この記事では、「企業ビジョンと社員の生産性」について、秋元征紘さんの書籍『ビジョナリー・マネジャー』よりご紹介します。

【書籍】『ビジョナリー・マネジャー
【著者】
秋元征紘 ワイ・エイ・パートナーズ 代表取締役

ビジョナリーなリーダーシップとは?

企業ビジョンがその会社の行動や様式を決定し、日々のすべての仕事がそれと照合されることで、社員が一つの方向に向かう。

そのようなマネジメントを、「ビジョナリーなマネジメント」と呼びます。そしてそのようなマネジメントにおけるリーダーのあり方を示すものが、ビジョナリーなリーダーシップであり、それを志向し実践する自律的で自由な個人こそビジョナリー・マネジャーにほかなりません。

ビジョナリーなリーダーシップを、私は次の3点の「問い」に要約しています。

  1. 掲げている企業ビジョンは正しいか
  2. 企業ビジョンが社員の間で共有されているか
  3. 社員一人ひとりが企業ビジョンと仕事の関係を「自分ごと」として捉えているか

まずこの3点について問うことが、ビジョナリーなリーダーシップのスタートとなります。さらにシンプルに、その実践者であるビジョナリー・マネジャーを志向する経営者・ミドルマネジメント・スタッフの持つ特性を言い表すとすれば、次の言葉が最もふさわしいでしょう。

「企業家のように考え、行動する」人々

「企業家のように行動する」ということは、自分の仕事のレベルにおいて、自らを律し、責任を持って仕事に取り組むということです。ビジョナリー・マネジャーが機能している会社では、企業ビジョンに共鳴する社員のモチベーションが上がると同時に、コミットメントのレベルも上がっています。

自由な個人の内心の発露から仕事への意欲が生まれているのですから、仕事を「自分ごと」として捉え、責任感が生ずるのは自然な成り行きです。多くの企業の不祥事なり経営的な失敗の顛末を見ると、社長以下の経営陣に始まり、末端の社員に至るまで、見事に責任感が欠如していることに驚くばかりです。

仕事を自分ごととして捉えるコミットメントがないということは、おそらく仕事に対するモチベーションも低かったであろうし、そもそも経営者と社員との間に、企業ビジョンに共感し合う関係性がなかったことをうかがわせます。

自律的な個人としての働き方が、生産性と創造力を高める

世界で優良企業と呼ばれる会社や組織ほど、企業ビジョンのブラッシュアップと浸透に投資をしています。彼らがビジョンを通じた社内・組織内のコミュニケーションを重要視しているのは、それが個々の社員の生産性や創造力を高め、付加価値を生み出すクリエイティビティに直結していることを実感しているからに他なりません。

かつて日本の会社が「一流の現場と三流の本社」と呼ばれた状況は、多くの企業ではいまだ改善されないままですが、最近になって、ホワイトカラーの生産性の低さが社会的な問題点として指摘されるようになりました。これまでは生産性の低さを労働時間の量でカバーしてきたものの、それをカバーしきれなくなっているのが現状といえます。

「働き方改革」という名目で、長時間労働の是正が声高に語られていますが、問題は労働時間の量ではなく、生産性や創造力の低さ、つまり働き方の「質」にあることは明白です。

アップルやフェイスブック、グーグルなど、今日の世界経済を牽引しているグローバル企業が、重要なポストの人材を採用する際には、ビジョナリー・マネジャーとしてのCEO自身や関連部門長が、候補者との面談に十分な時間をかけ、時には食事をともにし、徹底的なインタビュー(面接)を行います。そこでは本人の能力や適性と同等かそれ以上に、企業ビジョンとの親和性や、本人のキャリア構築の意向とのすり合わせが行われています。

アップルのスティーブ・ジョブズは、ペプシコーラの社長だったジョン・スカリーをアップルの社長として迎えるために何度か面談した後、なかなか決心できないスカリーに対して、ニューヨークのセントラルパークで、ある「殺し文句」を発しました。それは「あなたは人生の残りの日々を、ただ砂糖水を売って過ごすんですか? 世界を変えようというチャンスをつかんでみる気はないんですか?」というものでした。

その後の2人のドラマはみなさんもよくご存じかと思いますが、ここでスカリーを決心させたのが、ジョブズが17歳で起業したときからの「世界を変える」という企業ビジョンでした。一方で、それに対するスカリーの親和性が後々に大きな問題となり、ジョブズが一時期アップルを追われることにつながっていくわけです。

ロジック×パッション=生産性

私がお手伝いしているベンチャー企業においても、人材の確保や資金の調達の過程で最も効果を発揮しているのが、「世界を変える」ような企業ビジョンなのです。今日では、良い企業ビジョンは、良いヒトと良いカネ(投資)を惹きつけます。

それは、これまで日本の多くの企業が、自社の企業ビジョンについては議論をせず、終身雇用制度がもたらす安定と引き換えに、いわば権威主義的に社員を会社に従わせていたのとは対照的な光景です。世界で優良企業と呼ばれる会社が企業ビジョンのすり合わせに時間をかけるのは、そこに共鳴して入社したメンバーの生産性や創造力が圧倒的に高いことを理解しているからです。

