この記事では、「企業ビジョンの役割」について、秋元征紘さんの書籍『ビジョナリー・マネジャー』よりご紹介します。

秋元征紘

ワイ・エイ・パートナーズ 代表取締役 ジャイロ経営塾 代表
著書に『なぜ今、シュンペーターなのか』(クロスメディア・パ ブリッシング)、『金の社員・銀の社員・銅の社員』(文春新書)、『こうして私は外資 4 社のトップになった』(東洋経済新報社)、『一流の人たちのシンプルな習慣』(フォレス ト出版)などがある。

「君の志はなにか」

私は企業ビジョンづくりについて、KFCやペプシ、ナイキ、ゲランで繰り返し議論してきました。その中で徐々に理解してきたのは、企業ビジョンについて議論をすると、その前と後で参加したメンバーの目つきが変わってくることです。これが企業ビジョンづくりの効果です。この考え方をシェアすることで「同志」になるのです。

陽明学者で松下村塾を開いた吉田松陰は「君の志は何か」と常に塾生に問いました。志を聞いて、それを議論しながら同志化していくという方法を取ったのです。明治維新という変革を文字通り命をかけて実現しようとした幕末志士たちや、のちに明治の元勲と呼ばれる人々も含めて、松下村塾は「日本を変えた」人材を数多く輩出しました。ちなみに中国の陽明学の研究家は、現在でも吉田松陰を研究対象にしているほどです。

志の重要性は、私自身、さまざまな会社で企業ビジョンの論議をしてきてあらためて感じています。仕事には、ある方向性を持って我慢してやり続けないと成功しないことがあります。そうしたときに志がないと、人間はやっていることを途中で簡単に放り出してしまうのです。志を同じくするということは、会社が掲げる企業ビジョンについて「自分も心からそう思っている」という状態です。その気持ちがある限りは、多少の失敗を犯しても、壁に当たっても、頑張ることができるのですが、それを日々の忙しさにかまけて忘れてしまうと、努力することを忘れ、負けても平気になってしまうのです。

成功に対する執着は、企業ビジョンをどうしても実現したいという思いがあるからこそ生まれます。絶対にあきらめない姿勢のベースは、企業ビジョンに対して共鳴感を持ち、「自分ごと」として受け止めることにあります。そして経営的にいえば、そんな社員を何人育てることができるかがカギを握っているのです。

ビジョンとは「北極星」である

現代のビジネスでは、企業ビジョン(基本理念)の構成要素のビジョン・ミッション・バリューの中で、ビジョンは普遍的でありながら、ミッションやバリューは変化に対応していかなくてはなりません。今の世界情勢は、1年前とはまったく変わっています。技術の進歩のスピードも、1年前と比べて格段に速くなっており、テクニカルな環境は日々変わっていきます。そうした常に変化していく環境の中で、果たしてビジョンというものは有効なのかという問題が出てきます。実際のところ、時々刻々と環境が変わっていくからこそ、ビジョンもより重要になるのです。

砂漠地帯でラクダの隊商が北極星を方向の目安として歩いたのと同様、最終的なゴールを遠くに見ながら、より近い視点でさまざまなルートを見て選択していくのが、経営者に求められる才覚です。ビジョンに照らし合わせて「右か左か」を判断するという重要な役割を担っているのです。

「不変的」ビジョンと「創造破壊的」行動計画が会社を動かす

ビジョンの追いかけ方にはさまざまな道筋があります。ビジョンが土台にあり、ミッションに基づいて3年なり5年なりの目的と目標を設定します。そして「戦略的経営計画」―本書では以降「戦略計画」と呼びますが、この戦略計画としての中長期経営計画を立てます。

これを実現するために行動計画と予算を策定するのですが、ビジョンが不変であるのとは対照的に、これらはできる限り創造的でフレキシビリティに富んだものでなくてはなりません。戦略計画は現状打破が基本であり、「創造的破壊」的な発想が戦略を立てる上で最も重要になります。これは決して矛盾しているわけではありません。

全社的なビジョンを実現するために、3年なり5年なりの当該期間に何をやろうとしているのかという「目的」と、その結果として得ようとする状態あるいは数字で表現できる成果を「目標」として明快にする。そして、それをいかに創造性に富んだ方法で実現できるかを追求するのです。

問題になるのは、戦略的な議論をしているうちに、ビジョンの存在が薄れてしまうことです。これはリスクを招きます。ビジョンは普遍的にして不変のもの。表現は時代に応じて変えてもかまいませんが、その「核」は変えないものです。ミッションはビジョンを実現するための一番良い、創造的なやり方の概略となります。実際に戦略計画ではやり方は変わっていきますので、ミッションは適宜、見直していったほうが良いのです。

さいごに

記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。

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