この記事では、東大病院医師 森田敏宏さんが著書『東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方』で解説している、モチベーションが上がらない原因とその対策をご紹介します。

【書籍】『東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方
【著者】森田敏宏 
医学博士

「モチベーションが上がらない!」を生み出す2つの原因

なぜ人は仕事をやりたくないと思うのでしょうか?多くの場合、あなたが作業に取りかかるのを邪魔しているのは「面倒くささ」です。そもそも、人が何かを「面倒くさい」と思う原因は主に2つあります。

心理的時間と物理的時間のギャップ

そのひとつが、物理的時間と心理的時間の長さにある隔たりです。物理的時間、心理的時間とは何でしょうか?物理的時間とは、実際に時計で測った時間、今パソコンや携帯電話などに表示されている時間のことをいいます。一方の心理的な時間とは、あなたが心の中で見積もっている時間のことです。

我が家の例を挙げてみましょう。私の住まいは「タウンハウス」といって昔の長屋のような集合住宅形式になっているため、郵便受けが戸外にあります。そのため、新聞を取りにいくときはドアを出て、郵便受けまで10m程歩いていきます。実際に所要時間を測ってみると、1分ほどしかかからないのですが、心理的には5分くらいかかるのではないかと思っていました。このぐらい、心理的時間と物理的時間は乖離しているのです。

普段私たちは、こうした作業にいちいち時間計測などしません。勝手に頭の中で「このくらいだろう」と判断していますが、実はこれが間違っていることが多いのです。そのために「面倒くさい」と思って、やらずに先送りしていることがたくさんあるのです。

ステップ過多

そして、もうひとつの重大な要因がステップ過多です。これはどういうことかというと、何か作業をする時にステップが多ければ多いほど面倒くさくなるということです。たとえば、朝ジョギングをするとします。目的は走ることですが、実際それに取りかかるまでに多くのステップがあります。

① パジャマからジョギングウェアに着替える
② iPod を装着する
③ 携帯や財布などを入れたポーチを装着する
④ストレッチをする
⑤玄関に行く
⑥シューズの紐をゆるめる
⑦シューズをはく
⑧シューズの紐をしめる
⑨ iPod を作動させる

……などなど、こんな具合に意外に多くのステップが必要なのです。こうしたステップが多ければ多いほど、心理的なハードルは高くなります。そして、行動するのが面倒くさくなるのです。面倒なことが増えるということは、それだけあなたのストレスが増えることを意味します。

脳科学には「ワーキングメモリー」という概念があります。これは将棋で言えば手順のようなものです。詰将棋でも3手詰めだと比較的易しいように、作業の手順も3つくらいまでなら難なく記憶できます。ところがこれが5つに増えると、少し大変になります。短期記憶といって、短期間覚えておく数としては7 つくらいが上限と言われています。

したがって、脳科学的に見ても覚えておくステップが多いほど脳の負担が増えることになります。こうした脳の負担、ストレスを減らすためには、ステップを減らすことが一番です。もうひとつは面倒くさくならないような工夫をすることです。

心理的時間と物理的時間を統一する

前述したように、あなたが心の中で予測している時間と、実際にかかる時間は大幅に乖離していることが多いのです。たとえば、駅まで歩く時間。なんとなく、「7〜8分かな?」と思っていたのが、実際に歩いてみると10 分以上かかったりします。しかも途中に信号が多いと、信号で止まる回数、止まっている時間によってタイムが大幅に違ってくることがわかります。このことに気づけば、信号が青に変わるタイミングを見計らって早歩きをしたり、危なくない範囲でダッシュしたりすることで時間を短縮できるということが見えてきます。つまり、日々の行動の物理的時間を知り、自分の心理的時間とのずれを是正する必要があるのです。

人間の時間感覚がいかに曖昧かということが、日常的に時間を測ることではっきりとわかってきます。しかしそれをせず、曖昧な心理的時間に頼ったままでは、時間の効率化など夢のまた夢でしょう。

