この記事では、プレゼンテーションのスライドや資料準備から発表時のコツまで、プレゼンにおいて重要な項目を網羅的に解説します。この記事内容は車塚元章さんの書籍『プレゼンできない社員はいらない』をもとに編集しています。
プレゼンテーションとは
聞き手にあなたのメッセージ(主張や提案)を受け入れてもらい、行動に移してもらうことが目的ということになります。
この目的を満たしているのがプレゼンであり、ビジネスの現場では日常的に行なわれていることです。
プレゼンテーマ決めの注意点
プレゼンのテーマを設定するとき、プレゼンの相手は誰なのかを分析する、つまりプレゼンテーマに関してどの程度の基礎知識・情報を持っているのかを知ることが大切です。基礎知識・情報をほとんど持っていない聞き手であれば、専門用語を使わず、わかりやすい言葉で話をする必要があります。
逆に、専門知識・情報を豊富に持っている聞き手であればその必要はありません。専門用語オンパレードでどんどん話を進めればいいわけです。
では、両方の層がいる場合、知識・情報レベルの差が大きい場合はどうでしょうか。
その割合にもよりますが、基本的には知識・情報を持っていない層に合わせます。そして専門用語などを使う場合には、一度わかりやすい言葉に置き換えるなどの配慮も必要です。
1秒でわかるパワーポイントスライドをつくる
パワーポイント のスライドはカッコいいほうがいいに決まっています。ただ、「カッコいいスライド」=「わかりやすいスライド」とは限りません。プレゼンではスライドのデザイン性を競っているわけではありません。シンプルでわかりやすいスライド、そして誰が見ても(どこの席から見ても)見やすいスライドを目指してください。
文字は大きくする
スライドは、プレゼン会場の一番後ろの席からでも見えるものでなければなりません。事前にプレゼン会場の大きさや聞き手の人数がわかっていることが多いでしょうから、それに合わせた文字フォントの大きさにします。実際には、スクリーンの大きさによっても違ってくるのですが、概ねこの程度のフォントは必要になります。

フォントの種類を絞る
プレゼン用のスライドでは一体どのフォントがよいのでしょうか?種類が豊富で迷ってしまいます。
一般的に明朝体よりゴシック系フォントが太くて見やすいため、スライドには適していると言われます。PowerPointの標準フォントであれば、MSPゴシックやHGPゴシックMなど、太文字を使うときにはHGP創英角ゴシックUBなどがいいでしょう。
ところで、あなたは「MSゴシック」と「MSPゴシック」の違いがわかりますか?普段何気なく使っていますが、この2つには決定的な違いがあります。「P」がついているフォントをプロポーショナルフォントといい、「P」がついていないフォントを等幅フォントといいます。
プロポーショナルフォントとは、それぞれの文字にとって適した本来の幅をそのまま表示したフォントです。等幅フォントとは、等幅、つまりすべての文字の幅を同じに取っているフォントのことです。通常は、「P」がついているプロポーショナルフォントを使うといいでしょう。でも、あえて等幅フォントを使うという選択肢もあります。
それから、ぜひ一度Wordなどで作った資料を見直してください。うっかりフォントの設定を間違えて、MSPゴシックで書いていたつもりの文章が、いつの間にか途中からMS ゴシックに変わっている、なんてことがよくあります。

基本は、図解・イラスト・箇条書き
「スライドでは文章より、箇条書き。箇条書きより図解・イラスト・グラフ」と心得てください。残念ですが、聞き手はあなたが思うほどスライドの文字を追いかけてはくれません。細かいところまで見ていないのです。それに、文字を読んで理解するのには時間がかかりますし、またスライドの文字を読むこと自体大変です。そこで、図解・イラスト・グラフで表現すれば、パッと見た瞬間に聞き手はスライドの内容を理解できます。
また、これはプレゼンター側から見たポイントですが、スライドに文字を書くことで、プレゼンターはどうしてもそれを頼りにしてしまいます。ついスライドの文字を読んでしまうのです。中には、スライドの文字を棒読みしてしまう人もいますから、これでは折角のプレゼンが台無しですね。極力文字を使わず、図解・イラスト・グラフで表現するようにしてください。
しかし、もし文章を使わないといけないときは、できるだけ一文を短くしてください。1行の文字数は、基本的に10字以内、最大でも15字以内に抑えたいところです。それ以上だと聞き手の頭に残りにくいですし、そもそも目にとまりません。スライドの文字は読んでもらうというより、見てもらうという感覚でとらえてください。
