この記事では、セールスパーソンが身につけておくべき「5つの基本戦略」について、箱田 忠昭さんの書籍『新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ』よりご紹介します。

【書籍】『新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ
【著者】箱田 忠昭
 インサイトラーニング株式会社代表

営業スキルアップに欠かせない「5つの基本戦略」

販売の交渉は、売り手(セールスパーソン)と買い手(バイヤー)のやりとりです。人と人とのやりとりである以上、ある程度の駆け引きは必要です。そこで、交渉を有利に進めるための基本的な戦略を考えていきましょう。

スポーツでも将棋でも、戦略は必要です。有段者はそれを熟知し、縦横に駆使して、相手を翻弄します。そして常に勝利を収めているのです。販売の交渉でできるだけ高く売るための5つの基本戦略は次の通りです。

5つの基本戦略

  1. 初頭要求極大化の法則を使え
  2. 情報を持っている者が勝つ
  3. 力関係であきらめるな、逆転可能だ
  4. 交渉の時間戦略は 90 / 10 の法則
  5. 競合をオトリに使えばプレッシャーをかけられる

初頭要求極大化の法則を使え

交渉においては、初頭要求極大化の法則、つまり、大きく要求すれば大きく得られるという法則があります。まず、最初に要求する水準は高く設定すべきなのです。逆に言えば、最初の要求水準が低いとそれ以上のものは手に入らないのです。

例えば、あなたがマンションのオーナーで今物件を売りに出そうとしています。不動産業者に相談してみると、今の相場で3600万円から4000万円程度と言われたとします。あなたは4000万円で売りに出しますか?

賢明な人なら、価格交渉があることを前提に4500万円で売りに出します。買い手がいたとしても、とんでもなく高い金額を提示したら決裂の可能性もあります。しかし、妥結したときは間違いなくいい結果を得られるはずです。

また、ネゴシエーションセミナーなどでアメリカ人と日本人が交渉したとき、日本人はアメリカ人の予想をはるかに下回る値から交渉に入ります。反対に欧米人は初めから大きく要求してきます。そして、結果はいつも日本人側の負けになるのです。敗因は交渉力の差というより、 “初頭要求”の差によるものが大きいのです。

通常、欧米人は本当の要求額(本音)の7倍を要求してくるといわれています。それから徐々に譲歩して要求額(本音)に近づけるのです。

自動車事故などでもそうです。10万円くらいで済む修理費を、欧米人は加害者に70万円くらい請求するわけです。そこから交渉が始まって徐々に要求を下げていき、最終的に10万円に落ち着けばよい、と考えるのです。実際のところ 万円請求したとき、ほとんどの場合10万円以上の額で妥結するのです。

これを正直に10万円しか要求しなかったらどうでしょう。相手に粘られ、値切られて、結局8万円ないし7万円で決着してしまうでしょう。

まず、譲歩できる幅を高めに設定して、余裕をもった状態で交渉に当たるべきです。もともと交渉は双方の譲歩により成立するものです。片一方のみの譲歩を強要することはフェアな取引ではありません。つまり、ギブ アンド テイクの精神です。読んで字のごとくギブが先に来ています。本来、何かを得るためには、その代価を与えねばなりません。譲歩の幅を多く持っていたほ うが精神的にも優位に立てます。

価格交渉でも、この“初頭要求極大化の法則”は絶対に有利な戦術です。見積もりを出す際に初めから最低ギリギリの金額、条件を出してはいけません。あらかじめ、値引きの幅をもって見積もりを出すべきなのです。

情報を持っている者が勝つ

孫子の言葉に「敵を知り、己を知らば、百戦して危うからず」とあります。

あるいは「スパイに使うほど有効な金の使い方はない」(フランソワ・ド・カリエー ル)というように、交渉においては情報が重要なカギとなります。お客の情報があれば戦をコントロールできます。戦わずして勝つことも可能なのです。お客の手の内をこちらがすべて知っていて、なおかつ相手がこちらのことをなにも知らない場合、こちらが断然有利になります。

例えば、あなたが家電量販店に冷蔵庫を買いに行ったとします。販売価格 万円と書かれた冷蔵庫を指差して「現金で払うので、ここから2万円まけてください」と言ってもまけてくれるはずもありません。しかし、近所の商店街にある電気店で冷蔵庫の在庫を持てあましている、しかもメーカーに対する支払期日が明日で、手持ちの資金、現金不足に深刻に悩んでいる、という情報をあなたが持っていたらどうでしょう。間違いなく、あなたは現金払いをちらつかせることで相当の値引きを得ることが可能でしょう。

