この記事では雇用契約書に「賃金」について記載するときのポイントについて、社会保険労務士 寺内正樹さんの著書『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』よりご紹介します。
「休暇」に関するルールを明確に定めておくことで、社員とのトラブルを防止し、効率的な経営体制を目指しましょう。
【書籍】『仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!』
【著者】寺内正樹 社会保険労務士 / 行政書士
賃金の支払いに関する法律
賃金の支払いについては、
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月払いの原則
- 一定期日払いの原則
が法律上定められています。すなわち、会社は社員に対して
- 給料を現物ではなく通貨で、
- 代理人ではなく本人に直接、
- 税金、社会保険料などの例外を除いて全額を、
- 毎月1回以上、
- 一定の期日に
支払うのです。
そして、法律で決められている項目に従って、雇用契約書には、基本賃金、諸手当、割増賃金率、賃金締切日・賃金支払日、賃金支払時の控除、昇給・賞与・退職金の有無などをルールとして記載していきます。
残業代の割増賃金率
特に割増賃金率は残業代に関係するため重要です。
法定労働時間を超えるまでは通常の賃金
会社で決める所定労働時間を過ぎれば、いわゆる「残業」になりますが、法定労働時間を超えるまでは、通常の1時間あたりの賃金で足ります。
例えば、所定労働時間が7時間の場合、法定労働時間になるまでの1時間については、割増賃金は不要です。法定労働時間の8時間を超えた時点で、割増賃金の支払いが必要となります。
時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金率
その際に利用する割増賃金率については、時間外労働が25%以上、休日労働が35%以上、深夜労働(午後10時~午前5時)が25%以上と決められています。
雇用契約書に明示する
ほとんどの会社が、この最低限の割増率で設定をしていますが、これも当然だと思わずにルールとして忘れずに明示します。また、午後10時を超えて、時間外労働と深夜労働が重なる場合には、割増率は50%以上にする必要があります。
「固定残業制」を正しく活用する
残業代の対策としては、「固定残業制」と呼ばれるものがよく使われます。これは、月々の給料に、残業代に相当する固定した金額の手当を付けて、それで残業代を支払っているとみなす制度です。
しかし、この「固定残業制」については、非常に誤解が多く、適切な形で導入できていない会社が多いのです。
雇用契約書に記載するときの3つのポイント
導入に際しては、雇用契約書への記載が必要となります。その時のポイントは
① 金額
② 時間
③ 残業代であること
の明記です。「固定残業制を導入しているのですが・・・」という会社の雇用契約書などを拝見することが多々ありますが、これらの条件が一部しか満たせていない会社はかなり多いです。
役所の調査で認めてもらえない可能性が高くなる
先日も、固定残業制を導入しているというIT系の管理会社の雇用契約書を拝見したのですが、「基本給22万円(時間外割増手当を含む)」という記載がされていました。
この記載では①いくらが固定残業代なのか、②その金額が何時間分の残業代に相当するのかということがわかりません。これでは、せっかく雇用契約書を作成しても、役所の調査などでは、固定残業制が導入されていると認めてもらえない可能性が高くなります。
そこで、例えば、「基本給17万円、業務手当5万円(40時間分の時間外割増手当に相当)」という記載に直します。「業務手当」という名称は、あくまでひとつの例であって、「固定残業手当」、「営業手当」など表現は何でも構いません。
ただし、この場合も注意するポイントがいくつかあります。
固定残業代は「その時間に見合ったもの」にする
まずは、固定残業代は、その時間に見合ったものでなければなりません。この例で、1ヶ月平均所定労働時間を170時間とすると、時給は1000円で、その時間外割増手当は1時間で1250円となります。それが40時間分とすると、5万円となります。つまり、40時間分の残業代に当てるのならば、計算をして算出された本来の金額である5万円以上の金額を固定残業代にしなければならないのです。
雇用契約書で定めた時間を超える場合
次に、実際の残業時間が、雇用契約書で定めた時間(この例では40時間)を超えてしまうならば、その残業代は追加で支払わなければなりません。この点も誤解を生じやすいため、雇用契約書に「実際の時間外労働時間が40時間を超えたときは、超えた分に対して別途、時間外割増手当を支給する」というルールとして明記しておく方が安心です
。また、仮に残業時間が定めた時間に達せず、20時間であったとしても、決まった固定残業代を支払うことになります。
社員の同意を書面等でしっかりともらう
そして、入社時に固定残業制を導入するならば問題はありませんが、すでに会社で働いている社員に対して、基本給の内訳を変えて固定残業制を導入する場合は、労働条件を社員の不利益に変更していることになります。
先ほどの例でも基本給だけを見れば、22万円から17万円に下がっていることになります。そのため、その社員の同意を書面等でしっかりともらった上で制度を導入する必要があるので、注意してください。
雇用契約書でしっかりとルールを定めれば、固定残業制は残業代対策として有効な手段のひとつとなります。
さいごに
この記事では寺内正樹さんの著書より、この記事では雇用契約書に「賃金」について記載するときのポイントを、「残業代」を中心に解説しました。
- 残業代の割増率は、雇用契約書に明記する。
- 固定残業制を活用するときは、雇用契約書に「金額」「時間」「残業代であること」を記載する。
- 固定残業代は「その時間に見合ったもの」にする。
- 今いる社員に対して固定残業制を導入するときには、社員の同意を書面等でしっかりともらう。
以下のページでは、「雇用契約書」を会社の成長拡大に役立つものにするためのチェックシートを公開しています。
仕事のあたりまえは、
すべてルールにまとめなさい!
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寺内正樹
シリウス総合法務事務所代表(http://www.kaisha-teikan.com/)
2002年11月より行政書士事務所を開設。2005年10月、社会保険労務士の登録も行い、企業の法務・人事労務をトータルにコンサルティングしている。中小企業の新会社法対応、会社設立には特に力を入れており、従来の業務に加え、個人情報保護法対策・プライバシーマーク取得支援などの新分野にも積極的に取り組んでいる。
Facebook:terauchimasaki
【参考】寺内正樹.仕事のあたりまえはすべてルールにまとめなさい!