そのためのコツですが、文章を長々と書くのではなく、箇条書きで表現したり、体言止めを使ったりするといいでしょう。体言止めとは、名詞や代名詞で終わる表現のことをいい、たとえば「○○を開始します」ではなく、「○○を開始」と書きます。また「協議により、○○に決定しました」ではなく、「協議により、○○に決定」とします。
スライドはZ型で作る
スライドは人の目の動きに合わせて作るべきです。通常、人の目は左上から右上、そして左下に移り右下に移ると言われています。こうした人の目の動きに合わせ、見てもらいたい図や写真、イラスト、グラフを配置するのです。このように、Z型でパーツを配置することで、聞き手は無理なく自然にスライドに集中することができます。
色使いを考える
色にはそれぞれ特有のイメージがあります。ですから、ただやみくもにたくさんの色を使えばいいということではないのです。こうした色の持つイメージを考慮して配色を決めます。その際、スライドのベースになるベースカラーを決め、それ以外はメインカラー1色とサブカラー1色程度に抑えます。

ワンスライドワンメッセージ
プレゼンでは、よく情報てんこ盛りのスライドを見かけます。あれも載せたい、これも載せたいと、つい情報量が多くなってしまうのでしょう。では、なぜ1枚のスライドに多くの情報を載せてしまうのでしょうか?それは、「余白が怖い」のです。人の心理として、スライドに空白の部分があると、なんとなくそこを埋めたくなってしまうのです。
しかし、1枚のスライドにあまり多くの情報を盛り込まないことです。基本的には「ワンスライドワンメッセージ」、1枚のスライドに1つの情報が基本です。あまり多くの情報を載せてしまうと、聞き手はそれらの情報を処理しきれず、思考が鈍くなります。情報量を絞り込むというのがコツです。
それに、情報量が多いということは文字や図、写真、イラスト、グラフなどが相対的に小さくなってしまいます。それでは見やすいスライドには程遠いですね。
全体的な統一感を持つ
スライド作成にあたっては、全体的な統一感を持たせます。たとえば、急きょ決まったプレゼンで、発表まで時間がなかったとしても、以前作ったスライドや、他人が作ったスライドをただつなぎ合わせて使うことは避けてください。
全体的なテイストが違うでしょうし、写真イラストなどの雰囲気、フォントの大きさや種類などもバラバラで見づらくなります。全体的な統一感を持たせるには、まずスライドのベースカラーを決めます。
白にするのか、あるいは他の色にするのか。そして、フォントの大きさも、本文や表題はそれぞれ何ポイントにするのか、基準を決めておきます。フォントの種類についても、基準となるフォント、たとえばMSPゴシックにすると決めたら、それ以外のフォントはせいぜい2種類程度に抑えます。
プレゼン資料の極意
スライドと配布資料は別にする
プレゼンで使うスライドを作成する際、配布資料も準備すると思いますが、ここで注意しなければならないことがあります。それは、スライドと配布資料は別のものを作るということです。
スライドは「見せる」ものであり、配布資料は「読ませる」ものです。元々、役割が違うのです。プレゼンターの話に説得力を持たせるのがスライドの役目であり、さらにそのスライドに説得力を持たせるのが配布資料というわけです。
スライドを作成するのに精一杯で、配布資料を別に作る余裕がないということで、PowerPointのスライドをそのまま印刷して配布しているケースがあります。または、1ページに3スライドとメモ欄をつけて印刷するケースもよく見かけます。でも、このやり方は避けた方がいいでしょう。
プレゼンで発表予定のスライドをそのまま印刷してしまうと、プレゼンの間、聞き手はあなたやスライドを見なくなります。スライドの内容は全て手元の資料に書かれているため、手元の資料を見ながらメモを取るという状況になってしまいます。これでは、その場でプレゼンする意味も、説得力も半減してしまいます。
極端に言えば、あなたの話を録音したものを会場で流すだけですんでしまいます。やはり、聞き手にはプレゼンターであるあなたや、スライドを見ながら話を聞いてもらいたいものです。
ただ、スライドと配布資料を同じにする意味があれば構いません。たとえば、いくつかの空欄を設けたスライドでプレゼンを行う場合などは、その典型でしょう。スライドの各ページには空欄があり、プレゼンターは話をしながらその空欄を埋めていき、その言葉を聞き手に記入してもらうというやり方です。セミナーや研修などでは行われている方法です。
配布資料を配るタイミングを考える
配布資料を配るタイミングは悩むところです。よくあるのは、事前にメール等で配布しているケース、受付で手渡すケース、事前に席に置かれているケースなどです。事前にメール等で配布するケースですが、当日のプレゼンの内容を理解するための、事前情報として読んでおいてもらいたい資料を配布する、というのはいいでしょう。
