総務省が行った調査によりますと、2019年時点における世帯のモバイル端末全体保有率は96%と高水準となっており、スマートフォンだけでも83.4%の世帯が保有しているとの結果が出ています。これだけ多くの人がスマートフォンを持つ世の中になったことで、人の購買行動にも大きな変化が見られます。消費者はスマートフォンを使って、いつでもどこでも簡単に情報収集をし、様々な商品・サービスを比較しながら購入を検討できる時代になったのです。そのため、競合する商品・サービスとの差別化を図るため、ブランド価値を高めることがますます重要になってきています。
「いい商品さえ作れば売れる」と考え、ブランディングには目を向けてこなかったという経営者の方のお話もよく耳にします。そこで今回は、『株式会社売れる通販研究所』の代表取締役社長であり、日本で唯一のギフト通販コンサルタントでもある園和弘氏へのインタビュー取材を元に、「ブランド価値の作り方」について解説していきます。
良い商品を作っただけでは売れない時代
インターネットやSNSの急速な発達により、誰でも簡単に商品やサービスの情報を発信できるようになりました。一方で、情報量が加速度的に増え、検索すると関連情報が数千、数万、時には数十万件と表示されるようになり、自社の商品・サービスをネットを通じてお客さまに見つけてもらい、選んでもらうというのは難しくなってきています。「良い商品・サービスなら売れる」ではなく、「良い商品・サービスと顧客に認識してもらえることによって初めて売れる」と考えをシフトしていかなければいけません。では、どうすればお客さまに知ってもらい、選んでもらうことができるのでしょうか。
園氏は、これまで通販会社とギフト会社で働いてきた中で、伝えることの難しさと向き合ってきました。
たとえばネット通販では、文章と写真だけでその商品の魅力を伝えなければならず、上手く伝わらなかったからといって、説明を加えることはできませんし、もちろん商品を手にとって触ったり、使ってみたりということもできません。ですから、あらかじめお客さまにどのような印象を抱いてもらいたいのかをしっかりと定めた上で、そこに誘導できるように写真選びや文章表現を組み立てていくそうです。
大切なのは商品・サービスのどんな魅力を伝えたいのか、さらにどう伝えればもっと魅力的に感じてもらえるのかを考えることです。
ブランド価値の作り方
伝えるべき魅力を決め、その魅力に磨きをかける。そして、それがお客さまにきちんと届くことでブランド価値は形作られていきます。魅力に磨きをかけるためには、「自社の強みを知ること」と「カスタマーエクスペリエンス(CX)を意識すること」の2つが大切になります。
自社の強みを知り、世界観を伝える
企業の経営戦略を立てるときの分析手法にSWOT分析というものがあります。有名な手法のため、ご存じの方も多いと思いますが簡単に説明すると、
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
の頭文字を組み合わせたものです。この強みと弱みという内部環境と、機会と脅威という外部環境を分析していけば、どのような戦略を立てればよいか見えてくることはよく知られています。
しかし園氏は「ブランド価値を高めるためには、W・O・Tは後でいい。何よりもS(強み)を徹底的に抽出した上で、今以上に磨き上げることが大切」だと言っています。
ブランドとは、とにかく自社の商品やサービスの強みと、自社の理念(VISION)=世界観を顧客に知ってもらうこと。そのため、徹底的に強みに焦点を当てて磨いていく必要があるのです。
商品・サービスや企業の理念(VISION)=世界観に強烈な強みがあって初めて、ブランドは成り立つといっても過言ではありません。
カスタマーエクスペリエンス(CX)が大事
ブランド価値を形作るためにもう一つ大切になるのが、カスタマーエクスペリエンス(CX)です。CXとは、顧客が企業の商品・サービスを利用した際に感じる心理的・感覚的な価値観を指します。品質・金銭面以外で顧客の共感や感動を高めることで、満足度を向上させる手法です。
商品やサービスに企業の世界観を+αで乗せることによって顧客満足度を高めるというのも、CX視点でブランド価値を高める一つの手法です。
たとえば、AppleのAirPods(Bluetoothイヤホン)が包装などされずにむき出しの状態で販売されていたらどうでしょうか。どんなにイヤホンの性能が優れていたとしても、値段分の価値を感じられないかもしれません。Appleはスタイリッシュな何重もの箱に包むことによって、その箱を開いてイヤホンを取り出すという行為を通じてAppleの世界観に引き込み、お客さまの満足度向上につなげているのです。
まずは、しっかりとSWOT分析の中でも特にS(Strength(強み))を徹底的に洗い出し、自社の強みをはっきりとさせましょう。そして商品やサービスにその世界観を込めることで、どのような企業なのかお客さまに知ってもらうことがブランドを作っていくためには必要なのです。
読者へのメッセージ
あのNIKEのCEOが先日、一部を除いて小売業者にスニーカーを卸す販売モデルを中止すると発表しました。顧客と直接繋がる「D2C」のビジネスモデルに注力しだしたのです。このように、これからの時代は大手企業や有名ブランドでさえもマスから「個」へのビジネスモデル転換へどんどん変わっていくことが予想されます。
ネットの世界に企業の大きさは関係ありません。中小企業にも、たくさんのチャンスがあります。しかし、そのときに競合となるのは大企業なので、負けないように工夫をしていくことが必要になります。そのときブランドは大きな武器になります。今回取材したギフト商品やECの世界は、このブランド表現と価値を自由に直接消費者へ伝えることができ、結果として無数にある競合の中で、消費者に選ばれる商品・サービス・事業へと繋げていくことが出来る現実的な手法であり、現代的な経営戦略でもあります。
園 和弘(その・かずひろ)
株式会社 株式会社売れるギフト通販研究所 代表取締役
URL:https://urerugift.com/president-profile
東京都中央区銀座6-14-8 銀座石井ビル4F