この記事では企業のデータ分析に欠かせない「多次元分析」について、データ分析、IT活用を得意とするコンサルタント 平井明夫さんと石飛朋哉さんの共著書『データ分析できない社員はいらない』よりご紹介します。
多次元分析とは?
ここで紹介する多次元分析は、データ分析の手法というよりも、データ分析の結果を検証するための考え方といった方がよいかもしれません。
多次元分析とは、複数の視点(分析軸)からデータを分析することで、「結果の評価」、「原因の探索」、「検証」までを正しく行うための手法です。多次元分析を行なう上では、集約レベルのデータに分析軸を加えて内訳を見たり、他の分析軸に切り替えたり、複数の分析軸を重ねたりといった、柔軟な視点の切り替えが要求されます。(図1)
図1 多次元分析のイメージ
多次元分析のやり方
多次元分析のデータ分析は、次の3つの手順を踏みます。
- 結果を評価する
- 結果に至った要因を探す
- 探した要因に対する検証を行う
1.結果を評価する
結果の評価とは、分析で発見した売上の傾向や重点項目が本当に正しいのかを判定することです。
判定に使う基準値は予算が中心になります。商品別や顧客別といった複数の視点から結果の分析を行い、より精密に売上の傾向や重点項目を探ります。予算が商品別や顧客別にまで設定されていない場合は、過去の結果(特に前年度、前期)と比較し成長率はどうか、市場データと比較しシェアはどうかといった視点で分析します。
予算達成率、成長率、シェアなどの指標を設定しておいて目標値に達したかどうかで判定するのが一般的です。
図2 結果の評価
2.結果に至った要因を探す
評価が終わると、どの部門・担当者の結果が良かった悪かった、どの商品が売れた、売れていなかった、売れるべき顧客に売れていなかったなどの結論が出ます。
その次は、なぜその結論になったのか要因を究明します。
具体的な方法としては、データを掘り下げて、その内訳を見ることです。売上というデータを部門・担当者、顧客、商品という3つの分析軸で見た場合、それぞれの分析軸独自の要因と3つの分析軸の組み合わせ分の要因(担当者と顧客の相性、顧客と商品の相性など)が得られることになります。
例えば、ある担当者の売上結果が悪かったと判定した場合に、担当する顧客の中で、予定より落ち込んだ顧客がないかどうかを知るためには、担当者別顧客別売上という形でデータを見ます。特定の顧客で落ち込みが見つかった場合は、要因の候補として考えられます。
さらに、その顧客に対する売上がどのような商品構成なのかを見るために、商品別という視点を加えると担当者別顧客別商品別売上というデータの見方になり、売るべき商品を売れていないとか、その顧客に対する営業自体に問題があるとか、顧客自体の事情があるのではといった見当をつけられます。
図3 要因の探索
3.探した要因に対する検証を行う
要因とおぼしき候補を見つけた後は、その証拠固めが必要です。視点として、先の仮説は間違いないかどうか、仮説の真因は何か、要因をこれだけと決めていいかどうか、他にも要因の候補がないかどうか、ということです。
仮説が間違いないかどうかの検証は、分析軸を柔軟に入れ替えてデータを眺め直します。例えば、特定の顧客に特定の商品が十分に売れていないことが、その担当者の成績が振るわなかった原因だったと見当をつけたとします。
そこで同一担当者で同一商品の売れ行きが、他の顧客に対してはどうかを見ます。他の顧客でも売れていなければ、この担当者のこの商品に対する売り方の問題、もしくは商品自体の競争力の低下も考えられます。さらに、この担当者の他の商品の売れ行きを見たり、もしくは同一商品の他の担当者の売れ行きを見ることで、担当者の問題か、商品の問題か、はたまた顧客と商品との相性の問題かをはっきりさせます。
仮説の真因を探るためには、分析軸の入れ替えや、集計方法の変更を加え、別の角度から見ることである程度は可能ですが、データ分析のみでは限界があります。データ上で仮説の設定と、ある程度の検証を行なった後は、実際に関係者にヒアリングを行なうなどしてデータでは測りえない原因を探る必要があるでしょう。
他の要因を探るには、同じく分析軸を柔軟に入れ替えてデータを眺める作業を繰り返し行なうことになります。
図4 要因の検証
多次元分析の5つのキーワード
