この記事では「自動車会社のキャッチコピー」について、書籍『誰かに教えたくなる世界一流企業のキャッチフレーズ』よりご紹介します。

【書籍】『誰かに教えたくなる世界一流企業のキャッチフレーズ
【著者】
Lionel Salem/森田正康/月谷真紀

メルセデス・ベンツ
Mercedes-Benz

メルセデス・ベンツはダイムラーAGの一事業部で、現存する最も古い自動車メーカーである。その歴史は 1886年、カール・ベンツがガソリンを動力とする最初の自動車を開発した年にさかのぼる。本社はシュツットガルト。トラックとバスも製造している。メルセデス・ベンツの乗用車部門のトップはディーター・ツェッチェで、ダイムラーのCEOも兼任している。ダイムラーの会長はマンフレッド・ビショフ。長年、乗用車市場の最高級かつ高価格帯の車種を専門に手がけてきたメルセデス・ベンツは、2 座席の小型モデル「スマート」でも成功を収めてきた。メルセデスはギリシャ神話やローマ神話の女神ではなく、アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』に登場するヒロインの名である。女性にちなんで名づけられた自動車ブランドなのだ。

メルセデスは1997年から「Falling in love again(ふたたび、恋をする)」を使用していた。有名な「Unlike any other(比類なきクルマ)」は 2002年3月にマークレー・ニューマン・ハーティ&パートナーズ・ニューヨークによって発表された。このキャッチフレーズは多数のコマーシャルで使われている。その 1本が 32秒の「衝突実験」( 2007年)。GクラスのSUVが運転席にダミー人形を乗せて実験室を出発する。壁に激突すると、車は壁を突き抜けて隣の部屋も突き抜け、外に出てしまう。「おい! 何やってんだ!」という叫び声が聞こえ……最後はもちろん、メルセデスのキャッチフレーズが登場する。

フェラーリ
Ferrari

フェラーリは 1929年にエンツォ・フェラーリによって創業され、1940年代初め以降からモデナ県のマラネッロを本拠地としている。マラネッロにはフェラーリの本社、製造工場、フェラーリ博物館がある。フェラーリのいくつかの車種はマラネッロにちなんで名づけられた。フェラーリはレーシングカーで有名だが、レーシングカーの製造が始まったのは一般車種よりはるかに早い。

フェラーリのロゴは有名な黒い跳ね馬で、黄色い背景(黄色はエンツォ・フェラーリの出身地モデナの色)の上にはイタリア国旗の色をした水平線が 3本入っている。

フェラーリにキャッチフレーズはあるのだろうか。まず「Approved(アプルーブド)」という言葉が一部の広告に使われているが、これはキャッチフレーズではなくフェラーリ認定中古車を表す。では有名な「Beyond Perfection(完璧を超える)」はどうか。このキャッチフレーズを使っているのは実は、フェラーリとタイアップした世界第 3位のノートパソコンメーカー、エイサーである。エイサーのモバイルパソコンのいくつかの機種が、天板にフェラーリの黄色い馬のロゴをあしらっているのだ。エイサーのコピーによれば「新作『Ferrari One(フェラーリ・ワン)』ノートパソコンは天板を社名入りのレーシングレッドに塗装し、第1回レースから F1 を支配してきた誇り高きスクデット・フェラーリ(フェラーリの盾型のエンブレム)をつけています」。しかしこのキャッチフレーズはエイサーのキャッチフレーズで、2009年8月にサークルライン・コミュニケーションズが考案したもの。フェラーリ自身は、自社に自信があるためキャッチフレーズは不要という考えで、キャッチフレーズを持っていない。ただし広告には「Passion(情熱)」という言葉が頻繁に登場する。

BMW
BMW

BMWはBayerische Motoren Werke AG(バイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケ・アーゲー)のイニシャルをとった略称。

1916年に設立され、本社はミュンヘンにある。1928年から自動車を、1923年からオートバイを製造している。また、1998年から 1999年にかけてロールスロイスの自動車製造部門を買収した。

