「ドラえもん」の登場から早半世紀。ロボットが人の生活を豊かにする、という未来予想図は今や一般的なものになってきました。現代でも、人的コスト削減や、生産性向上といった観点からさまざまな分野でロボットは活躍しています。
今回は、「『モノと心を通わせる』を当たり前にする。」を理念に掲げる『ユニロボット株式会社』の代表取締役社長を務める酒井拓氏に、次世代のAIロボット、「ユニボ」と、それを支えるクラウド事業についてのお話をお伺いしました。
「一家に一台ユニボ」の時代がやってくる
―どうして「ロボット」事業を始めようと考えたのでしょうか。
酒井:2014年8月に事業を始めたのですが、当時は「コミュニケーションロボット」という言葉もあまり聞かないような時代でした。
スマートフォンの売り上げが好調だった2000年代から2010年代の中で、「新しいデバイス」が今後求められるのではないか? というマクロ的なトレンドに注目したのがきっかけです。日本人に馴染みの深い「ドラえもん」のような「コミュニケーション型」のロボットが一家に一台置かれる時代がそう遠くない未来に訪れると見込んで事業を開始しました。
この少子高齢化の中で、特に高齢者に向けて「コミュニケーション型」のロボットはバリューがあるだろうと考えていました。2015年の『高齢者白書』にもある通り、8~9割の高齢者が「テレビ、ラジオから情報を得ている」と回答していることから、慣れないスマホやパソコンではなく、ほとんどの情報を「耳」から仕入れていることがわかりました。それがこの先「音声」の時代が来るだろうという予測につながったのです。また“ググる”といった検索には、目的の情報にアクセスするためにスキルが必要になることから、「持ち主をわかってくれるような存在」となるロボットが必要不可欠でしょう。
こういった需要の中で浮かび上がってくるのが、家の中にいて手助けしてくれる「ドラえもん」のようなコミュニケーションができるソーシャルロボットでした。
―やはり「ドラえもん」のイメージが根底にあるのでしょうか。
酒井:そうですね。「モノと心を通わせる」という点において、ある種機械的なだけではない、かわいらしい、愛情のある、人に寄り添うロボットを目指そうという意志が根底にあります。
「ユニボ」はブラウン管やファミコンから着想を得たデザインになります。30センチ、2.5キロといった扱いやすいサイズで「誰にでも使える」「どこにでも置ける」を念頭に作りました。また顔認証や、感情解析システム、5歳児のような声など、「その人」に寄り添うための設計がされているので、「心を通わせる」ことに秀でたロボットであると言えます。
「何でもできる」ロボットは要らない
―現在、「ユニボ」はどのような活躍をしているのですか。
酒井:分野としては大きく分けて4つあります。いずれもパートナー企業と協業して取組みを推進しています。まずは「教育」、主に小学校の算数については全てのカリキュラムを教えることができるため、個別学習塾や学童などで採用されています。特に算数が苦手なお子さん向けには効果が大きいこともあり、今後は小学校や不登校児の施設への導入も視野に実証実験を行っています。次に家庭向けとして「住宅」、マンションや住宅のリモコン操作、ビデオ通話から高齢者向けの見守り、日常生活の話し相手としても使われています。22年度からは、IoT住宅向けにサービス化し、マンション購入時のオプションとして提供を開始していきます。「ヘルスケア」の領域でも、病院や介護施設での利用がありますが、今後は高齢者施設向け、在宅医療や遠隔医療の分野での期待が大きく、実証実験が開始されていきます。最後に、トラックの点呼業務など「運送」の領域でも使われています。特にコロナ禍で、感染に気をつけつつ物流を速やかに行わなければならないご時世なので、重宝されています。
―企業に向けて提供するときにどのような工夫をしていますか。
酒井:サービス化を踏まえた設計をすることですね。実は「何でもできるロボット」は売れないんです。
こちらとしては開発環境をできるだけわかりやすいものにして提供し、ロボットができることを増やすためのシステムを第三者でも自由に開発できるようにしています。例えば、「ホテル向け」「病院向け」など業界に応じたサービスを予めパートナー企業側で開発し、お客様へ提供する際に、初めから入っていることが重要になってきます。基本機能はあくまでもロボットの基本的なサービスのみなので、業界に特化したサービスが入っているわけではありません。そのため、業務プロセスに組み込まれ、効率化に寄与するようなシステムを入れ込んでおくことが法人向けに「ユニボ」を導入する場合に気をつけていることです。
