この記事では、東大病院医師 森田敏宏さんが著書『東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方』で解説している、身近な場面ですぐに使えるモチベーションアップの方法「ワンステップ・メソッド」をご紹介します。

【書籍】『東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方
【著者】森田敏宏 
医学博士

ストップウォッチではじめるモチベーションアップ

簡単にモチベーションを高める方法「ワンステップ・メソッド」の軸となる「時間計測」についてご紹介していこうと思います。

といっても、やり方は極めて簡単です。まず、手元にストップウォッチを用意してください。時間が計測できるものなら何でも構いません。ただし、一日中使うことを考えると、腕時計タイプで使い勝手のいいものがお勧めです。私はマラソンをやっているので、マラソン用のラップタイム(10 キロ走る際などに測る1キロごとのタイム)が測れる時計を使っていますが、これがとても便利です。

さて、ストップウォッチが用意できたら作業時間の計測を行います。なるべく多くの作業を計測します。特に、あなたが今までとても面倒だと思っていた作業の時間を計測してください。私の場合だと、朝シャワーを浴びて、その後髪を乾かし、髭をそり……といった一連の作業がとても面倒でした。そこでまず、これらの作業を計測しました。その他にも駅まで歩く時間、書類を1枚仕上げるのに要する時間など、なんでもいいので計測してみましょう。そして、計測を始めたらとにかく作業に集中します。ポイントは、なるべく短時間で仕上げるようにすることです。

ご褒美は自己ベスト更新

やる気を上げるためにはご褒美を設定するのがポイントです。そして、ご褒美は必ずしもゴージャスなものでなくても構いません。それでは、何をご褒美にするのがいいいでしょうか。

ワンステップ・メソッドでは、いつでもどこでも用意できて、しかも効果的なご褒美を用意しました。それはズバリ、自己ベスト更新です。測定したタイム自体を自分のご褒美にするのです。これだと何も準備はいりません。必要なのはストップウォッチ付きの腕時計だけです。

マラソンでは、目標タイムを設定します。フルマラソンで4時間を切るとか、10キロ走で50分を切るとか、自分の目標あるいは、自己ベスト更新を目指します。そして、設定したタイムを上回れたら達成感と自己ベスト更新というご褒美が与えられるのです。これを日常の作業に応用しようというわけです。この方法はシンプルですが、結構有効です。可能なら手帳などにタイムを記入するとベターでしょう。

スピードをあげるほど脳は活性化する

このように書くと、「作業はゆっくりじっくりやったほうがいいんじゃないか」という反論が出るかと思います。しかし、ゆっくりやるのはよくないのです。私の場合、経験的にこれを察知し、とにかく計算なども素早くやっていましたし、ミスも少なかったのです。

最近では脳科学が進歩し、このような事象も医学的、科学的に説明できるようになってきました。たとえば、functional MRI といって、MRI(磁気共鳴装置)を用いて脳の血流を測定する方法を用いた以下のような実験があります。

被験者は、モニターに映った自分の手を見ながら作業します。自分の手の動きがタイムラグなしで映る場合と、1秒遅れて映る場合、そして2秒遅れて映る場合で、脳の活性化がどうなるか調べました。この実験によると、タイムラグがないほど脳は活性化し、逆に間延びするほど脳の活性度は下がったそうです。

パソコンを操作する場合にも同じような状況をしばしば経験すると思います。パソコンの調子が悪く、反応が遅くなると、なんだか頭が冴えない気がしませんか? 逆にパソコンの反応がいいと、すごく快調に仕事が進み、頭が冴えた感じがします。結論としては、スピードを上げたほうが集中力もアップして、ミスも減るということです。しかもワンステップ・メソッドならやる気もアップして、一石二鳥以上の効果が得られます。

時間を計れば無駄に気づくことができる

また、私がワンステップ・メソッドを勧めるもう1つの理由は、時間を計測し、時間短縮を目指すことで、それまで気づかなかった無駄に気づくことができるからです。ふだん何気なく作業をしていると、時間の無駄というのは意外と気づかないものです。