「The ultimate driving machine(究極のドライビングマシン)」は 1975年以来BMWのキャッチフレーズとして使用されている。ニューヨークに広告代理店を設立したばかりのラルフ・アミラーティとマーティン・ピュリスによって制作された。すでにフィアットの広告で成功を収めていた広告代理店である。BMWの営業部門のエグゼクティブ・バイスプレジデントを 3年務め役員でもあった(1972年~1974年)ボブ・ラッツの英断でこの代理店が選ばれたらしい。1993年2月11日からマレン・アドバタイジングがアミラーティ・アンド・ピュリスに代わりBMWを担当するようになったが、従来のキャッチフレーズは引き継がれて同社の成功に大きく寄与し続けている。このキャッチフレーズが変更されるという噂は時おり持ち上がる。例えば 2006年には「A company of ideas(アイデアにあふれた会社)」に変わるという話が出たが、マーケティングの専門家ジョーイ・バブズがBMWブログの 2009年11月4日付の記事で指摘したように、「BMWを走らせると、BMWが単なる移動手段を超えた自動車を作っている会社なのだ、という事実を否定できなくなる。BMWの車の背後にはスピリットがある。ドライバーのための車であり、楽しむために創られているのだ」。BMW5シリーズのオンライン広告は、楕円形をした数百個のあぶくが空間を無限にただようという面白いもの。「イノベーション……テクノロジー……デザイン……(そしてドイツ語に変わって)Verantwortung (責任)……Kompetenz (能力)……Mobilität (機動力)……」という言葉が背景にゆっくりと現れては消える。そして視聴者が飽きてきたちょうどそのとき、あぶくが集合して……車の輪郭になる!

ジャガー
Jaguar

多くの有名企業がそうだが、ジャガーも当初はその名をはせることになる自動車ではなく、自動車にかろうじて少しだけ関係がある製品を作っていた。1922年にウィリアム・ライオンズ卿がオートバイのサイドカーを製造するスワロー・サイドカー・カンパニーを設立したのがその始まりだ。1945年4月9日に社名をジャガー・カーズ・リミテッドに変更。ジャガーはスピードと耐久力を連想させる動物だから、キャッチフレーズにまさる優れたブランド名である。

1989年11月から2008年6月までフォード・モーターの傘下にあったが、現在はインドのムンバイに本社があるタタ・モーターズの所有となっている。ジャガーの本社はコヴェントリー。高級車デイムラー・ブランド、ローバー、ランチェスターを所有している。

ジャガーは多数の広告代理店とつきあってきた。2001年秋にJ・ウォルター・トンプソンからヤング& ルビカムに変更。2005年にヤング& ルビカムからユーロRSCGワールドワイドとなり、キャッチフレーズ「Gorgeous(ゴージャス)」を制作したが、2007年末に契約解消。最近では 2011年2月から、ロサンゼルス近郊の広告代理店でジャガーも共同所有しているスパーク 44 が担当している。最も有名なキャッチフレーズは「Don’t dream it. Drive it( 憧れるな。乗ってみろ)」(最も古い)、「The art ofperformance(芸術的な走り)」(2003年前半まで使用)、「Bornto perform( 走るために生まれてきた)」(2004年発表)。

「Gorgeous(ゴージャス)」キャッチフレーズのために制作されたテレビコマーシャルでは、「ゴージャス、ゴージャスはすぐに注目される、ゴージャスは努力を努力に見せない……(中略)ゴージャスはなりたくても平凡にはなれない……(中略)ゴージャスは他人が何をしていようとまったく意に介さない……(中略)ゴージャスはすべてにまさる、ゴージャスにはそれだけの価値がある」というナレーションとともにさまざまな短い場面が流れる。抱き合うカップル、すると女性の方が男性をプールに突き落とすのだ!