AIが電話を「かける」時代が来る
―「ユニボ」の技術をクラウド事業として展開している、ということですが
酒井:はい、そうです。これまで「ユニボ」で培ってきたクラウド要素技術には「感情解析」「音声認識・音声合成」「自然言語処理」等があるので、それらを一部組み合わせて「AI電話サービス」を開発しています。
IVRのように音声ガイダンスに合わせてボタンを押して分岐させる操作ではなく、AIが初めから終わりまで自然に会話をしていくことが可能になっています。現在、「トレタ予約番」という飲食店向けの予約・顧客台帳サービスに対してunirobot cloud(自動応答AIサービス)の提供を開始し、飲食店業界に導入を進めています。人に近い予約率をはじき出せている為、今後は、他業界での「予約電話」や、コールセンター向けの「1次問合せ」といった分野にも関心が高く、順次導入していく見込みです。
このサービスの強みは「24時間」「365日」メンタルや体力に左右されず、一定のクオリティで対応可能な点です。また、このクラウドサービスでできるのは受電、インバウンド対応だけではありません。アウトバウンド、例えば催促の電話であったりだとか、宣伝の電話であったりだとか、「電話をかける」ことも可能になるのです。コスト削減でき、機会損失がなくなるという点で圧倒的に費用対効果が高いサービスと言えるのではないでしょうか。
―現状で課題はどのようなところにありますか。
酒井:日時や席の予約など、FAQが決まっているものであれば簡単に対応できますが、クレーム対応や、お客様と話し込んでいく複雑なオペレーションに関してはまだ難しいというのが現状です。
また一番の課題は「音声認識」の限界です。あまりに長い話だと文脈を正確に捉えることが難しくなっていきます。例えば、いきなり関係のない天気や政治の話題が挟まったりしたり、「あの」「その」といった指示語が無作為にちりばめられたりすると、対応が止まってしまう場合もあり得ます。
音の聞き取りそのものに関しても、電話などの一対一で音声が聞き取りやすいものですと声も近いので、音声を取り違える可能性などは低くなりますが、あまりに小さい声や方言などは正しく聞き取れるわけではないので、現段階では音声認識にも限界があるというところではあります。
それでも、決まった業務の領域があれば、ある程度のバリエーションがあっても会話のシナリオを柔軟に作成できるので、対応していくことができます。また会話をお客様でも作れる「シナリオエディター」というサービスを提供しているので、変化に対応して、お客様ご自身でシステムを書き換えていくことで「対応力」といった問題は解決していけるのではないかと考えています。
「ロボット」と「クラウド」、2つの柱で社会を豊かに
―「ユニロボット」の今後の展望などお聞かせください。
酒井:SaaS型のビジネスに注力していきたいと考えているので、クラウド事業を伸ばしていくことが第一ですね。AI電話サービスに注力しつつ、培ってきたテクノロジーをさまざまなハードウェアに連携したり、会話エンジンを提供したり、より一層クラウド全体のサービスを向上させていければと考えています。
もちろんロボットサービスもバージョンアップを重ねて、より洗練していくので、「ロボット」と「クラウド」の2本柱で事業としては伸ばしていきたいというのが今後の展望です。
具体的には、協業というスタイルをとり、アジャイルでオリジナルな開発ができることが強みなので、共同特許を取得したり、大手法人様との仕事の中で事業を成長させていくことができます。また「AI会話エンジン」「ロボティクス」「IoT」といったテクノロジーをトレンドに沿って扱っているので、「感情解析」といった技術から、よりパーソナライズされた「心に寄り添う」ロボット、クラウドサービスもパートナー企業と一緒に開発していけたらと思っています。
酒井 拓
ユニロボット株式会社 代表取締役
会社URL:https://www.unirobot.com/
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