「マネージャー職の撤廃」や「全社員が互いに評価し合う評価制度」など、独自の人事評価制度を運用する株式会社ネットプロテクションズ。同社が作った人事評価制度「Natura(ナチュラ)」は、フラットで自律分散型の組織、いわゆる「ティール型組織」を実践する仕組みとして注目されています。
そこで今回は、人事評価制度「Natura」の策定・運用に携わっているネットプロテクションズ執行役員の秋山瞬さんにお話をうかがいました。インタビューを通して、「人事評価制度「Natura」とはどのようなものか」「社内に浸透する人事制度はどのようにして作るのか」などについて教えていただきました。
秋山 瞬
株式会社ネットプロテクションズ 執行役員
自身が中心となって人事評価制度「Natura」の策定・運用に携わる
ネットプロテクションズとは
業界NO.1の実績を誇るコンビニ後払い決済「NP 後払い」を中心とした決済サービスを提供。 ユニクロや楽天をはじめ、多くの企業で導入されている。
ティール組織を実現する人事評価制度「Natura」とは?
― ネットプロテクションズ独自の人事評価制度「Natura」を作ることになったきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは大きく分けて2つあって、1つは「この数年で若手社員の割合が一気に高まったこと」ですね。
今、正社員が130人くらいいるんですけど、新卒1・2・3年目だけで全体の半分くらいを占めてるんですよ。平均年齢も28歳くらいで、すごく若い組織なんです。会社としてはそれだけ成長してるってことですし、いいことなんですけど、若手社員の割合が高くなるとどうしてもミドルマネージャーが不足するんですよね。その結果、一部のメンバーにマネージャー業務が偏っていました。そういう「会社の人口構成上の問題」っていうのが1つありました。
もう1つは「これまでの人事評価制度自体に課題を感じていたこと」ですね。中でも1番課題に感じていたのは「評価のしくみが分かりにくかったこと」です。誰がどのように評価されて、どう給与などに反映されているのかが、いまいち分かりにくかったんですよね。
あと、人事評価制度って、給与とか賞与を決めるところに焦点を当てがちなんですけど、本当にそうなのか?みたいなところも、制度を作りながら考えていました。
マネージャー職を撤廃し、役割をフラット化
― それらの課題を解決する人事評価制度「Natura」とは、どのような制度ですか?
「Natura」の大きな特徴は『役割のフラット化』『評価の主旨を「成長支援」としたこと』『安心でフェアな報酬ポリシー』の3つですね。
1つ目の『役割のフラット化』というのは、マネージャー職を撤廃して「カタリスト」という役割にしたことです。「カタリスト」というのは簡単に言うと「従来のマネージャーから権限・権利をできる限り無くして、流動的に交代できるようにした役割」のことです。
この「カタリスト」という役割を置くことで、マネージャーを廃止してるんですけど、目指している方向性としては、全員にマネージャーになってほしいんですよね。逆説的なんですけど、全員がマネージャーの状態だったら、本来管理する役割としてのマネージャーっていらないと思うんです。全員がマネージャーの状態を目指すことで、一部メンバーへのマネージャー業務の偏りを是正できますし、社員の成長も促せるんじゃないかと思います。
カタリストの概要
評価の主旨を、「報酬の適正配分」から「成長支援」へ
2つ目の特徴は、評価の主旨を「報酬の適正配分」っていう考え方から「成長支援」っていう形に変えていったことですね。そうすることで、競争意識とかを無くしていけるんじゃないかと思っています。競争意識を持って切磋琢磨することで、高め合っていくってやり方もあると思うんですけど、僕らはどちらかというとそうではなくて、心理的安全性があって、お互いに成長支援をしていこうっていう文化・風土を作りたかったんですよね。そういう意味で評価の主旨を「成長支援」っていう考え方に持っていきたかったんです。
どこの会社にも評価面談ってあるじゃないですか、上司と部下が毎月面談するような。それを僕たちは「評価」を目的にするのではなくて「成長支援」を目的にするっていうことを打ち出したかったんですよね。なので、それに合わせて面談の名前をディベロップメント・サポート面談っていう名前に変えたんです。面談のやり方についても、上司部下の1対1でやるんじゃなくて、毎月組み合わせを変えるようにしたんですね。Aさんの面談の相手を1ヶ月目はBさん、2カ月目はCさんにやってもらうような感じで。
ディベロップメント・サポート面談の様子
このやり方って、評価者が2人以上いるって考えると少し気持ち悪いと思うんですよ。Bさんが言ってることとCさんが言っていることが違うって、モヤモヤするじゃないですか。ただ、これを成長支援っていう考え方に置き換えると、Bさんが言っている切り口とCさんが言っている切り口が違うっていうのが、結構プラスに働くと思うんですよね。「ああ、その切り口なかったな」っていう気づきにつながると思うんです。
より安心でフェアな報酬ポリシー
あと、3つ目が「報酬ポリシー」ですね。「より安心でフェアな報酬ポリシー」っていうことで、要は、誰にでもわかるような給与の決め方で、かつ上司が勝手に決めないようなものにしていこうということです。そうすることが社員の「成果」「成長」につながっていくんじゃないかなと思っています。
仕組みとしては、バンドが5段階あって、それによって給与が決まるようになっています。
バンドの概要
各バンド内は定期昇給にしていて、バンドが決まったら、そのレンジの中で定期昇給していくようにしてるんですよ。評価としては、バンドが上がるところだけに注力すればいい感じにしたんですね。
全員分を評価するのってものすごく時間かかっちゃうんで、僕たちが見るのは、バンドの境目だけにしたイメージです。そうすることで、より丁寧に評価ができますし、その人がなぜ上がったのかとか上がらなかったのかっていうのもきちんと理由を説明できるようになると考えています。
― 給与の額がバンド内で一番上まで行ったら、バンドが上がるか上がらないかの評価をするんですか?
