棚卸資産回転率とは?

棚卸資産回転率は、在庫(棚卸資産)を使ってどれくらいの出荷が行えたかを示す値です。計算式で表すと次のようになります。

棚卸資産回転率 =(出荷した在庫の売上原価の合計)÷(棚卸資産)

棚卸資産回転率の計算例

仮に在庫が1万円分あって、仕入れと販売を繰り返しながら1年間に10万円分が出荷され、1年後の在庫も1万円分であった場合、

10万円 ÷ 1万円 = 10

という計算から10回転したということが分かります。この場合における「10回転した」というときの10という値が棚卸資産回転率です。

棚卸資産回転率が大きすぎる場合は在庫不足の懸念があるので基準在庫数を増やし、小さすぎる場合はデッドストックの恐れがあるので基準在庫数を減らすなどの対策を行えます。

棚卸資産とは
棚卸資産とは、一般的な言葉にすると「在庫」のことです。在庫には仕入れた商品のほか、製造した製品や原材料、仕掛品、製造中の半製品なども含みます。それ以外に、副産物や作業工程で生まれた作業くずも、資産価値がある場合には在庫に含まれますし、販売活動で使われる消耗品や、製造工程で使われる工具のうち短期間に消耗してしまうような物も在庫に含まれます。会計的には貸借対照表の借方項目にある資産の部の流動資産に含まれるものです。ここでは主に商品・製品について見ていきます。

棚卸資産回転率を計算するときのポイント

棚卸資産回転率を計算するときの在庫は、当期と前期末の平均を使うのが普通です。

また、売上高ではなく“売上原価”を使って計算します。なぜなら、売上高の金額には利益や付加価値分が上乗せされているため、正しい分析ができなくなってしまうからです。ただし、売上原価で計算した場合でも金額には余計な要素が入り込む余地があるということには注意が必要です。

一般的には1年という期間の中で見ることが多いのですが、きめ細かに分析する場合はもう少し期間をとることもあります。経営者が見る数値には決算内容を使うため、1年・半期・四半期という期間が多くなるでしょう。

在庫数量で計算する場合

ここまで、金額を使った棚卸資産回転率の計算方法について解説してきましたが、棚卸資産回転率は在庫数量を使って計算する場合もあります。

前述の通り、金額を使って棚卸資産回転率を計算する場合には数カ月から1年程度の期間をとって計算する必要がありますが、現実に在庫状態を改善していくためには、毎月の分析も欠かせません。そのような場合には、在庫数量で計算した棚卸資産回転率を確認するのが効果的です。

在庫数量で計算する場合の棚卸資産回転率の式は以下のようになります。

棚卸資産回転率 =(出荷数)÷(在庫数)

在庫数量で計算する場合の計算例

例えば、商品の在庫が50個あって、仕入れと販売を繰り返しながら1カ月後に1,000個が出荷され、1カ月後の在庫も50個であった場合、

1,000個 ÷ 50個 = 20

で在庫回転率は20となります。

棚卸資産回転率は在庫管理の現場だけでなく、財務状況を管理する部門でも精査されるべき数値です。しかし、いわゆる「帳面」だけを見ていたのでは、金額ベースの棚卸資産回転率しか見えてきません。商品によっては季節変動などが数値に大きな影響を与えることもありますので、毎月の数値のチェックは欠かせないでしょう。

棚卸資産回転期間とは
同じような目的で使われる数値に棚卸資産回転期間というものがあります。これは棚卸資産が1回転するのに何日あるいは何か月かかっているのかを見る数値です。日数で見る場合、[365日÷1年間の棚卸資産回転率]が棚卸資産回転期間(日)に、[12月÷1年間の棚卸資産回転率]が棚卸資産回転期間(月)になります。これが長すぎると資金管理を圧迫し商品の陳腐化を招くリスクがありますし、短すぎると欠品を招くなどして販売機会を失ってしまうリスクが発生します。

棚卸資産回転率の目安

棚卸資産回転率は業界ごとに大きく異なります。それは製造に必要な期間やその企業の社会的責任という部分にも影響されます。一例を見てみましょう、2016年度の全産業平均値は13.5回ですが、製造業は9.5回、非製造業は16.0回になっています。製造業は材料を仕入れてから仕掛品・半製品となり、処理する前の作業くずまで、商品以外での棚卸資産が多くなるのでやむを得ないと言えるでしょう。