さて、ここまでで多次元分析の考え方はわかりました。しかし、多次元分析を正しく理解する上では、いくつか押さえておくべきキーワードが存在します。
- 次元と階層
- 軸の入れ替えによる動的な集計
- スライス
- ドリルダウン&ドリルアップ
- ドリルスルー
これらのキーワードについて簡単に説明しておきます。
次元と階層
次元とは分析軸を指しています。
データ分析をする前には、適切な分析軸が何であるかを定義しておくことが重要です。必要な分析軸が揃っていないと、それ以上数値を掘り下げることができません。
逆に不必要な分析軸を追加してしまうと、集計に余計な時間がかかってしまったり、操作が必要以上に煩雑になってしまいます。分析したい数値項目(売上、原価、利益、在庫など)毎に過不足の無い分析軸を検討することは、自社のビジネスを理解することに他なりません。
さらに各分析軸には、適切な階層を設定することも押さえておく必要があります。例えば時間軸であれば“年 ⇒ 四半期 ⇒月 ⇒ 日”、組織軸であれば、“事業本部 ⇒ 事業部 ⇒ 部 ⇒課”といったものです。階層を設定するということは、集計の順番を固定化するということになります。ユーザーは特に意識しなくてもこの階層順に掘り下げることになります。階層の順を入れ替えて集計する必要がある場合(担当 ⇒ 顧客、顧客 ⇒担当など)は、それは別の分析軸として定義することになります(図5)。
図5 多次元分析のデータモデル
このように、階層を持った次元とそれらで切り分けて見る数値項目の組み合わせからデータモデルを事前に組み立てることで、多次元分析における柔軟な集計は可能となります。
軸の入れ替えによる動的な集計
多次元分析の象徴的な機能は、複数の分析軸を柔軟に入れ替えることで、さまざまな集計表を作成できる点にあります。2つ以上の分析軸を縦・横に配置して集計することをクロス集計と言い、多次元分析では“奥行”にも分析軸が設定されます。
この軸・数値の組み合わせ、レイアウトの組み立て方(縦・横・奥行への配置)によって、そのパターンは無数にできることになります。
図6 軸の入れ替え
スライシング
集計表を作る際に、奥行を変えることをスライシングと言います。データの塊をある切り口で切り出して集計を見ることから野菜などをスライスすることをイメージしてこのように呼ばれます。
図7 スライス
ドリルダウン&ドリルアップ
ドリルダウンとは集計値を掘り下げて見ることをいいます。
例えば、ある年度の売上が気になったとすると(例年より異常に数値が異なるなど)、それをその年度の四半期単位または月次に分割して見たり、商品軸や顧客軸など分析軸を追加して売上の内訳を見ることです。
データの掘り下げ方には先に述べたように分析軸を追加する方法と、分析軸に設定されている階層を上位から下位へ降りていくという方法の組み合わせで実現します。
ドリルアップはその逆で、分割されている値をまとめていくことを指します。こちらは分析軸の階層を下位から上位へ上がっていくか、分析軸を集計表から外すことで実現できます。
図8 ドリルアップ&ドリルダウン
ドリルスルー
ドリルスルーはドリルダウンと混同しやすいですが、ドリルダウンが掘り下げて下位階層の集計値を見ることに対して、ドリルスルーは集計値の基となった詳細データを一覧表示することを指します。例えば、ある顧客の購買パターンを詳細に見て販売促進の方法を決める場合に、どのような商品を、何日に、いくらずつ売ったのかといった詳細データを見るドリルスルーが役に立ちます。
図9 ドリルスルー
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さいごに
この記事では「多次元分析」について解説しました。
記事の内容について詳しく知りたい方は、『データ分析できない社員はいらない』(平井明夫・石飛朋哉 著)をお読みください。
データ分析できない
社員はいらない
平井明夫
DEC(現、日本HP)、コグノス(現、日本IBM)、日本オラクル、アイエイエフコンサルティングにおいて、一貫してソフトウェア製品の開発、マーケティング、導入コンサルティングを歴任。特にBI (ビジネスインテリジェンス)を得意分野とする。
石飛朋哉
「情報活用を経営力に」を命題にBI の布教活動に勤しむが、”分かりやすいか””伝わるか”と、日々苦悶しながら過ごしている。
【引用】平井明夫・石飛朋哉.データ分析できない社員はいらない