独自の人事評価制度「Natura」の策定・運用に携わっているネットプロテクションズ執行役員の秋山瞬さんに「社内に浸透する人事制度の作り方」について教えていただきました。

秋山瞬

秋山 瞬

株式会社ネットプロテクションズ 執行役員
自身が中心となって人事評価制度「Natura」の策定・運用に携わる

 

人事評価制度「Natura」とは?
  • マネージャー職の撤廃
  • 成長支援を目的とした「ディベロップメント・サポート面談」の実施
  • 全社員のバンドを開示、360度評価による昇格・昇給の決定

など仕組みによって、全メンバーの「成果」「成長」「幸福」の実現を目指す、ネットプロテクションズ独自の人事制度。

この記事は『ティール組織を実現する人事評価制度「Natura」とは?(株式会社ネットプロテクションズ 執行役員 秋山瞬 さんインタビュー 前編)』の後編です。

”社内に浸透する”人事制度の作り方とは?

― 制度として、評価項目などしっかり作りこまれているなと感じるのですが、導入前の作成にはどれくらいの期間がかかったのでしょうか?

構想からだと1年くらいかかりましたね。実際の作りこみは、8~9カ月くらいでやりました。

― これは、どこかの部署が中心となって進めたんですか?

基本的には人事が主導で進めましたね。ただ、できるだけ経営層とか現場のマネージャーとかにも意見をもらうようにしましたね。

作る段階で、いかに経営層やメンバーを巻き込むか

作る段階で難しかったことはありましたか?

そうですね。人事評価制度って「給与」とか「評価の基準」とか「階級」とかって要素を連動させなきゃいけないんで、ちょっと変わると全部変わるみたいな感じなんですよね。ウォーターホール的に「階級制度」を決めて「評価基準」を決めて「給与」に落としていくみたいな感じにやりがちなんですけど、うちの場合はそれぞれを行ったり来たりしながら作ったんですよ。その辺は結構苦労しましたね。

メンバーも巻き込みながら、経営層も巻き込みながら、意見をもらって作っていったんで、出戻りが起こったりとかもありました。それぞれの目線で、色んな意見があるものなので。

ただ、人事が独断で作ったものをやってくださいみたいなのは、なかなか社内に浸透しにくいと思うんですよね。やっぱり運用が肝だと思うので、いかにメンバーとか経営層が当事者として運用してもらえるかが課題だと思うんです。なので、そこは結構ぶつけに行って、その度に持って帰って改善してっていうのは、何回も繰り返しました。その辺は苦労したところですかね。

ただ、制度を構築する段階で苦労した分、制度のコンセプトが浸透していましたし、メンバーも一緒になって改善していこうみたいな意識になっていたので、運用が始まってからは比較的スムーズに進んでいるように感じます。逆に言うと、苦労してでも構築する段階でメンバーを巻き込でいったほうがいいと思ってます。

― 作る段階で、メンバーや経営層を巻き込んでいくんですね。

そうですね。やっぱり、人事とそれ以外のメンバーでは、知識だったり考えている時間も違いますからね。人事は、ずっとこれについて考えているから、色んな知識もついているんですけど、いきなりそれをメンバーに持っていっても、よくわからないと思うんですよ。なので、いかにメンバーを巻き込んでいくかっていうのは、考えながら作っていきました。

「つぎのアタリマエをつくる」

「Natura」という名前には何か由来があるんですか?

「Natura」という名前は、英単語の「nature」の語源であるラテン語からつけました。「自然体」「あるがまま」とか「当たり前」「当然」みたいな意味合いを込めています。

評価制度に名前を付けているっていうのもあんまりないと思うんですけど、僕らとしては思いを込めて作ったので、あえて名前を付けて世の中に発信していきたいと思っています。

― 名前を付けて世に発信するのには、何か意図があるんですか?

ネットプロテクションズでは「つぎのアタリマエをつくる」というのをミッションにしているので、「そういう状態が当たり前だよね」という評価制度を作りたいと思っていたんですよ。

僕たちだけの特別でありたいというのではなくて、僕たちがやってよかったものを世の中に発信して、それが社会に浸透して、次の当たり前になるっていう。そういうところまでもっていくのが僕たちのミッションなので。だからこそ、この「Natura」という形で出して、そこで得られた良かったことや悪かったことをオープンにしていって「つぎのアタリマエ」まで持っていきたいですね。

仕組みや制度から風土を変えていくのは難しい

― すごくしっかり作らているので、同様の制度を導入したいという企業も出てきそうですね。

そうですね。ただ、人事制度って、100社あったら100通り作れるようなものなので、他の企業が「Natura」をそのまま導入するのは難しいと思うんですよね。

会社によって課題観も違えば、技術も違うし、事業のフェーズも違うじゃないですか。「うちがこうでした」というのは言えるんですけど、これが他の会社でもできるかというとなかなか難しいと思うんですよ。

― そうなんですね。では、「Natura」と同じような人事評価制度を導入したいと考えている企業は、どのような手順で人事制度を見直すのがいいと思いますか?

