下がります」と言っても反感を買うだけです。
それよりも、社長自らが社員の前で「本当のことを伝える」ことに大きな意味があるのです。気持ちを伝え、これからがんばってもらいたい旨を話さないと伝わらないのです。
だから、社長自らの言葉で話してもらいます。そして、「社長が本当のことを話してくれた・・・。それならしょうがない」と感じてもらうのです。外部ブレインはそのための援護をするだけです。
余談ですが、私は、社員説明会の現場には必ず足を運びます。そして、法律の質問や専門的な質問のときに、黒子となって回答を用意したり、時には社長に代わって回答したりします。
しかし、メインはあくまでも社長や経営陣です。この方法で失敗したことはほとんどありません。
業績悪化のときの減給の行い方
さらに、正しい給料の下げ方をみてみましょう。
減給を行うときの4つのポイント
特に業績悪化で、一律5%カットのような場合は、次のポイントを守って実行しましょう。
- 理由なく給料を下げない
→ 理由を開示する - 下げる項目(基本給か役職手当か)を決める
→ 下げる理由により該当する項目で対応する - 十分に説明する
→ 社員全員に説明する機会をつくる - 社員から同意を得る
→ 十分理解して、同意を得る
給料の減額は、労働条件という債権債務の変更にあたります。社員から理解を得ることは必須です。そのためには、きちんとした手順で社員に説明し、理解を求めて進むことが大切です。
社員の感情のケアも重要
また、社員への感情のケアも必要です。ここは、会社の努力と歩みよりで対応すべきところです。「生活の安心」「将来への希望」を伝えることも重要です。そして、そのギャップがこれからの会社、社員の努力でクリアすることも具体的に伝えましょう。
景気が悪く、会社も社員も「現状を守る」事が重要な時代です。会社も社員もお互いに「知恵」を出して乗り切る気持ちが大切です。
さいごに
この記事では、内海正人さんの著書より「減給を行うときに知っておくべきこと」についてご紹介しました。
- 労働基準法で定められた減給の上限は「1回の月給の総額の10分の1」
- 減給の理由は”会社のトップ”が”直接”伝える
- 減給は、きちんとした手順で社員に説明し、理解を求めて進む
- 減給を行うときのポイントは、「理由の開示」「下げる理由により該当する項目(基本給か役職手当か)での対応」「社員全員への説明機会をつくる」「社員の同意」
社員の能力や業績によっては、減給と併せて、「降格」を検討することもあります。「降格人事」を行うときのポイントを、以下の記事で解説しているので、検討している方は是非参考にしてみてください。
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内海正人
日本中央社会保険労務士事務所代表(https://www.roumu55.com/)
人事コンサルタント・特定社会保険労務士。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
Facebook:masato.utsumi1
【参考】内海正人.今すぐ売上・利益を上げる上手な人の採り方・辞めさせ方