たとえば私の場合ですと、朝シャワーを浴びて、髪を乾かし、ヒゲを剃るといった一連の作業をしますが、作業と作業の間に何をするでもなく、ぼーっとした時間があることに気づきました。筋トレをするときなどもそうです。たとえばベンチプレスでバーベルを持ち上げるとします。握る位置を入念に調整したり、呼吸を整えたり……きちんと計測してみると、とりかかるまでに結構な時間をかけてしまっていることがわかります。

こういったちょっとした行動は、ふだんなかなか気づくことができません。これが積み重なっていくと、大きな時間のロスになってしまうのです。このようなムダな部分が、ワンステップ・メソッドによって見えてきます。

「パブロフの犬」になってモチベーションアップへ

あなたは、「パブロフの犬」というのをご存知でしょうか。有名なので名前は聞いたことがあるかと思います。生理学者のイワン・パブロフが行った「条件反射」に関する実験です。ベルを鳴らして餌をあげることを繰り返すと、犬はベルを鳴らすだけで「条件反射」で唾液が出るようになるというものです。「条件反射」と言えば「パブロフの犬」というくらい、有名な実験です。

ワンステップ・メソッドでは、ストップウォッチを押した瞬間に、条件反射で集中モードに入るようにします。パブロフの犬のごとく、ストップウォッチを押すことで集中できるようになることができるでしょう。そんなことができるのか? と疑問に思われたでしょうか。しかし、実際我々はこのような「条件反射」というか、「モードの切り替え」をしばしば行っています。

たとえば、学校の授業。休み時間にどんなにダベっていても、チャイムが鳴ったら授業を受ける態勢に切り替わりますね。我々ドクターは手術をする場合、手術着を着て、手術用の手袋をはめた途端にモードが切り替わり、「手術モード」になります。狂言和泉流の野村萬斎さんは、このようなモードの切り替えを「型」と呼んでいました。

ゴルフのタイガー・ウッズがしばしば見せる、猛烈な追い上げ。有名な「タイガー・チャージ」ですが、タイガーはこの時の状態を「ゾーンに入る」と表現しています。もう1つついでに。石ノ森章太郎さんのアニメで『サイボーグ009』というのがあります。私と同年代の方はご存知かと思いますが、このアニメの主人公009 は、奥歯を噛むと「加速装置」というのが起動して、急に動きが速くなります。

ながながと例を挙げましたが、イメージがつかめたでしょうか?このように一気にモードを切り替えて「集中モード」に入る。これがワンステップ・メソッドの特徴です。

従来の方法に欠けていた「時間密度」

さて、ここまで時間管理とご褒美の関係、そしてワンステップ・メソッドの具体的な手法について述べてきました。どんなに綿密に予定を立てて、やるべき事をリストアップしても、やる気と集中力を高めるためのご褒美がなければ人は動けないのです。そして、それを解決するのが「時間(自己ベストを更新し続けること)をご褒美にしてしまう方法」だ、というのがここまでの説明です。

ワンステップ・メソッドをより上手に実生活の中で活かすには、時間を意識することが必要になってきます。従来の時間管理の方法では、全体の時間の中で、その作業に何時間あてるかを問題にしていました。しかし、本当はそうではないのです。時間の本質を考えずに、ただスケジュールの立て方を工夫しても結果は変わりません。重要なのは、「時間密度」なのです。

同じ1時間でも、密度が違えば成果は全然異なります。たとえばプロ野球の試合で、ピッチャーの投球間隔が今より3倍長かったらどうなるでしょうか。ものすごく間延びした試合になりますね。選手も集中力が落ちますし、パフォーマンスも低下するでしょう。

あなたの仕事がはかどらないときというのは、これと同じようなことをしているのです。

あなたがピッチャーだとすれば、キャッチャーのサインに延々と首を振り続けているようなものです。ですが、逆に投球間隔を短くすれば、密度は高まりますね。これが時間密度の考え方です。より効率的に、より多くの成果を生み出すには、時間密度をどうやって高めるか? これを追求することなのです。普通にやれば1時間でできる仕事を、だらだらと2時間でやっていたとします。そんなときは、ご褒美をうまく設定して、きちんと1時間でこなせるようにします。

でも、これでも本来なら普通のペースです。ここでさらにペースを上げる、すなわち時間密度を高めるためにはもう一工夫必要です。何かというと、それはやはり「ワンステップ・メソッド」を徹底することなのです。

さいごに

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