数多くの人がいるような企業では、気を付けているつもりでも、同じ目標に向かって仕事をすることは難しいですよね。そこでこの記事では、内海正人さんが著書『仕事と組織はマニュアルで動かそう』で解説している「組織・チームを動かす力とは?」をご紹介します。

内海正人

人事コンサルタント
総合商社の金融子会社にて法人営業、融資業務、債権回収業務を行う。その後、人事コンサルティング会社を経て、株式会社船井財産コンサルタンツにて人事コンサルタント、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務を行う。平成15年に日本中央会計事務所に合流、日本中央社会保険労務士事務所代表として現在に至る。

「これぐらいはいいや」が命取り

製品の取扱説明書や、ものづくりの作成指示書は誰でも想像がつくと思います。しかし、人を動かす、組織のためのマニュアルとはどんなものでしょうか?

いきなり「この業務やっといて」と言って、何も知らない部下に仕事を任せても仕事は先に進まないでしょう。仕事というのは必ず手順があります。その手順を知らせるものがマニュアルです。

マニュアルは、「指示書」や「フローチャート」として形を変えているものもあります。マニュアルがあることによって、「誰が手がけても一定の品質」が保てるのです。

つまり、マニュアルとは誰でも「スーパーな仕事」ができる教科書であり、仕様書であり、作り方の説明書でもあるのです。

一言に組織のマニュアルといっても、いろいろなものがあります。役員が会社の会議を運営するための規則、従業員の働き方を労働法などに沿って作成した就業のための規則、どの役職がどのぐらいの決め事ができるかなどの稟議の規定など、数を上げたらキリがありません。この決まりごとが多いか少ないかは組織を構成する人数に比例します。

つまり、会社なら社員の数が多ければ規定の数が多いということです。船が大きければ、点検する箇所が多いのと同じです。人が多ければ、人の数だけ決まり事が必要になるのです。

ここで面倒になってはいけません。決まり事の一つや二つ、どうでもいいやと思った瞬間から組織のほころびが浮かび上がってくるのです。

最初は、些細なことと思いがちです。でも、この取り扱い方によって将来の行き先が大きく変わるのです。些細なほころびは、当初は「このぐらいなら、まあいいか」といった感じでしょう。

しかし、「このぐらい」を放置していたら、そのほころびはどんどん広がります。まして、人と人のつながりである組織の中でこのような現象は「甘え」という構造で、内部にはびこります。

人は苦労より、楽をしたい動物です。「甘え」が広がるのは時間がかかりません。この状態で「まずい」と気がつき、何らかの対策が必要と感じる頃は、手遅れの状態であることが多いのです。

業務遂行におけるマニュアルとは、業務をスムーズに指導させる「手順書」です。それも優秀な先輩社員と同じような知識を与えてくれるものです。ここをきちんと抑えて、手早く、クオリティーの高いビジネスを展開するようにしましょう。

社員全員が共通の方向性を持つ

組織には、向かうべき共通の方向性があり、認識があり、コミュニケーションがあります。つまり、目指すゴールがあるのです。このことは会社組織として、トップから現場のスタッフまで、共通認識として目指すゴールを視界に入れていなくてはならないからです。

私のクライアントで、社員数を急激に伸ばした会社があります。5年前からのお付き合いですが、当時は社長以下7人の小さな企業でした。業種はレンタル業を営んでおり、時代の流れに合致した営業を行っていました。業績が大きく伸び始め、社員数も2年で3倍、4年で5倍とどんどん増えていきました。

そんな中、社長とゆっくり話をしたときのことでした。

「社員が10人未満のときは、誰が何をやっているか一目瞭然だったよ。正直言うと今では社員の名前がすぐに出てこないことがあるんだ。それと、前だったら朝礼で、会社の方針、直近の目標を1ヶ月に1回確認すれば済んだことが、今では、毎日毎日、繰り返し、繰り返し口に出して言っても、全然聞き入れない者もいて、参っちゃうよ・・・」

社長は、人数が増えれば増えるほど同じ方向を向いてもらうことの難しさを嘆いていました。

では、この会社ですが、具体的にこの問題をどのように乗り越えたのでしょうか? 決して難しいことではないのです。というのは、社長自ら朝礼で、会社の方針、進むべき方向を話したのです。それも、毎日、毎日・・・。話をしている社長ですら「自分でもいつも同じ話をしているな。飽き飽きしてくる」と話していました。そのぐらい、繰り返し、繰り返し話をしたのです。

この話を私が聞いたときは、社員は30名を超えていました。そして、社長は「毎日、耳にたこができるくらいに話をして、それでようやく全員に伝わった気がします」と教えてくれました。

話の最後に「人に話を伝えることは、とても大変ですね。こちらが思っていたレベルなんて、聞く方は関係ないですからね。〝わかっていないな〟と思ったら、何度でも何度でも根気よく話をすることが、最善の方法ではないでしょうか」と話されていました。

会社が向かう方向を社員に浸透させるのは、とても手間がかかることです。しかし、組織全体がどこに向かっているかがわからないと、緊急事態や急激な環境の変化にスタッフ一人ひとりが対応できなくなるのです。またその反対で、全体の方向性がわかっていれば、自分が何をすればいいのか、自ずとわかってくるのです。

方向性は下に行くほど具体的に

まずは、会社組織が大きな方向性を持ちましょう。さらにその方向性をわかりやすく目標として掲げましょう。そして、全体から部署ごとに目標をサイズダウンさせ、部署に合ったものにするのです。なぜかというと、大きな目標は「抽象的」過ぎるからです。大きな目標のみだと現場レベルでは、何をしていいのかわからなくなるのです。現場の目標は、いわゆる「行動レベル」まで落としこまないと、変化があったときは混乱して機能しなくなるのです。

会社組織の方向性は、会社のミッションとほぼ同じでかまわないでしょう。この方向性は、社長などリーダーの想いを言葉にしたものを掲げましょう。そして、長期、中期計画で向かう方向性を指し示しましょう。それから部門での目標設定を具体的にし、アクションプランまで作り上げましょう。そして、現場レベルでの行動まで標準化するのです。そのきっかけとなる目標設定を手助けするシートが、次ページの「目標設定シート」に掲載されています。このシートを埋めることにより、組織全体の目標設定と部門の目標設定が可能となります。

また、このシートは「木を見て、森を見ず」といった全体の姿を見失うことが無いように作られています。これを活用して方向性を定めた目標を設定してみて下さい。

まとめ マニュアルと共通の目標が組織を動かす

多くの人間が所属する企業では、社員が楽な方へと流れていかないように、多くのマニュアルを作成する必要があります。加えて、社員全員に共通の方向性を浸透させることで、組織は同じ方向へと動き出します。書籍『仕事と組織はマニュアルで動かそう』(内海正人 著)を読んで、マニュアル作成の重要性を、より深く学んでみませんか?

『仕事と組織はマニュアルで動かそう』
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