実際「うちもそういう組織になりたいです。どうしたらいいですか?」というのはよく聞かれれるんですけど、そういう場合は「仕組みや制度から入るのはおすすめしません」と回答してます。

僕たちとしては、2013年に作った理念が軸としてあって、そのうえで風土を作っていったんですよね。マネージャーはメンバーの志をサポートする役割なんだよ、みたいなのが浸透するようにしていったんです。具体的には、まずはメンバーが主体的に活動できるような細かい制度をリリースすることからやりました。その辺が整ってきた段階で、人事制度の構築に至ったっていう感じなんです。

軸となる理念があったうえで、風土を整えてから、仕組み・制度に落とさないといけないと思うんです。制度だけで風土を変えようと思ってもなかなか変わらないんですよ。だから、この辺は順番を間違ってしまわないように気を付けるべきだと思います。

― 制度だけに惹かれて導入しようとしても難しいんですね。

そうですね。もちろん、会社によっていろいろあるとは思うんですけど、いきなり評価制度というよりは、少しずつ情報をオープンにする仕組みだったりとか、メンバーの自主性を促してく制度だったりとかから作っていくのがいいと思います。

評価制度って、給与とか、賞与とか、結構ダイレクトに影響が出るところなので、不可逆性が高いんですよね。一旦リリースするとなかなか元には戻せない、要は失敗できないんですよ。なので、まずは軸を作るのが重要だと思います。

すでに軸がある会社は、なりたい風土を促進するような小さい制度をやっていって、その辺がうまく回ってきたタイミングで評価制度の見直しに移るのがいいんじゃないでしょうか。僕ら自身、理念を作ってから評価制度を導入するまでに5年くらいかかってますしね。

制度や仕組みの前に”軸”を持つ

― ネットプロテクションズさんでは、どのような軸や、制度を作られたんですか?

2013年くらいに「経営理念を全社員で作ろう」みたいなのをプロジェクトとしてやったんですよ。そのプロジェクトを通して「つぎのアタリマエをつくる」というミッションだったり、7つのビジョン、5つのバリューなどを作りました。

ネットプロテクションズのミッション・ビジョン・バリュー

その後、それに基づいた制度をいくつか導入していきました。

うちの制度は、基本的には性善説でいましょうというのがコンセプトなんです。事業としてやっている「後払い」もそうなんですよね。一旦利用者の人を信用して支払いを立替えるようなサービスなので。

事業でもそうやっているように、組織の作り方も、そういう風にしていきたいと思っています。なので、ルールでガチガチにしばるというよりは、基本的に情報はオープンにしますし、みんながやりたいことをやれる環境にするところを大事にしています。

制度としては、たとえば「ビジョンシート」っていうのをやっていて、半期に1回、異動希望調査みたいなものをとっているんですよ。個人個人がこの会社にいることを前提ではなく、何をしたいのかっていうのをシートに記入してもらって、それを全社に公開しています。たとえば「将来自分で起業したいと思っているから、今は営業部にいるけど、マーケティングにもチャレンジしたい」みたいなのも全部オープンになってます。

あと、「ワーキンググループ」というのもやっていて、自分の持っている100%のリソースのうち20%を使って「会社作り」などに携われるようにしています。「新卒採用」とか「予算策定」とかに自分で手を上げてチャレンジできますし、まだ社内にないグループを作ることもできます。

これも、2013年くらいからですか?

そうですね。この辺も2013年くらいからやっています。こういう理念や小さな制度が色々と重なり合って、風土が作られていった中で、2018年に「Natura」を導入したっていう感じなんです。

― そもそも2013年くらいに、全員で理念を作ろうとなったきっかけは何かあるんですか?

当時は正社員が50人くらいの時で、社長一人で全社員を見ていくのが難しくなってきたタイミングだったんですよね。要は、ちょうど権限委譲しようとしてたタイミングだったんです。その時に「じゃあ権限委譲しよう」って言ってすぐにできるものではないですよね。

委譲された人が、何を軸に判断したらいいのかが必要になってくるので、その軸を作ろうとなったんです。

強い組織作りのポイントは組織の成長とともに変わっていく

― 秋山さん自身、今回の「Natura」の導入を含め、社員数が数十人のときから会社を見てきて、成長する組織に必要なものとは何だと思いますか?

成長していく過程で、組織にはいくつかのフェーズがあると思うんですけど、それぞれのフェーズごとに強い組織作りのポイントって変わると思っています。そのポイントをおさえることが、組織の成長には重要だと思います。

これは持論なので、僕個人の意見なんですけど、「1~5人」「5~10人」「10~30人」「30~50人」というように、「1、3、5」のタイミングで組織には壁が来ると思っていて、その時ごとに、強い組織のポイントがあると思ってます。

だいたい30~50人くらいが、ビジョン作りが必要になるフェーズだと思います。例えば「権限委譲をしていかないといけないよね」とか「ミドルのマネージャーを補強しないといけないよね」というタイミングになるので、軸となるような理念とかが必要になると思います。

50~100人くらいになると、組織の階層化が進んでくるので、ここになって初めて制度とか仕組みって話になると思うんですよね。それまでは、人の力でなんとかなっちゃうと思うんですよ。

さらにこの先、100~150人とかになってくると、顔と名前も一致しなくなってきますよね。そうすると、個々の関係性みたいな、制度とかではなくて、一人ひとりの関係性みたいなものが必要になってくると思います。

そんな感じで、組織作りのポイントは「制度や仕組み」と「個々の関係性」を行ったり来たりするようなイメージを持ってますね。要は、「制度や仕組み」と「個々の関係性」が両輪になっているんだと思うんですけど、フェーズごとにポイントをおさえて組織作りをしていくべきなのかなと思います。

さいごに

今回は、秋山瞬さんに「社内に浸透する人事制度の作り方」について教えていただきました。

この記事のポイント
  • 作る段階で、いかに経営層やメンバーを巻き込めるかで、運用の難易度が大きく変わる。
  • 仕組みや制度から風土を変えるのは難しい。
  • 人事評価制度は給与や賞与などに関わるため、変更するときのリスクが高い。
  • 制度を変える前の、理念や風土作りが重要。
  • 強い組織作りのポイントは組織の成長とともに変わっていく。

 

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