ボルボ
Volvo

ジャガーが現在はインド企業の傘下にあるように、ボルボは現在は浙江省杭州に本社のある中国企業、ジーリーホールディンググループ( 浙江吉利控股集団、Zheijiang Geely Group Holding Co.Ltd.)の傘下に入っている。同ホールディンググループには4つのブランド(帝豪汽車 Emgrand、英倫汽車 Englon、全球鷹汽車 Gleagle、吉利汽車 Geely)を有する中国の主要自動車メーカーも所属している。本社は今もスウェーデンのイェーテボリにある。ボルボの誕生は 1927年、最初のボルボ ÖV 4 が生産されたときにさかのぼる。創業者はアッサル・ガブリエルソンとグスタフ・ラーソン。ボルボの評判と広告は長年その信頼性、そして言うまでもなく北欧の寒冷な気候への耐久力を中心に成り立ってきた。しかし、顧客が頑丈さには劣っても軽くて派手な車を好むヨーロッパで、ボルボの「頑丈さ」はマイナスイメージになっていった。ボルボの広告代理店「チーム・ボルボ」は現在、アヴァスとユーロ RSCG 出身者の混成チーム。アムステルダムにあり、2010年からジョリアン・マレイが率いている。

有名なキャッチフレーズ「For life(命のために)」は 1999年にスウェーデンの広告代理店フォースマン& ボーデンフォースと、1990年からボルボを担当してきたアメリカの広告代理店メスナー・ヴェテレによって制作された。ボルボの最近のテレビコマーシャルは、車のスピードとブレーキ性能に焦点を当てている。アストル・ピアソラの「リベルタンゴ」をBGMにボルボ S60 を宣伝するこのコマーシャルでは、高速で走るボルボが水の入ったグラスをよけるためにブレーキをかける。車がターンしたときにようやくグラスは倒れる。もう1 本の2011年の最近のコマーシャルには「セクシーな自動車のコマーシャルの作り方」というタイトルがついており、4部構成になっている。

  1. 「セクシーな自動車を見せる」(ボルボ V60 が映る)
  2. 「ビジュアルメタファーを盛り込む」(黒豹の顔が映し出される。ジャガーだったら間違いだ!)
  3. 「全身を濡らして湯気を立たせる」(みぞれ雨に打たれて濡れたボルボが映る。最初はかなりびっくりするが納得する)
  4. 「最後にそれとわからないようさりげなく商品のデモンストレーションをする」(豹がボルボのトランクに飛び乗る)。

すばらしい音楽はマリウス・リピダル。3 本目のコマーシャルでは S60 R-Design の宣伝になんとタロットカードを使っている。

ボルボは最近、新しいキャッチフレーズを出してきた。「There’s more to life than sexy cars(人生はセクシーな車だけじゃない)」(と自社の車への批判に見せかけて)、少し小さめの太字で「No, wait a second – there isn’t(いや、ちょっと待って―やっぱりそれに尽きる)」と書かれている。

トヨタ
Toyota

トヨタは1937年に豊田喜一郎により創業され、年間700万台以上を生産し売上世界最大の自動車メーカーになった。愛知県豊田市に本社がある。創業者の子孫にあたる豊田章男氏が2009年からトヨタ自動車の社長を務めている。トヨタのロゴは大きな楕円の中に小さな2つの楕円が入っているという構成で、それぞれの楕円が顧客と製品と技術の進歩を象徴している。「T」という文字にもどことなく似ている(1989年)。トヨタのマーケティングを担当しているのはサーチアンドサーチ。有名なキャッチフレーズ「Today.Tomorrow. Toyota(トゥデイ。トゥモロー。トヨタ)」は同社の考案で、2004年に発表された。

トヨタは高級車レクサスブランド(後に低価格帯の車種にも拡張)の信頼性の高さで知られるが、レクサスには独自のロゴ(大文字のイタリック体「L」が楕円の中に入っているもの。モリー・デザインズとハンター・コミュニケーションの制作)と独自のキャッチフレーズ「the pursuit of perfection(完璧への追求)」(1989年) がある。キャッチフレーズには「pursuit」の前に「relentless(あくなき)」が入っていることもある。トヨタ・レクサスブランド(レクサスLS 460)を宣伝する最近公開された1分1秒のコマーシャルには、5つのシーンが連続して出てくる。「コントロールの追求」(乗馬)、「パフォーマンスの追求」(スピードボート)、「美しさの追求」(登山家)、「高揚感の追求」(スカイダイバー)、「静かさの追求」(湖の上のカヌー)だ。コマーシャルの最後にこれら5つをまとめる前述のキャッチフレーズが画面に表れる。

さいごに

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

誰かに教えたくなる
世界一流企業のキャッチフレーズ


誰かに教えたくなる世界一流企業のキャッチフレーズ

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