またプレゼン内容があまりに難しく、1度聞いただけでは理解できないので予習が必要、という場合もいいでしょう。ただ、そんな難しいプレゼンはあまり聞く気になれませんが。
プレゼン中に配った方が効果的な資料もある
受付で手渡ししたり、事前に席に置かれていたりするケースですが、たとえば30分前に会場入りした聞き手はプレゼン開始までどのような行動をとるでしょうか。おおかたの場合、配布された資料を読みます。つまり、その時点でプレゼン内容がネタバレしてしまうということになるのです。
聞き手が事前に配布資料を読んでしまうことにリスクがある場合には避けた方がいいでしょう。その場合、聞き手に目を通してもらいたいタイミングで配布するのが一番です。
「では、今お話しした内容の詳細を資料で確認したいので、これから資料を配ります……」と言って配るのです。
逆に言えば、プレゼン開始前に読んでもらいたい資料がある場合には、配布しておくといいでしょう。それは新製品のパンフレットかもしれませんし、プレゼンターのプロフィールかもしれません。プロフィールを読んでもらえば、今日のプレゼン内容を語るにふさわしい人であるということを理解してもらえます。
いずれにしても、プレゼンターのあなたにとって、どのタイミングで配布するのが最も適しているのかを判断することです。
話を論理的にするプレゼンの基本構成
短時間で正確にメッセージを伝えるには、ホールパート法という論理構成でプレゼンを組み立てると簡単です。
ホールパート法 Whole → Part → Whole
Whole(全体を予告する)
まず、今日のプレゼンの全体の内容を予告します。
「今日はこの3点についてお話しします。1つ目は~、2つ目は~、3つ目は~」
こうすることで、聞き手も「いつになったら自分の聞きたい話になるのだろうか」とイライラすることもありません。
Part(本論を詳しく話す)
ここで、各論について細かく話をします。このPartがプレゼンの中で最も重要な部分になります。そして、この各論部分についてはPREP法を使って話を組み立てるといいでしょう。
まず、結論(Point)を話し、次に理由(Reason)を話します。そして聞き手の理解を深めるために具体例(Example)を話し、最後にもう一度結論(Point)を話すというやり方です。
R(理由) 「こちらがその根拠です」
E(具体例)「実は、他業界ですがA案を採用して次のような実績があります」
P(結論) 「だから、私はA案しかないと考えています」
こうして1つ目の話が終わったら、2つ目、3つ目もPREP法で話を進めます。
Whole(まとめと主張をする)
話をまとめ、聞き手の行動を促すために、主張をします。
「以上になります。今日はこの3点についてお話ししてきました、1つ目~、2つ目~、3つ目~……。ここまで私の話を聞いて納得いただけたことでしょう。ぜひ、わが社の新製品の導入をお願いします!」

プレゼンテーションのコツ① スライドの切り替え方
PowerPointで作ったスライドを、聞き手に対してどのように説明していけばいいでしょうか。わかりやすいスライドが、さらにわかりやすくなる話し方テクニックを紹介します。
「見せて」から「話す」
まず、スライドをスクリーンに投影します。そして、そのスライドの内容を聞き手に見せてから話を始めます。「見せて」から「話す」ということです。
細かくステップに分けて見てみると、このような流れになります。
ポイントは Step1 ~ Step3 の「スライドを見せる」ということと、Step4 ~ Step5 の「話す」ということを時間差で行うということです。Step3とStep4 の間には、沈黙つまり“間”を作ります。
なぜなら、聞き手にスライドの内容を理解してもらう時間が必要であるということと、プレゼンターが聞き手の目を見るための時間も必要だからです。
一言だけ書かれたスライドの場合だけでなく、もう少し長い文章や図、写真、グラフなどの情報が盛り込まれているスライドでも同じことです。この原則はスライドを使ったプレゼンにおいては共通したやり方です。
また、アニメーションを使ったスライドの場合に多いのですが、沈黙するのが怖いという理由で、アニメーションが動いている最中に話を始めてしまう人がいます。
でも、これは止めてください。
たとえば、売上のグラフをアニメーションを使って説明する場合、グラフの数字が全部表示されてから話し始めてください。
聞き手はまず数字の意味を理解しようとしています。それからでないと、いくらプレゼンターが話をしたところで、聞き手の耳には入らないのです。