業界ごとの平均と例外的な事例

具体的な業界平均についてまとめてみます。

業界ごとの棚卸資産回転率

鉄鋼 5.5
繊維 5.9
化学 6.9
金属製品 10.4
電気機械 10.9
食料品 11.5
建設業 11.5
小売業 13.8
自動車 23.5

参考:棚卸資産回転率(回転期間)とは|経営分析のススメ

業界ごとの目安と自社の数値との乖離については真剣に検討する必要があります。しかし、同様に注意しておくべきなのが供給責任です。販売先から要求されている供給量については、ある程度の不測の事態に備えられるだけの在庫を持つ必要もあるでしょう。

また、倉庫の中だけが在庫場所ではありません。例えばヨーロッパからの船便でコンテナ輸入を行うような商品であれば、船の上も立派な保管場所になります。仮に45日かかる航路であれば、15日に1便出航させれば4便目が出る時には最初の便が入港します。このように海の上を在庫場所に使うことも一般的でしょう。

あとは会計処理で支払いタイミングをどのように設定するかの問題だけになります。

棚卸資産回転率の見るべきポイント

棚卸資産回転率は適正であることがベストですが、上記のように適正であるかどうかは業界によっても異なりますし、季節性や周辺状況の影響も考えられますから、その適正数値の決定には経営にかかわる人の正しい判断が求められます。

棚卸資産回転率が目標数値より高い場合には、在庫が少なすぎるということになるので、大量の出荷が必要になった場合に欠品を起こしてしまう可能性があります。逆に棚卸資産回転率が目標数値より低い場合には、在庫過剰になっているということです。単純に売れ残っていると判断しても良いのですが、モデルチェンジなどが伴う場合、そのまま不良在庫になってしまう可能性もあります。

このような状況を可能な限り在庫の現場に近いところで把握することで、リアルタイムに在庫数がコントロールできます。

最適な棚卸資産回転率が設定されていれば、実際の数値がそれから外れた際にその回転率になるよう調整すれば良いのです。

棚卸資産回転率を改善する方法

棚卸資産回転率は、高すぎる場合にも低すぎる場合にも対策が必要です。ここからは、高すぎる場合と低すぎる場合、それぞれの改善方法を解説します。

棚卸資産回転率が高すぎる場合

非製造業において高すぎる場合、商品の欠品の恐れがあるので基準在庫数の設定を多くする必要があります。

一方、製造業の場合もう少し複雑で、出荷可能製品で高すぎる場合は生産数を増やさなくてはなりません。それができない場合販売先との調整が不可欠です。製品レベルでは適正なのに半製品で高すぎる場合、工程の組み方に問題があるのでしょう。後工程に悪影響を出さないよう前工程に余裕を持たせる人員配置などが必要です。原材料レベルで高すぎる場合には、仕入れを増やすようにするべきでしょう。

棚卸資産回転率が低すぎる場合

回転率が低すぎる場合、非製造業では仕入れの調整で在庫を減らすことになりますが、モデルチェンジなどで他の商品に人気が移っていることが明らかな場合は、在庫を売り切ってしまう工夫が必要かもしれません。

製造業の製品レベルでも同じことが言えますが、半製品レベルのものが他の製品に振り向けられる場合などにはその調整も大切です。原材料レベルで回転率が低すぎる場合には仕入れを調整すると同時に、他の用途への転用などを検討することになるでしょう。

改善のポイントは「棚卸資産の分類」

先にお話ししたように、特に製造業においては棚卸資産の中身が重要になるので、まとめて分析するのではなく分類して分析する必要があります。出荷可能な状態になっている製品、すなわち商品については非製造業と共通の物ですが、製造業において在庫の調整は仕入を止めれば良いというわけではないので、より緻密なコントロールが求められます。

製造業特有の物としては製造途中の仕掛品や半製品がありますし、さらには製造に取り掛かる前の原材料や貯蔵品も棚卸資産です。これらを区分して在庫の分析をすることがとても重要です。

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