逆にこちら側の情報、例えば、「今使っている冷蔵庫が壊れてしまって、中の食べ物が 腐っている状態。しかも明日お客さんがくるので、ビールを冷やしたり、スイカを冷やし たり、いろいろと食べ物を用意しないといけない。どうしても今日中に配達してもらいた い」という事実を電気店の主人が知っていたらどうでしょうか。おそらく電気店側の交渉時の立場はかなり有利になるはずです。

そして、その情報を集める時期は早ければ早いほど有利であり、また手に入れやすいものです。まずは、じっくりと事前の調査でできる限り相手の情報を集めることです。

業界他社の担当者から情報を集めるのもいいでしょうし、同じ会社の別の担当者から情報を集めるのもいいでしょう。または、以前その会社に勤めていた人や、取引関係にある会社からの情報も貴重です。

また長期的に情報を収集することも忘れてはいけません。新聞、業界紙、刊行物はもとより、インターネットの情報なども、普段から意識して収集しておくようにしましょう。いずれにせよ、あらゆる機会、コネを使って優位に立てる情報を集めましょう。

また、交渉中に相手から情報を得ることも可能です。上手に質問し、聞き出すのです。良いセールスパーソンは聞き上手、質問上手です。ペラペラしゃべりまくるセールスパーソンはかえって嫌われます。 「購入時期はいつごろをお考えですか?」「ご予算はどのくらいですか?」「通常こういった商品の場合、どなたがお決めになるのですか?」など、具体的な質問で情報を入手するのです。

力関係であきらめるな、逆転可能だ

人と交渉しようと思えば、最初から力関係は存在します。相対的にどちらかが優位な状態にあり、どちらかが不利な状態にあるわけです。買い手と売り手がいれば、普通はお金を持っている買い手が優位にあります。しかし、この力関係も逆転することがあります。人気商品で行列してでもほしい場合など、売り手が優位に立ちます。

先日、友人からとってもおいしいロールケーキをもらいました。聞いてみると東京では銀座のあるデパートでしか販売していないらしく、いつも行列ができているそうです。その友人も開店直後から並んで 分後にようやく手に入れたそうです。お客から見れ ば、「買ってやる!」ではなく、「是非、売ってください」となるわけです。このように他 にはないおいしいロールケーキという商品を持っていれば優位に立てるのです。

この“力関係”を決定する要因は何かといえば、地位の上の者、お金を持っている者、体力的に勝っている者、年長者、前例、規則等があります。社長とヒラ社員が交渉すれば、社長がたいてい圧倒的な優位性を持つでしょうし、大学生と小学生が交渉すれば大学生が勝つでしょう。しかし、実際のところ、それらの力関係は双方の関係によって生ずる相対的なものなので、明らかな実力の差ということではありません。ですから、なんらかの条件によって変化するのです。

では、どういったときに力関係が逆転するのでしょうか?ここで、こうした観念的な力関係を逆転する方法を考えてみましょう。

粘りの力

まず最初は“粘り”、つまり忍耐の力です。粘り勝ちという言葉があるように、たとえこちらが弱者であっても、根気よく交渉を続ければ、勝てなくても少しでも良い条件を引き出すことができます。

例えば、プロ野球の契約更新などはそうでしょう。スポーツニュースを見ているとよくわかります。2度3度の交渉では判を押さずに、翌年まで契約更新を持ち越した選手は、当初の球団提示額よりもいい金額でサインしています。

あなたがセールスパーソンなら、見込み客に何度も何度も通い続け、「あなた熱心だ ね、あなたのところから買うよ」と粘りの力を発揮した経験はあるでしょう。その粘りを交渉の場で発揮して、よい条件を引き出すのです。

数の力

仲間の力も大切です。交渉においては“数は力なり”と言うことができます。1人よりは2人、2人よりは3人で交渉したほうが有利になるのです。

想像してみてください、あなたがセールスパーソンとして価格交渉の場に臨んだとします。あなたは1人で相手は5人。もう、その時点で勝てる気がしません。まさに、完全に包囲された状態です。お客からは矢継ぎ早に攻められ、気がついたときはもう相手の言いなりです。もし、あらかじめ相手が5人とわかっているなら、こちらは6人体制で臨むのです。い つでも相手方よりも多い人数で交渉に臨むことで、力関係を逆転することができます。

例えば、ニュース番組でよく見かける光景ですが、建設反対の地元住民と、役所の担当者がテーブルを挟んで対峙している場面などがあります。たいていの場合、地元住民は、役人の数の2倍、3倍の数で対抗しています。力のある役人に勝つには数で圧倒しないといけないわけです。