人間はある程度、論理的に行動する生き物ですが、同時に感情も併せ持っています。企業ビジョンは論理と感情の双方に訴えかけるものといえます。最近の脳科学で判明したことですが、生産性を高めるメカニズムには、ロジックと同じくらいにパッションが影響しています。

また、最近のマネジメントや人材開発の話題の中でしばしば登場する言葉が「エネルギー」です。人々が仕事に向かうパッションの熱量は、ロジックと同等かそれ以上に重要で、生産性や創造力は、「ロジック×パッション」という掛け算で表すことができます。

ここで重要なのは、社員が安定と権威にひざまずいて面従腹背するのではなく、自分の内心から企業ビジョンに共鳴していることです。この部分を共有していれば、自律的な個人が自由な働き方をすることで、会社の生産性と創造力を高めることが可能になります。自らの意思で自律的に仕事に取り組むことの重要性がここにあります。

日本でも地方でも欠かせないグローバル志向

アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンをはじめ、世界で成功している企業に共通しているのは、彼らが掲げる企業ビジョンに、それぞれ具体的な表現は異なりますが、「○○で世界を変える」といった趣旨を謳っていることです。それは「世界=グローバル」「変える=イノベーション」と捉えることもできます。

これからのビジョナリーなリーダーシップに不可欠な考え方が「グローバル」と「イノベーション」であることに異を唱える人はいないでしょう。付け加えれば「ダイバーシティ」が入るでしょうが、これは、「グローバル」と「イノベーション」を実現するための必要条件と捉えたほうがいいでしょう。

グローバル志向とは、単に海外に旅することや、国外で事業展開を進めることを意味しているわけではありません。もちろん英語やフランス語、中国語に堪能であるとか、異文化に理解があることは大切なのですが、それ以上に「今、世界で起こっていることを同じ次元で捉え、共感できるかどうか」がグローバルの真の意味だと思います。

感覚をもつことこそ重要

自分たちが信じる企業ビジョンを「世のため、人のため」に掲げ、「世」が世界であり「人」が世界の人々であると実感していることが大切なのです。「世のため、人のため」は、「世界の人々のために、世界の人々とともに」という言葉に置き替えることが当たり前であるという感覚が持てることです。

今日では、インターネットで一人ひとりが一瞬にしてグローバルにつながれるわけですから、自分の身がどこにあろうと関係ないのです。逆に言えば、日本人だから、日本に居住しているからといって、「グローバル」から逃げることはできないということも肝に銘じておくべきでしょう。

そして、世界で起こっていることに対する自分なりの見識を持つことも要請されています。東京をヒエラルキーの中心に置いて、地方や田舎だからと卑下する必要もないし、そのような距離感の持ち方は捨て去らなければいけません。事実、日本においても、地方発で世界一という企業はたくさんあります。自分自身対世界という枠組みの中で思考し、「世界の人々のために、世界の人々とともに」「世界をどう変えられるか」、そのために「何ができるのか」を考え行動するのが、本当のグローバル志向なのです。

組織全体で企業ビジョンへの理解を深める

リーダーとしてのコミュニケーションビジョナリー・マネジャーのリーダーシップが、「企業ビジョンを掲げて、マネジメントからスタッフへの浸透を図ること」だとすれば、「リーダーの掲げる企業ビジョンに対して理解を深めること」が社員のフォロワーシップです。

優秀な起業家がしばしば行うように、的確に企業ビジョンを言語化できていれば、それに越したことはありません。ただ、そうでなくても、ミドルマネジメントであれスタッフであれ、誰でも会社や経営者が掲げた企業ビジョンへのそれなりの理解や感想は持っているはずです。

フォロワーシップでは、自分の内心に照らし合わせて、それらが「自分ごと」として「腹落ち」し、心からの共感を寄せるようになることが重要です。そのため、ビジョナリー・マネジャーが力量として問われるのは、良質なコミュニケーションを通して社員のパッションを引き出し、モチベーションとコミットメントのレベルを高めることなのです。

「ビジョンの確認」にこそ時間を割く

ここで大切なのは、日々の業務の中で、トップマネジメント・ミドルマネジメント・スタッフが、それぞれの階層で企業ビジョンに沿った行動をしているかどうか、間違った方向で理解していないか、能動的で積極的なコミュニケーションを通して相互に確認していくことです。リーダーとフォロワーのコミュニケーションでは、この理解の確認にこそ多くの時間を割くべきなのです。そしてその正確な理解と、心からの共感が行動変容に結びつくことこそ、このプロセスのゴールであるといってもよいでしょう。

その意味では、経営者が掲げる全社的な企業ビジョンに対して、各部門では自分たちの仕事に照らし合わせて「自分たちの部門のビジョン・ミッション」や「チームビジョン・ミッション」をつくることを強くお勧めします。そこでは、ビジョナリー・マネジャーとしての社長や部門長は、モデレーターのような役割を担って、各部門のビジョン・ミッションの方向性と全社的な企業ビジョンとの間に隙間のようなものがないように、表現の細部にまで踏み込んで議論することも求められます。

さいごに

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ビジョナリー・マネジャー


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