「経営をサポートしているプロフェッショナル」へのインタビュー第8回は、関西福祉科学大学教授 重森健太さんへのインタビューをお届けします。
重森さんは、有酸素運動が脳に与える影響をあらゆる角度から分析しています。現在は運動中の脳血流反応をリアルタイムに確認できるアプリケーションソフトウェアの開発も行っています。
今回は、重森さんのこれまでの研究成果から、ビジネスパーソンにとって「走ることと仕事のパフォーマンスの関係」について教えていただきました。
仕事のパフォーマンスを高めるために必要なのは「走ること」
ー 重森さんから見て、現代のビジネスパーソンはどのような課題を抱えていると感じていますか?
重森 一言でいえば、「脳が退化してしまう危険の高い人」が多いように思います。
本来ヒトは、狩猟採集などを中心として暮らしてきた動物で、圧倒的な活動量のなかで体と脳を鍛え、進化してきました。しかし現代のビジネスパーソンは、電車やバス、車による通勤がほとんどだったり、仕事もデスクワーク中心で長時間座りっぱなしだったりする人が多いです。その結果、走ることも歩くことも十分に行っていないため、体はどんどん衰えて脳機能も低下していると思います。
「走る」ことは、メリットでしかない
ー 体を動かすことが、脳にもいい影響を与えてくれるのでしょうか?
重森 はい。走ったり歩いたりするような運動には、ダイエットやシェイプアップなどを期待する人が多いと思いますが、実はそれ以上に、脳を活性化し若返らせるという効果があります。走ったあと、頭がスッキリしたように感じることがあると思いますが、これは、酸素をたくさん含んだ血液が脳に行き渡ることで、脳が活性化されるからです。
走ることで脳が活性化されるため、思考がクリアになって判断力が上がったり、急にいいアイディアが浮かんだり、気持ちも前向きになるような体感効果が得られます。
アイデアが浮かばなくて行き詰まってしまったり、イージーミスを繰り返してデスク前で頭を抱えてしまう経験のある人も多いと思います。そんなとき効果的なのは、走ることなのです。脳を効率よく活性化してくれます。
ー 走るのに最適な時間帯やタイミングはありますか?
重森 ランニングに何を求めるかによっても変わりますが、効果を最大化させたいなら、私は断然、朝をオススメします。
なぜなら、脳のリズムが整い、覚醒した状態で仕事に臨むことができるからです。朝になると自然に目が覚めて夜は眠くなるというリズムが体にあるように、脳にもリズムがあり、脳の覚醒度を左右します。
朝、昼、夜、人によって走る時間帯はまちまちだと思います。なかには深夜に走っているという人もいると思いますが、脳がもっとも覚醒するのは日中です。基本的には体のリズムと同じで、脳の覚醒度は起床とともに上昇しはじめ、昼前にピークを迎えます。お昼を過ぎると少し下がり、18〜19時頃には再びピークを迎えますが、21時以降はどんどん低下していきます。脳のパフォーマンスを最大限に発揮するためには、このリズムに合わせて走ることです。つまり、朝ランで脳をいち早く覚醒させることがポイントとなります。
ー 夜走るのは、あまりよくないのでしょうか?
重森 昼間や夜、仕事が終わってからの時間帯でも、決してダメということはありません。それぞれ違ったメリットがありますし、基本的にはどの時間帯に走っても有酸素運動の効果は得られます。大事なことは、目的を何にするかです。そして、自分にあった時間帯を見つけることです。
ちなみに、夜は時間を確保しやすいですし、1日の終わりに汗を流すことでストレス解消にもなります。心地よい疲労感とともに眠りにつけるでしょう。ただし、走った直後は交感神経が優位になっているので、睡眠を妨げてしまう恐れがあります。寝る間際のランニングは極力避けましょう。
「走る」ことを習慣にする
ー 走ることに抵抗を感じる人はどうしたらいいでしょうか。
重森 走る習慣がない人の場合は、はじめから無理をせずに時間のあるときに、走ってみて爽快感を味わってみることが大切です。
成功経験を積み重ねていくうちに、土日のどちらか1日だったところが週に2日、3日、4日……というように、運動習慣として定着していくはずです。
忙しい毎日を送っているビジネスパーソンは、仕事に加えて運動習慣をもつ余裕がないと思います。なので、まずは15分程度から始めて、20分、25分、そして30分と、徐々に時間を増やしていくといいと思います。
ー 最後に、運動習慣をつけたいと思っているビジネスパーソンに向けて一言お願いします。
重森 仕事の合間にできる脳を活性化させる運動や、通勤途中にできる運動など、忙しいビジネスパーソンでも習慣にできるトレーニングはたくさんあります。ぜひ、仕事の合間に運動を取りいれる工夫をしてみてください。
- 運動不足や悪い生活習慣は、体だけでなく脳機能も低下させてしまう。
- どのタイミングで走るのがベストかは目的次第。ビジネスマンにオススメなのは、朝の時間。
- まずは走ってみて、爽快感を味わってみることから始めてみよう。
書籍のご紹介
『走れば脳は強くなる』
重森健太
関西福祉科学大学教授、博士(リハビリテーション科学)。1977 年生まれ。理学療法士。 2011年4月から現職。日本早期認知症学会 代議員、NPO法人ハタラク支援協会理事長、NPO法人播磨認知症サポート顧問、重森 脳トレーニング研究所所長などの役職でも活動している。主な活動として、エクササイズを用いた脳トレーニングの啓発活動や認知症の介護家族を対象とした「つどい場」、脳トレーニングアプリケーションソフトウェアの開発、社会復帰のためのハタラク支援活動などを展開している。
インタビュー
「経営をサポートするプロフェッショナル」
企業の「経営をサポートしているプロフェッショナル」へのインタビューをお届けしています。
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