東京商工会議所が2021年に行った「IT活用実態調査」では、約5割の中小企業が「ITを活用して社内業務を効率化している」との結果が出ました。コロナの影響により、IT化が進んだ企業は多く見られます。しかし、まだ半分の中小企業がIT化の活用に踏み出せていないのが現状です。早くからIT活用に取り組んできた企業は、「DX化」などさらに進んだ取り組みを手掛けているため、今後さらなる差が開くことが懸念されます。

そこで今回は、「賃貸住宅管理」といういまだにIT化が進んでいない業界に向けて、IT管理ツールを提供しているアトンテック株式会社の代表取締役社長である松浦 宏司氏に、複雑な「賃貸住宅管理」の世界と、それを助けるIT管理ツール「物管クラウド」についてお聞きしました。

トラブル続きの賃貸管理

―御社の事業内容についてお聞かせください。

松浦:我々は「賃貸住宅管理」の分野で物管クラウドを提供しています。管理会社内の情報共有はもちろんのこと、管理側と入居者のコミュニケーションや、その他さまざまなトラブルを未然に防ぐための16年の実績をもとに物管クラウドを開発いたしました。

なぜ「賃貸管理」なのですか?

松浦:私自身が賃貸住宅管理に携わっていたというのが大きいですが、傍から見ても賃貸管理という分野はかなりアナログで問題点の多い業種だったためです。

賃貸住宅管理と聞いて業務イメージを、不動産業界であればともかく一般では想像できる人は少ないのではないでしょうか。賃貸住宅管理は建物の点検管理から新築提案や資産相談、果ては除草手配や騒音対応などの居住クレーム対応まで幅広く煩雑な業務に従事しています。また業界的にも一極集中した大手がなく、スタンダードな管理手法が存在しないため、業務自体がアナログで発生主義的な応対になりがちです。そして、その業務自体が属人化しやすいことが一番の問題点です。

こういった点からIT管理を導入することが最も刺さる業界なのではないかなと感じたのがきっかけですね。

―アナログな状態だと、賃貸住宅管理にはどういったトラブルが起きるのですか?

松浦:必要な作業手配の漏れや連絡不足が多いですね。もともとクレーム産業でもあり、その応対と業務の煩雑さから辞めてしまう方も多いという特徴があります。また、やるべき作業は幅広く多いのに、それを担保する仕掛けや人材が不足しがちで結果としてミスが多くなると思われます。

業務は次々と発生するため、しっかりと進捗が管理できないとミスが連発する負のスパイラルになってしまいます。

業務の共同、IT管理化する「物管クラウド」

―御社の管理ツールではどういった効果が望めるのですか?

松浦:まずは業務全体で何が起きているのかがつかめることですね。建物ごとにオーナーが異なり、入居者が異なり、対応に必要な手配会社が異なるなど、それらをすべて包括して管理できることが強みです。おそらく多くの会社では、今の管理戸数は…とか、いったい何件の未処理案件が溜まっているのか…ということを誰も即答できない状況にあると考えています。物管クラウドを行うことで、業務を会社全体で共有することができます。

またその業務内容を経過や結果とともに記録しておけることも大きいです。入居者からの問い合わせの中には「10年前のあの件なんだけど…」といったものもしばしばあります。しかし、前述の通り、流動が激しい業界なので、10年20年といったスパンでの情報共有はほとんどなされません。そこで、業務内容をストックと共有を続けることで「そういえば10年前のあの件、当時大変だったんですね」といえるならば、業務精度の向上実現のみならずオーナー様や入居者との心情的距離をも縮める効果も生まれるのです。

―会社と外部者の時間感覚のズレは大きな問題ですよね。

松浦:そうですね。でも、オーナー様や入居者からしてみれば「知ってくれているのが当たり前」ということもあります。なぜなら同じ管理会社に頼んでいるので、会社がすべてに対応できる状態が当たり前だと言えるでしょう。だからこそ「個人管理」ではなく「組織管理」にしていこうという動きが必要なのです。

具体的には、ITで全体の情報や業務を把握することが前提ですが、数年単位でオーナー担当や業務担当を変えてみる、という手段もあります。一人の人材が一つの業務しかできないという状況を変えることで、スキルが閉鎖的になることが防げます。また中だるみ防止にもなり、モチベーション管理につながるだけでなく、「個人独占」ではどうしても出てきてしまう不正や怠慢を防止することもできます。実は結構実施が難しいことなのです。

会社にも相手方にも、長期スパンでの安心感を持てる状態にすることができるのが我々のツールを利用する利点ではないでしょうか。

「組織として強い」賃貸住宅管理のゆくえ

御社の今後の展望についてお聞かせください。

松浦:物管クラウドのDXを進めて、より簡単にお使いいただけるようにしていくことが一番ですね。我々のツール提供もまだ始まったばかりですので、ご導入会社が今後更に増えていけばブラッシュアップできる点も多く見えてくるのではないかと思います。最近の変更では定期的な法令点検の予定日を通知する機能が追加され、新人でも確実な点検実施が手配できるようになりました。今後もさまざまな細かい業務まで見える化できる使いやすいツールになるよう邁進していきたいと思っています。

「IT管理」という意味では、他業種にも活用できそうですね。

松浦:もちろんです。以前も金融会社の方に、ツールを開発してくれないかというお声がけを頂きましたね。とはいっても、今の我々が特にイニシアチブが取れているのは賃貸住宅管理の分野なので、まずはそこの業務改善に向けて努力していきたいと考えています。

大きくITで管理と言っても、一つひとつの業界を見ていけばそれ専用の管理ツールというものはまだまだできていないのだと思います。だからこそ、業種全体でどのような課題があって、どうすればそれらが管理できるのかというリサーチが重要なのだと思います。

特に賃貸住宅管理などの業務が幅広く多種多様である業種では、情報を探すのにたった5分手間取ると他の業務が割り込んで、何を探していたのか忘れてしまいかねない…というように「スピード命」な価値観であるので、それを基にしたリマインドや共有をツールにもっと盛り込む必要もあるでしょう。

「IT管理」の今後はどのようになっていくと思いますか?

松浦:我々はまだ賃貸住宅管理のみの立場ですがいかなる業種においても、「TODOが随時勝手に発生して、共有されて検索も集計もできる」といった機能は、個人の能力の良し悪しという域を超えて、「組織として強い」事に大きく寄与するでしょう。それこそスキルや年次にブレのある中小企業にとって、物管クラウドは大きな力を発揮するのではないかなと思います。

またこれはIT管理の更に次の段階の話かもしれませんが、共有し蓄積した知識をもとに、社内で大きな「知恵」に昇華していくという動きが今後求められていくのではないかと考えています。

いくらIT化が進めど、それを用いるのは「人」です。ただ、それが「独り」になってしまわないように、「みんな」で管理していきましょうというのが物管クラウドの想いです。賃貸住宅管理だけでなく、今後さまざまな業界で個人の負担やミスが減っていってほしいと思います。そのためにも物管クラウドをこれからも大きく発展させていこうと考えています。

松浦 宏司(Kouji Matsuura
アトンテック株式会社 代表取締役
会社URL: https://aton.tech/
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