この記事では「企業のブランド価値を高める方法」について、デザイン的な視点を中心に解説します。アートディレクターのウジトモコさんの著書『あらゆる問題解決の糸口になる視覚マーケティング戦略』で解説している内容をもとに編集しています。

ウジトモコ

ウジパブリシティー代表取締役
アートディレクター。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、広告代理店および制作会社にて三菱電機、日清食品、服部セイコーなど大手企業のクリエイティブを担当。1994年 ウジパブリシティー設立。

ブランド価値が高いものほど情報が整理されている

グラフィック(エレメンツ)解析とは

デザインの問題点を探すために現状のデザインをパーツごとにバラバラにして解析する方法で、「グラフィック(エレメンツ)解析」と呼ばれるものがあります。これは、一般的な問題解決の手法としてもよく使われるものです。

商品を客観的に分析する

デザインをできるだけ最小単位のパーツに分解し、構成要素を探ることで商品を客観的に分析できるようになります。

3つのデザインを分解してみる

ここでは

  • プライベートブランド(PB)のアイスコーヒー
  • 缶入りトマトジュース
  • アップルのiPhone5s

という異なる3つの製品を分解して、そのデザインを比較します。

リサーチ結果である下の一覧表を見渡してみると、何かお気づきになりませんか?

グラフィックエレメンツ解析

ブランド価値が高いものほど情報が整理されている

おもしろいことに、ブランド価値が低く商品単価の低いものであればあるほど、ロゴやコピーといった情報が数多くパッケージに施されていて、ブランド価値が高いものほどロゴは最低限の数しか入っておらず、情報はスッキリと整理されています。

1つめのPBのアイスコーヒーと2つめのトマトジュースは「情報を入れたいという気持ち」が「情報を見る人の気持ち」を上まわってしまっています

アイスコーヒーの写真がメインに大きく入っていて、アイスコーヒーや飲料の売場にあるのに、はたして「アイスコーヒー」という文字やロゴはこんなに必要なのでしょうか。

また、トマトジュースも、「リコピン○○グラム」や「トマト100%」など、機能の説明はこれほど必要なのでしょうか。これらはおそらく、過去のデータを分析してマイナーチェンジを繰り返したことによって、必要でない情報の入れすぎを招いてしまっていると考えられます。

冷静さや客観性を取り戻して「対象を見る」

日本国内では、ロゴを入れすぎたり、商品情報を詰め込みすぎたりという場合を多く見かけますが、これはパッケージデザインだけに限りません。ウェブサイトしかり、パンフレットしかり、企業が外に出す情報のいたるところでよく見られる傾向です。

グラフィック(エレメンツ)解析をおこなうことによって、主観的にしか見ることができなくなったデザインに対して、冷静さや客観性を取り戻して「対象を見る」ことができるようになります

商品というのは、どういう立場で消費者とコミュニケーションをとるかによって、その価値観が変わってきます。商品の立ち位置をなるべく有利にしてあげるポジション取りがうまくいくと、競合と正面からぶつからずに勝負することができるようになります

ブランド価値が異なる3つの商品

先ほどのグラフィック(エレメンツ)解析を使ってパッケージデザインをいったん分解すると、商品の立ち位置や背景がわかります。商品の立ち位置は大きく次の3つに分けられます。

  • PBあるいはブランドが弱い商品……価格と品質のバランスと営業力で戦う商品
  • 機能性商品……製造元・販売元でなく、機能や効能で評価される商品
  • ブランド商品……価値が認められている商品

PBやブランドが弱い商品

「PBやブランドが弱い商品」、たとえば、先ほどの1パッケージに6個もロゴが入っていたアイスコーヒーは価格と品質のバランスによって売れていますが、このままではいつまで経っても品質と価格のバランスで勝負しているグループから抜けられず、ブランド品にはなれないでしょう。

機能性商品

「機能性商品」は、製造元やブランド名に関係なく、機能や効能がユーザーの要望に適している、良い性能であるために選ばれている商品になりますが、機能・効能は競合が追随してくる可能性が高く、しだいに価格競争に陥るため、こちらもブランド品のような高価格帯で勝負することはなかなか難しい商品です。

ブランド品

「ブランド品」は、顧客に「こだわりを持って買いたい」「お金を払いたい」と思わせる商品・サービスの立ち位置になります。

スターバックスの市販品アイスコーヒーは「ICED COFFEE」という商品名よりもスターバックスのロゴシンボルの方が明らかに目立つようにデザインされています。これは当然、商品名を押し出すよりもブランド名を打ち出す方が、売り上げにつながるからです。

商品の3つのポジション

商品の3つのポジション

商品力・サービス力はブランド価値で決まる

もし、あなたの商品のパッケージデザインがブランドをきちんと押し出していない場合、「私たちにはブランド力がないので、値段で勝負します」と、最初から負けを認めてしまっている状況とも言えます。

また、「何を最もメインに打ち出しているか」が商品の立ち位置を決めるというシンプルなコミュニケーションの法則は、パッケージデザインだけに該当する話ではありません。会社自身のブランド、つまりマスターブランドにもまったく同じことが言えます。会社案内パンフレットやウェブサイト、または展示会での演出も同じようにバラバラにしてみることで、企業として何をメインに打ち出しているのかが見えてきます。

ブランド力を打ち出したければブランドを打ち出す

商品・サービス力を上げるには、マスターブランドの価値を高めることが不可欠です。

ブランド力を打ち出したければブランドを打ち出す。

もし、あなたの会社が商品・サービス力を高めて価格競争に巻き込まれたくないと思っているなら、マスターブランドの価値を高める戦略を考えましょう。その手始めに、まずはブランドロゴをメインにレイアウトするという方針に転換をはかることを、おすすめします

さいごに

この記事ではウジトモコさんの著書より、「企業のブランド価値を高める方法」について、デザイン的な視点を中心に解説しました。

この記事のポイント
  • グラフィック(エレメンツ)解析を行うことで、商品を客観的に分析できるようになる
  • ブランド価値が高い商品は、情報が整理されている
  • ブランド力を打ち出したい場合、まずはブランドロゴをメインにレイアウトすることでブランドを打ち出していく。

 

 

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