「話して」から「見せる」
「見せて」から「話す」というのが基本形ですが、それだけですとあまりにもワンパターンです。そこで、「話して」から「見せる」というテクニックも覚えておくといいでしょう。
ステップに分けて見てみると、このような流れになります。
話をしてから、その話をさらに説得力のあるものにするため視覚効果(スライド)を使うのです。
プレゼンにおいては、話が主であり、スライドが従だとすると、本来はこの「話して」から「見せる」順番の方が正しいのかもしれません。
同じスライドを何度も見せる
話すなかで意図的に前のスライドに戻るというテクニックもあります。
プレゼン中に、重要なキーワードを何度も口にすることで、聞き手に印象付けるのと同じように、重要なスライドは何度も見せることで聞き手の記憶に残りやすくなります。
「みなさん、何度も言いますけど、やはり結局これですね!」と言って、複数回同じスライドを見せることで、聞き手は「何度も見せているスライドなら重要なのだろう」と解釈してくれます。
プレゼンテーションのコツ② 説得力を上げる6つのテクニック
プレゼンの上手い下手は、人間力×内容力×表現力の総合力で決まります。中でも表現力はテクニックですから、今からでも十分に身につけることができます。
ものごとを人に伝えるとき、同じ内容のことでも、ほんの少し言い方を変えるだけで抜群の説得力が出ます。たとえば、以下のような文言がプレゼンのなかに出てきたとしましょう。
「人は何かを得る喜びより、何かを失う悲しみの方に強く反応するものなのです。ですから……」
聞いてみると、確かになんとなくそのような気もしますが、今一つ信ぴょう性を感じられません。この文章の言い方を変えて、聞き手の心に刺さる方法にしましょう。
事例(具体例・体験談)を話す
事例は、あなたが実際に体験したことだけでなく、人から聞いた話でも構いません。ただ、聞き手の共感を得られそうなものを選ぶといいでしょう。
こうして自分の体験談を話した後、
と続けることで、聞き手の納得感が高まります。
数字・データを話す
客観的な数字・データは、話の裏付けとしては抜群の効果を発揮します。
営業などでは、「これまで500社に導入頂いているシステムです」「5年連続で販売台数第1位の商品です」といった、定量的な根拠を示すと説得力が増します。
権威者の裏付けを話す
学問の知識や、専門家の研究を引き合いに出すと、説得力が増します。
聞き手に考えてもらう
その場で聞き手に考えてもらい、答えを導き出すという方法も有効です。あなたが証拠を示すのではなく、聞き手自身の考えが証拠となります。
実演・実践する
聞き手に想像してもらうだけでなく、その場で実演・実践してみるという方法もあります。
10万円をもらって嬉しい様子と、10万円を落として悲しい様子をその場で演じてみせることで、聞き手はよりリアルにイメージすることができます。スーパーの実演販売は、まさにこの手法を使っているわけです。
格言・名言・ことわざを引用して話す
格言・名言・ことわざを引用することで、聞き手は違和感なくあなたの話に引き込まれます。こうした言葉を引用することで、あなたの話に重みが加わります。
聞き手にとって馴染みのある人物、たとえば社内でのプレゼンであれば、先代社長が残した言葉などを引用するのも効果的です。
「『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』ご存知、福沢諭吉の『学問のすすめ』の一節です。ですから、私たちは……」
プレゼンスキルの向上に役立つ本
この記事内容は車塚元章さんの書籍『プレゼンできない社員はいらない』をもとに編集しています。記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。
プレゼンできない
社員はいらない
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車塚元章
株式会社ブレイクビジョン代表取締役(http://www.breakvision.co.jp/)
新日本証券株式会社(現 みずほ証券)を経て、経営コンサルティング会社に入社。戦略立案、問題解決プロジェクトに携わり、研修講師などもつとめる。1996年、経営コンサルティング会社を設立し、代表取締役に就任。企業の経営問題を解決するスペシャリストとして、たびたび新聞や雑誌等で取り上げられ、講演なども行う。主な研修テーマは、プレゼンテーション研修/ビジネスコミュニケーション研修/ロジカル問題解決力研修/ファシリテーション研修など。
【参考】車塚元章.プレゼンできない社員はいらない