そこは、基準を満たしていたら途中でも次のバンドに上がります。バンドの中で一番上まで行ったら、一旦現状維持って感じですね。現状維持でよければ、現状のバンドでいつづけるっていうのもアリですよね。なので、降格降級はない仕組みになってます。
― 下がってしまうことはないんですか?
ないですね。現状維持か上がるか。
これは多分、うちの人口ピラミッドがそういう形だからできることだと思うんですけどね。平均年齢が28才ですし、バンド1、2がまだまだ多いので。これがまた、20年後とかになったら違うでしょうね。
現状のバンドの決め方については、社員どうしが評価し合う「360度評価」というやり方で決めてます。「360度評価」を行うにあたって定義したコンピテンシーをもとに、社員どうしで評価を行います。
コンピテンシー定義一覧
以前は等級が21段階あって昇格基準も明確ではなかったので、「Natura」では等級を5段階にまで絞って評価基準も明確にしました。そうすることが丁寧で明確な評価につながると思っています。
僕らは、最終的には自分で自分の給与を決めるようにできればいいなと思ってるんですよ。ただ、それって適正な評価基準が決まってないとなかなか難しいですよね。なので、まずは一度言語化して整理したっていう感じですね。
評価者目線を育てることで、人を育てる
これをマネージャーだけが評価しますってなると、どうしても評価決定までの過程がブラックボックスになっちゃうんですよね。そうすると、評価者目線が育たないので、人が育たないんですよ。なので、「360度評価」で全メンバーが評価をする側をやったり、面談についても、早いうちから、成長支援面談で支援をする側をやってもらうようにしています。そういう仕組みが人を成長させるんだろうなと思っています。
同時に、マネージャーだけに負荷が偏っていたという課題を是正することもできました。もちろん全員参加で人事評価を行うのはそれなりに工数がかかっちゃうんですけど、誰かに偏っていた状況は改善されていると思います。
― これは、バンド1の人も評価を行うんですか?
そうですね。面談は自分のバンドより上の人にしてもらうんですけど、360度評価はバンドに関わらず全員がつけます。例えば、自分の上司を評価するってなかなか難しいとは思うんですよ。ただ、メンバーの段階からそういう目線も持っていきましょうっていう制度なんですよね。
心理的安全性を作り出して、協調を促進する仕組み
― では、実際に「Natura」を運用してみて、よかったと実感することは何でしょうか?
「役割のフラット化」のところは、非常にうまくいっているんじゃないかと思っています。
よく「マネージャーだった人は大丈夫だったんですか?」とかって言われるんですけど、もともと、そういう文化・風土を作ってきていたっていうのが大きくて。マネージャーだから偉いとか、マネージャーだから権限・責任を持ってるっていう感じにしてなかったんですよ。どちらかというと、メンバーが志をもってチャレンジできる環境を作るのがマネージャーの仕事だよね、というような位置づけにしていたので。
言語化して定義したのは今回が始めてですけど、概念としてはもともとそういうものが浸透していたので、「役割のフラット化」については違和感なく動いたかなと思います。
― その他の仕組みについてはどうですか?
評価の主旨を「成長支援」にシフトしたのも、一定の効果があったかなと思います。
みんなでみんなを評価しあうとか、成長支援しあうっていう仕組みが作れたのは非常によかったところだと思います。評価の場は報酬を決める場ではなくて、みんなの成長を支援していく場なんだっていうのが浸透したのはよかったですね。
心理的安全性を作り出して協調を促進することを目指していたので、そういう状態に近づいていると思います。
さらなるメンバーの成長を促進していく
― では逆に、運用してみて苦労したことはありますか?
「報酬ポリシー」に関しては若干苦労しました。
5段階のバンドを設定しているんですけど、「Natura」の導入にあたって全メンバーのバンドを開示したんですよ。誰がどのバンドにいるのかっていうのを、全員が全員分見られるんですよね。
これって要は、給与を開示しているわけではないんですけど、まぁだいたいの給与は想像がつくじゃないですか。
少し細かく言うと、今まで1000万円もらっていたバンド4くらいの人が、360度評価だとバンド2みたいなこともあり得るんですね。ただ、その人に関してはバンド2と開示されてはいるんですけど、給与を下げはしなかったんですね。なので、メンバーからすると不利益変更にはなっていないんです。
ただ、表向きから見たものは2として見られちゃうんですよ。その辺りで一定の反発はありましたね。
― バンドは今も開示されているんですか?
そうですね。評価目線のすり合わせのためにもバンドの開示は必要だと思っています。ただ、評価方法については調整が必要だと感じています。
― その他、今後運用していくうえでの目標などはありますか?
これまでのマネージャーが「カタリスト」となっている場合が多いので、「カタリスト」となれるような人材の育成は重要だと思います。ただそこも、この制度を運用してメンバーの成長を促していくことで改善していけると思っています。
さいごに
今回は、秋山瞬さんに「ティール組織を実現する人事評価制度「Natura」とはどのようなものか」を教えていただきました。
- 役割のフラット化
→ マネージャー職を撤廃し、流動的役割である「カタリスト」を設置 - 評価の主旨を、「報酬の適正配分」から「成長支援」へとシフト
→ 成長支援を目的とした「ディベロップメント・サポート面談」の実施
- より安心でフェアな報酬ポリシー
→ 全社員のバンドを開示、360度評価による昇格・昇給の決定
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