知識の力

“知識は力なり”という諺がありますが、交渉においても知識、経験の力は強いのです。

中古自動車を買いに行くとき、中古自動車市場、整備関係などに詳しい知識と経験を備えた人を同行させれば、相手にかなりのプレッシャーを与えることができます。 また、住宅の購入などにも使えます。 実際に現地を見るときなど、「今日は設計事務所に勤めている弟を連れてきました」と言えるように専門家に同行してもらうのです。プロの目でチェックしてもらって、交渉の材料を探してもらうことができます。

例えば、パソコンのセールスパーソンであれば、普段からパソコンについて徹底的に勉強し、自分でパソコンを組み立てることができるほどの知識、技術を身につけていれば、仮に交渉相手が取引企業の社長であっても、知識という武器を使って力関係を逆転することも可能です。

態度の力

交渉においては、絶対に相手を攻撃したり責めたりしてはいけません。 人間は感情の生き物ですから、責められれば何らかの反撃を考えます。 従って、“泣き落とし”という言葉があるように、むしろ低姿勢に出て、何とか相手の
心情に訴えるようにしたほうがよいのです。高姿勢で傲慢な態度で相手を押えつけようとすれば、逆効果です。

販売交渉の時間戦略は 90/10 の法則

時間的な制約は、相手側に相当のプレッシャーを与えるものです。

例えば、売り手側が今日中にローンを払わねばならない、払わなければ差し押さえをくってしまうという場合、買い手側はとても有利になります。

相手のデッドラインについて知れば知るほど、交渉戦略は立てやすくなるのです。たいていの場合、交渉の席では、時間のプレッシャーを感じている側に勝ち目はありません。要するに、時間がないときには人は非常に折れやすくなるものなのです。

例えば、セールスパーソンであるあなたは、ある都市に飛行機で駆けつけ、契約交渉をまとめ、夕方6時に帰ることになっていたとしましょう。あなたは、その便にどうしても乗りたいと思っているのです。最終便だし、それに乗れないと翌日の大事な会議に出られなくなるからです。しかし、交渉相手側にそのことを悟られてはいけません。場合によっては6時の飛行機に乗る、ということくらいは言っても構いませんが、その場合は9時の新幹線でも帰れるとか、お互いに満足する取り決めができるまでは宿泊も辞さないという姿勢を見せておくべきなのです。なぜなら、交渉には“90/10の法則”があるからです。

競合をオトリに使えばプレッシャーをかけられる

“競合の力”も存在します。あなたが新製品を自分で発明し、マーケットに同種のものが存在しないとき、あなたは絶大な力を持つことになります。競争相手がまったくなく独占的な製品であれば、価格も自分で決めることができるのです。逆に、買い手側から見れば、ほかにいくつかの購入先を持っていれば、優位な力を持つでしょう。選択の余地が多ければ多いほど、力関係で有利に立つことができます。

以前、私は鎌倉で土地を買ったことがあります。その土地は7000万円で売りに出されていました。その土地を買いたいと思い、不動産業者と1割引の6300万円でどうか、と交渉を始めたのです。不動産業者は自分では決められないと、地主を紹介してくれました。私も地主といろいろと話し合いましたが、なかなかうまく進みません。そのうち、不動産業者が「箱田さん、あの土地はダメになりました。実はほかに 7000万円で是非買いたいと言う人が現れたので、そちらに売りたいと地主さんが言っ ています」という電話があったのです。私は慌てて「それはひどいよ。先にこちらが話を始めていたんだから、こっちに売ってよ」と反応しました。不動産業者は「ですけど、相手は7000万円で箱田さんは6300万円ですから話になりません」私は「わかった。価格面はなんとかしよう。7000万円出すよ。絶対に欲しい土地だから、なんとか地主さんに話をつけてくれ」と頼み、ようやくの思いで、最初の売値どおり7000万円で買うことになったのです。

これは地主が競合の力を利用し、その力で断然有利に立った例です。逆に、買い手がまったくなく、過去5年間売れなかった土地であれば、私に競合する相手などいないので、こちらが有利に立てたはずです。また実際に競合が存在しなくても、あたかもライバルがいるようなそぶりを見せるだけでも、相手に相当の動揺を与えることも可能です。

オークションなどもそうです。例えば、あなたがとても有名な人気漫画家の原画を所有していて、それをオークションに出したとします。買い手は何人も現れ、あれよあれよという間に、当初あなたが予想していた金額よりはるかに高い値がつくでしょう。自分以外に買いたいという競合者がいることによって、どんどん値がつり上がっていくのです。

営業スキルアップに役立つ本

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「高いなぁ」と言われても
売れる営業のしかけ


新版「高いなぁ」と言われても売れる営業のしかけ

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