たとえば、待ち合わせの時間がいい例です。ある人は、移動の時間を多めに見積もり過ぎ、必要以上に早く待ち合わせ場所に行きます。かと思えば、「このくらいで間に合うだろう」とぎりぎりの予測を立てて、結局遅刻する人もいます。これらもやはり、心理的時間と物理的時間が乖離している結果生じるものなのです。すべての時間を計測していくことで、このような乖離を減らすことが可能となり、ひいては時間管理が楽になるのです。

弁護士・公認会計士・通訳の資格三冠王で時間管理の達人の黒川康正さんの著書を以前読んだことがあります。その中にいろいろな細かい作業の時間をすべて計測しろ、ということが書かれていました。かなり細かいことを言う人だなと思っていましたが、今では私もこの話に納得しています。

ステップ数の多さも時間を測ると大したことはない

何かの作業に取りかかるまでのステップ数が多いと、面倒くさく感じる、ストレスが増えるという話をしました。しかし、ステップが多いことと、それに要する時間は必ずしも比例しません。ここでも心理的時間と物理的時間の乖離がしばしば見られます。

たとえば、空港でのチェックイン。ポケットに入っている金属類を出してトレイに載せなければいけません。私の場合、ポケットにいろいろなものが入っているので、いつもすごくストレスに感じていました。財布、手帳、鍵、携帯、名刺入れ、腕時計、そしてカバンからはノートパソコンを出して……。ストレスの原因は、まさしくステップ数の多さにあります。ところが実際に所要時間を測ってみると、1 分程度しかかかっていないことがわかりました。

それまでは、自分の心理的時間は5分位と見積もっていたのです。物理的時間に対しておよそ5倍の体感時間。それほど長く感じられたわけです。しかし、実はたった1分しかかかっていないということが一度わかると、まったくストレスではなくなります。むしろ、いかに速く処理するかを目指すと、逆に楽しくさえなるから不思議なものです。

このようにステップ数が多くても時間はたいしてかからない作業というのは沢山あります。あなたもそれをたくさん見つけてストレスを減らしましょう。

目の前の一歩に集中する

オリンピックの水泳で2大会連続金メダルを獲得した北島選手。彼のメンタル面の指導をした脳外科医の林成之先生によると、水泳選手は「もうすぐゴールだ」と思うと、スピードが落ちてしまうそうです。これを脳科学的に説明すると「もうすぐゴールだからスピードを緩めていいよ」という指令を脳が出しているということになります。そこで、「泳ぎ終わって自分のタイムを確認するまで気を抜かないように」と指導したところ、選手のパフォーマンスが向上したそうです。

これは、仕事でも勉強でも同様です。何事も先をあれこれ考えるとパフォーマンスが低下します。ステップ数の多さに目がいくと、「複雑だ」「難しい」「大変だ」ということになったり、あるいは「もうちょっとで終わりだ」と余計なことを考えたりすると、パフォーマンスが落ちてしまうのです。

目の前のタスクに集中しベストを尽くす

このことからもわかるように、どれだけステップ数が多いことでも、パフォーマンスを上げるためにはとにかく目の前の作業に集中することです。「目の前の一歩」なのです。はじめは1秒や2秒しか差がでないかも知れません。しかし、たった1秒だとしても長い間には大きな差になります。時間だけでなく、あなたの集中力ややる気は長い間に大きく変わるはずです。

カジュアル衣料品で急成長を続けるユニクロはご存知だと思います。このユニクロのレジ。普段何気なく買い物をしていますが、大勢並んでいるわりにあまり待たされずに買い物ができると感じたことはありませんか?実は、彼らスタッフはいかに短時間で商品を包装し、袋に詰められるかをストップウォッチで計測しているのです。このような努力の結果、短時間でより多くのお客さんがさばけ、売上も上昇するのです。

あなたが、ビジネスや勉強で最高のパフォーマンスを目指したいのであれば、当然このような努力が必要でしょう。まずは先のステップではなく、今、目の前にあるタスクに集中し、ベストを尽くす。ここから「成功への一歩」が始まるのです。

さいごに

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